インボイス制度の開始後、取引内容によっては毎月支払いがあっても、その都度請求書を貰えないケースもあります。こうした場合の対処法を確認しておきましょう。

請求書をもらえないけどどうしよう・・・

インボイス制度が始まると消費税の納税義務者はインボイスを保存しておく必要があります(簡易課税の場合はなくても大丈夫などいろいろありますが、細かい点は割愛します)。

インボイスといっても、従来から受け取っている請求書や領収書に必要事項が書いてあればインボイスとなります。

ところが取引内容によっては、毎月支払いがあっても請求書や領収書を発行してもらえないケースがあります。

例えば

  • 事務所や工場などの家賃
  • サブスク契約でのサービス提供
  • 税理士報酬などの専門家報酬(毎月定額請求のケースなど)

などです。

インボイスがもらえないとなると、自社が納税すべき消費税額が増えてしまいます。

「さて困った」ということで大家さんに

「インボイスがないと困るので、これからは毎月請求書を出してください」

とお願いしても、対応してくれないケースが多いでしょう。

こうしたケースにおける対処法について、国税庁のインボイス制度に関するQ&Aに解説があります。

今回はこの内容について確認しておきましょう。

請求書などをもらえない場合の対応方法

複数書類をセットでインボイスとする

今回取り上げたケースについての解説は、インボイス制度Q&A問79にあります。

事例としては

  • 事務所を賃借
  • 家賃の支払いは口座振替
  • 不動産賃貸契約書はある
  • 請求書などはもらっていない

というもので、この場合にどうすればインボイスを保存していることになるかというものです。

こうしたケースでもインボイスの保存は必要とした上で、インボイスについてはひとつの書類で完結する必要はないとされています。

例えば請求書に必要な事項がすべて書いてないのであれば、不足している情報が書いてある別の書類とセットで保存しておけばいいですよ、ということです。

インボイス(簡易インボイス除く)に書いておく必要があるのは

  1. インボイスを発行する事業者の氏名又は名称・登録番号
  2. 取引年月日
  3. 取引内容(軽減税率対象の場合はその点がわかるような表記)
  4. 税率ごとに合計された取引金額(税抜・税込どっちでもOK)・適用税率
  5. 税率ごとの消費税額
  6. インボイスを受取る相手の氏名又は名称

の6項目です。

今回の事例では

  • 賃貸借契約書(2を除く全ての項目が記載されているもの)
  • 通帳(口座振替があったこと(上記2)を確認できるもの)

をセットで保存しておけばインボイスを保存していることになるとされています。

インボイス対応として契約書を結び直す必要はあるか?

今回の事例では賃貸借契約書に大家さんのインボイス登録番号が記載されていますが、インボイス制度開始前に結んだ契約であれば登録番号の記載がないケースがほとんどです。

では、わざわざこのために契約書を結び直すのかというと、この点については(参考)において

令和5年9月30日以前からの契約について、契約書に登録番号等の適格請求書として必要な事項の記載が不足している場合には、別途、登録番号等の記載が不足していた事項の通知を受け、契約書とともに保存していれば差し支えありません。

とされています(太線は筆者)。

インボイス制度開始前に結んだ契約であれば、大家さんなどから

「ウチの登録番号はこれですよ」

といった連絡を書面でもらい、その書面を契約書などと一緒に保存しておけば問題ないということです。

もちろんインボイス制度開始を機に契約書を結び直しても問題はありませんが、そこまでしたくないのであればこうした対応が可能です。

この方法が使えるの家賃の支払いだけ?

今回のQ&Aで取り上げられているのは家賃の支払いですが、この解説は

通常、契約書に基づき代金決済が行われ、取引の都度、請求書や領収書が交付されない取引

を対象としています。

契約書に基づいて請求が行われ、請求書などが発行されない取引であれば対象となります。

つまり最初に挙げたサブスク契約や士業など専門家への支払いについても、これに当てはまれば同じ方法で対応可能ということです。

取引先が登録をやめる場合には注意が必要

この方法を使う際の注意事項として

このように取引の都度、請求書等が交付されない取引について、取引の中途で取引の相手方(貸主)が適格請求書発行事業者でなくなる場合も想定され、その旨の連絡がない場合には貴社(借主)はその事実を把握することは困難となります

とあり(太字は筆者)、いつの間にか大家さんなどがインボイス登録をやめてしまっていても、気付かない可能性がありますのでその点には注意が必要です。

今から対象となる取引の洗い出しを

インボイス制度の開始までとうとう1年を切りました。

「取引先からインボイスとして認められる請求書等を受け取って保存するだけ」であれば特に問題はありませんが、取引内容によっては今回のような複数書類をセットにする必要があるかもしれません。

何をインボイスとして保存するかというのは、インボイス制度への対応にあたってのひとつのポイントとなります。

制度開始まで1年を切った今、こうした取引がないか洗い出しておくべきでしょう。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち、7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。