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税理士として仕事をしていて悩ましい事案の一つとして、「給与」と「外注費」の線引があります。最近この点についての地裁判決がありましたので、これをもとにどのような視点でチェックされるのか確認しておきましょう。

自分で「外注費」だと主張しても「給料」とされてしまうケース

大手企業などで、従業員を個人事業主に変更するといったニュースを聞く機会が増えました。

税理士という立場でこうしたニュースを聞くと、

『個人事業主への「外注費」の支払いを、税務署から「給与」と指摘されるリスクはないんだろうか?』

と考えてしまいます。

一般の方からすると、

『契約書作って個人事業主として契約してるんだから、それを「給与」だといわれるなんてありえないでしょ』

と思われるかもしれませんが、税務の世界ではあり得ない話ではありません。

今年に入って、地方裁判所で参考になる判決が出ていましたので、その内容をざっと確認しておきましょう。

地方裁判所の判決では、どのように判断されたのか?

今回参照する判決は、東京地方裁判所で令和3年2月26日に出たものです(TAINS:Z888-2352)。

判例解説をするのが今回の目的ではありませんので(私にその力量があるとも思えませんが・・・)、極力平易な言葉でまとめていきます。

そのため、専門家の方から見ると「粗っぽすぎる」とお感じになる部分があるかもしれませんが、その点はご容赦を。

まず今回の概要を確認しましょう。

  • 塗装工事業等を営む会社(従業員は4~5名、以下「原告」)で、人手が足りないときは外注先を活用
  • 平成27年4月より健康保険・厚生年金に加入
  • 2名の従業員(以下「甲・乙」とします)から、「手取りが減るのは困るので外注先として扱って欲しい」との申出
  • この申出に応じて、「甲・乙」から請求書をもらい、「外注費」として支払い
  • 数年後に(理由は不明ですが)「甲・乙」を再度従業員として取扱い、給与を支払うよう変更
  • 「甲・乙」に支払った「外注費」は消費税の控除対象として、消費税を計算
  • 消費税の修正申告書を提出(理由は不明)したところ、税務署から「甲・乙」への「外注費」は「給与」だとして、消費税や源泉所得税を追加で納税するよう処分を受けた
  • この処分を不服として、国税不服審判所で争ったが認められず、東京地方裁判所に提訴
  • 東京地方裁判所(以下、「地裁」)は「税務署の処分は適法」として原告の訴えを認めず

この判決で確認しておきたいのが、裁判所がどういう点を見て、この支払いは「外注費」ではなく「給与」と判断したのか、という点です。

原告は、ざっくり言うと

『お互いに納得して外注先として契約しているんだから、その点を重視すべきであって、税務署が勝手に「これは給与だ」とかいうのはおかしい』

と主張しましたが、認められませんでした。

判決の中には過去の最高裁判決への言及などいろいろとあるのですが、今回は判断をする際の参考になる基準とされた消費税基本通達1-1-1と、それに照らしてどのような指摘があったかを確認しておきましょう。

消費税法基本通達1-1-1とは以下のものです(太線は筆者)。

(個人事業者と給与所得者の区分)
1-1-1 事業者とは自己の計算において独立して事業を行う者をいうから、個人が雇用契約又はこれに準ずる契約に基づき他の者に従属し、かつ、当該他の者の計算により行われる事業に役務を提供する場合は、事業に該当しないのであるから留意する。したがって、出来高払の給与を対価とする役務の提供は事業に該当せず、また、請負による報酬を対価とする役務の提供は事業に該当するが、支払を受けた役務の提供の対価が出来高払の給与であるか請負による報酬であるかの区分については、雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく対価であるかどうかによるのであるから留意する。この場合において、その区分が明らかでないときは、例えば、次の事項を総合勘案して判定するものとする。
(1) その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。
(2) 役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。
(3) まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。
(4) 役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。

今回のケースでは、最後のところに記載されている4つの基準に照らし合わせて判断がされました。

判断にあたっての指摘事項を整理してみると・・・、

(1)については、

「個人事業主といいながら、受注した仕事を自分で外注に出すこともなかったし、急遽休むことになった場合には、個人事業主でなくて、原告が代替作業員探して手配してたよね。」

(2)については、

「作業時間は8時~5時で、依頼があれば残業も。勤務日数とか従業員のときと何も変わってないよね。もらってる金額も給料のときと大差ないよね、請求している単価も給料のときと一緒だよね。」

「個人事業主なのに、原告以外から仕事を受けたことないよね。」

「原告が従業員に寸志を出したときも、請求書に寸志って書いて請求してるよね。」

(3)については、

「外注なのに、作業が完成してなくても、作業日数に応じて報酬支払ってるよね。納品物が完成できなかったときの負担をどうするかについて、契約書に何も書いてないよね。」

(4)については、

「個人事業主なのに据置式の器具など自分で購入したわけでもないし、手持ち工具程度しか自分で準備してなかったよね。材料も自分で購入してないし、給料もらってたときと状況は変らないよね。」

といった感じになります。

裁判所がこんな軽い言い方をしたわけではありませんが、大雑把に言ってこのような指摘をした上で、「外注費」ではなく「給与」と判断されています。

この4項目のそれぞれの背景にある考え方まで説明すると長くなりますので省略しますが、今回書いたような指摘を受ける状況だと、「外注費」として支払っているものであっても、税務署から「給与」と指摘されてしまう可能性がある、という点をご理解いただければと思います。

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生兵法は怪我の元、不安に感じたら専門家にご相談を

今回の裁判、原告が上告しているかどうか確認できていませんので、今後さらに判例が出てくるかわかりませんが、「外注費」と「給与」を判断するに当たり、どういうポイントが指摘されうるのか確認するのによい事例と判断して取り上げてみました。

一般の方からすると、「なんでこんな話になるの?」という印象を持たれたかもしれませんが、税務の世界では起こりえることです。

今回の記事、税理士の宣伝をするつもりで書いたわけではありませんが、残念ながら税務判断については一般の方では難しい部分があるのも事実。

今回の記事を読んで、自社について不安に感じる部分があれば、お近くの専門家に相談することもご検討ください。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち、7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
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