消費税インボイス制度の導入に伴い巷でよく言われるのが「消費税を払っていない業者が取引から締め出される」という話。これって一体どういうことなのか確認しておきましょう。

2割の課税事業者が免税事業者との取引を敬遠する?

先月日本商工会議所が「消費税インボイス制度」に関する実態調査結果を公表しました。

「消費税インボイス制度」と「バックオフィス業務のデジタル化」等に関する実態調査結果について – 日本商工会議所

この中のポイントのひとつが

課税事業者の2割超が免税事業者との取引を見直す意向。

とされています。

課税事業者、つまり消費税を納税している事業者の2割が、消費税を納めていない事業者との取引を今後見直す方向で検討している、という内容です。

この2割という数字を多いとみるか少ないとみるかは難しい問題ですが、同調査の中で

約6割の事業者がインボイス制度導入に向けて特段の準備を行っていない。

という結果もあることからすれば、この割合は今後更に増加する可能性が高いといえます。

広告

インボイス導入により免税事業者が敬遠される理由

そもそもインボイスの導入が、なぜ免税事業者との取引の見直しにつながるのか?

様々な理由がありますが、次の3点が大きく影響していると考えます。

  1. 免税事業者との取引により消費税の納税額が増える
  2. 免税事業者との取引は事務処理が面倒になる
  3. 消費税分を値下げ要請できるか不明

順番に確認していきましょう。

消費税の納税額が増加する

簡単な試算をしてみましょう(インボイス導入後の経過措置は考慮しません)。

売上が110(内、消費税10)で仕入が77(内、消費税7)という会社があり、仕入はすべて免税事業者から行っているものとします。

税抜経理を採用している場合、利益は

100-70=30

となります。

仮に実効税率(利益に対する法人税・住民税・事業税の率、と理解してください)が30%とすると、インボイス導入前は

  • 法人税:30×30%=9
  • 消費税:10-7=3

となり、合計で9+3=12を税金として納税することになります。

ところがインボイス導入後は、支払った消費税を消費税額の計算上差し引くことができないので、利益を計算する上では経費として扱います。

そのため利益は

100-70-7=23

となります。

利益は減る一方、仕入時に支払った消費税を差し引くことができないため、税金は、

  • 法人税:23×30%=6.9
  • 消費税:10-0=10

となり、合計で6.9+10=16.9となります。

インボイス導入前後で比較してみると、

インボイス導入前 インボイス導入後 差額
法人税等 9 6.9 ▲2.1
消費税 3 10 +7
合計 12 16.9 +4.9

となり、法人税は減るものの消費税が増えることにより、このケースでは総額で税金が増えます。

この試算と同様の状況にある会社の場合、免税事業者との取引を敬遠しようと考える可能性があります。

事務処理が面倒になる

インボイス導入後は、受取った請求書等がインボイスに該当するかどうかのチェックが必要となりますが、更に厄介なのがインボイス導入後6年間続く経過措置です。

これは、インボイス導入後、免税事業者からの仕入であっても支払った消費税のうち、

  • 2023年10月~2026年9月まで:80%
  • 2026年10月~2029年9月まで:50%

を消費税額を計算する際に控除できるという制度です。

「部分的に控除できるのなら、その間は免税事業者との取引をすればいいのでは?」

と考える方もいるかもしれません。

ところが事務処理を行う側からすると、インボイスとそれ以外を区分けして、しかも消費税を正しく計算出来るようそれぞれ異なる方法で記帳するのは非常に手間がかかります。

しかもその状態が6年間も続くとなると、事務負担は一時的とはいえず決して軽いものとはいえません。

こうした理由からも免税事業者との取引が敬遠される可能性があります。

値下げを要請できるかわからない

インボイス導入後の取扱いでハッキリしないことのひとつに

「免税事業者が消費税を請求できるのか?」

があります。

明確に書かれたものはありませんが、税務署は

「消費税法には決まりはなく、あくまで事業者間の値決めの問題。両者で話し合って決めてください。」

というスタンスのようです。

その一方で特に大企業などの場合、インボイスの導入を理由として消費税分の値下げを免税事業者に求めることが独占禁止法や下請法などの違反にならないか注意しておく必要があります。

2021年3月までは「消費税転嫁対策特別措置法」という法律があり、

「とにかく消費税はきちんと転嫁しなさい」

という考え方でした。

インボイスの導入後は

「消費税を納めていない人からの請求に対しては、消費税は控除できない」

となります。

これに伴い免税事業者が消費税を転嫁すべきかどうか、逆に言えば免税事業者に対して値下げを要望することが問題になるのかどうかについて、私の知る限りでは明確な指針が現状ではありません。

こうした状況では免税事業者に対して消費税分の値下げ要望すること自体にリスクがあるため、「リスクがあるくらいなら免税事業者と取引しない」となる可能性があります。

※免税事業者が消費税を転嫁できるかどうかという点については、まだ統一見解がなく、異なる意見もあることは承知しておりますので、その点申し添えておきます。

広告

すべての免税事業者が影響を受けるわけではありません

インボイス導入後に免税事業者との取引が敬遠される理由について整理してみました。

免税事業者の方に正しく理解して欲しいのは、

「すべての免税事業者が今回の内容に該当するわけではない」

という点です。

あくまで消費税を納税している事業者の方と取引している場合に、上記のような問題が生じます。

例えば、一般消費者の方のみに商品を販売している小売業であれば、基本的には影響を受けることはありません。

(厳密に言えば、こうした場合でも大企業の従業員が立替精算で利用する際に敬遠する可能性は残りますが)

免税事業者の方については、

自分の取引先の整理(消費税を納税しているであろう事業者が多いかどうか等)

を行った上で、本記事のような影響を受ける可能性があるかを確認した上で、どのような対応を取るかご検討いただければと思います。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
広告