電子帳簿保存法の改正による電子取引のデータ保存は本当に頭の痛い問題です。最近考えていることについて、少し整理してまとめておきます。
目次
国税庁がQ&Aで提示していている保存方法は・・・
2022年1月1日以降の電子取引については、紙による保存が認められず電子データのまま保存が必要ということについて、何度かこのブログでもお伝えしてきました。
中小零細企業や個人事業主の場合、そのためだけに文書管理システム等を導入するのは負担が大きく、そうした場合の対応方法として国税庁は「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(以下「国税庁Q&A」)の問12の中で、以下2つの方法を例示として挙げています。
- ファイルを保存する際にファイル名に「取引日・取引先名・取引金額」を含めて保存する
- ファイルは連番で保存し、別途索引簿をExcel等で作成する
※同時に、事務処理規程の備付け等も必要となります。また判定期間の売上が1,000万円以下の場合は取扱いが異なります。
なぜこんな面倒なことをしないといけないのか?その理由は「検索要件」といわれる以下の条件を満たす必要があるからです(国税庁Q&A問31)。
(1)取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先を検索の条件として設定することができること。
(2) 日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること。
(3) 二以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること。
但し、これも別の取扱いがあって、
『税務調査の時に、税務署の人からデータまるごとダウンロードさせていわれたときに、「いいですよ」と言えるのであれば、(2)と(3)はできなくても構わない』
とされています。
つまり、取引日・取引金額・取引先を検索キーとして検索できれば、
- 日付・金額について、例えば「2022年1月1日~3月31日の期間のデータ」といった検索はできなくてもOK
- 「A社 かつ 10万円」といった検索条件で検索できなくてもOK
ということになります。
つまりまとめてダウンロードできるようにしておけば、「取引日」または「取引先」または「取引金額」を検索キーとして検索できればOKと理解しています。
※最後の点、どこにもハッキリ書いてないので、「それは違う」というご意見あれば教えていただけると助かります。
こうした取扱いも踏まえると、わざわざ索引簿をつくるより、保存時にファイル名を変えた方がまだラクなんじゃないか、というのが現時点での私の意見です。
電子取引データを保存する際のフォルダ構造について少し考えてみる
電子取引保存の際にフォルダ分けは必要なのか?
国税庁が提示している保存方法を説明する際に、ひとつ省略した点があるのですが、国税庁Q&A問12でファイル名を変更して保存する、という項目の後に、
2 「取引の相手先」や「各月」など任意のフォルダに格納して保存する。
という説明が書かれています。
個人的な意見としては、どうせ検索するんだからフォルダはなくてもいいのでは、と考えています。
言い方は悪いかもしれませんが、国税庁が提示する方法で保存しても、実際の実務で活用できるとはあまり思えず、あくまで税務調査にきちんと対応するための対応となってしまっています。
税務調査は年度ごとに行われますから、例えば3月決算の会社であれば「202203」といったフォルダを作成して、そこにすべてのファイルを保存しておけば十分じゃないかと。
ダウンロードしたいとの要請があった場合には、そのフォルダのデータをまとめて渡せばよいわけです。
このように判断する根拠は、先ほどの引用の中で「任意のフォルダ」とされていること、及び国税庁Q&Aの問33の中で検索機能を確保するための要件として、
その他、当該保存すべき取引データについて、税務職員のダウンロードの求めに応じることができるようにしておき、当該取引データのファイル名を「取引年月日その他の日付」、「取引金額」、「取引先」を含み、統一した順序で入力しておくことで、取引年月日その他の日付、取引金額、取引先を検索の条件として設定することができるため、検索機能の確保の要件を満たすものと考えられます
と書かれており、フォルダについての言及がない点を挙げておきます。
フォルダ構造についての一私案
個人的には、決算期以外のフォルダは不要と考えていますが、国税庁のやり方ではファイル名の中に不足している情報がひとつあります。
それは「書類の種類」についての情報です。
ファイル名を見ても、それが請求書なのか領収書なのか、それとも見積書なのかといったことはファイルを開いて確認しないとわかりません。
可能性としては低いですが、請求書と納品書が同じ日付で別ファイルとして送られてきた場合、ファイル名が同じとなってしまい保存することが出来ません。
こうした点を考慮すると、あとで自分たちでも使いやすくするために、決算期名のフォルダ(202203など)の下に、例えば「請求書」「領収書」「見積書」「注文書」といったフォルダをつくるのは一つの方法として考えられるのではないかと。
ただ、フォルダを細かく分けると保存するとき大変なので、強くオススメできるものではありませんが・・・。
なぜ仕訳番号をファイル名として認めていないのか?
国税庁が示している代替案は、非常に手間がかかるやり方です。
一回ごとの保存は数十秒かもしれませんが、それが何百件、何千件と積み重なればとてつもない時間を、この対応のために使わなければなりません。
「どうせ今まで紙の書類をファイリングしてたんだから、大して手間は変らないでしょ」という考えで、Q&Aに提示された方法になったのかもしれません。
紙のファイリングの場合には仕訳番号のナンバリングといった作業はあるかもしれませんが、わざわざ取引先名などを請求書に書き込む必要はなく、その分確実に手間は増えています。
ここで一つ疑問なのが、保存する際のファイル名をなぜ「取引日_仕訳番号」といった形式にしなかったのか。
元帳から対象となる請求書等を探すだけであれば、このファイル名で十分なはずであり、紙の保存方法からの素直な移行といえます。
理由の一つとして考えられるのは、今回の電子取引保存、対象として見積書や注文書も含まれているため、すべてに仕訳番号を付すのが難しいと判断したのかもしれません。
ただ、どちらかといえば電子取引による保存が増えていくことを想定して、データ保存された証憑(請求書等)から検索して調査しやすくするためなんじゃないかと考えています。
電子取引のデータ保存については、スクリーンショットでの保存が認められているケースもあり、ファイルの中身まで検索するのは今後も恐らく困難でしょう。
消費税のインボイス制度の導入に伴い、電子インボイスがどこまで普及するかわかりませんが、長い目で見れば請求書などのビジネス書類の電子化は進んでいくことになると思われます。
そのときに、そうした電子データに検索キーが自動的に含まれるようになれば、今回のような不毛な保存処理は無くなるはず、とわずかな期待を寄せていますが・・・。
今回の記事、いつも以上に私の個人的な意見が含まれています。電子取引データの保存方法については、顧問税理士等お近くの専門家にご相談の上でご判断ください。
国税庁Q&Aは公表されたものの、とにかく情報が足りません。ここに書いた内容も妥当かどうか答え合わせができるのは、1年以上先になります。
詳細が見えない中で実務対応を検討していくことになりますので、今回の内容が皆様が電子取引のデータ保存方法を検討する上での参考になれば幸いです。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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