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「医療費通知」を使った医療費控除。便利なようで意外と不便な一面もあり、電子化への道のりはまだまだ遠いなと感じましたので、少しまとめておきたいと思います。

医療費通知だと原本提出が必要なの??

所得税の確定申告において医療費控除を受ける際に、健康保険組合などが発行する「医療費通知」が一定の要件を満たしていれば、確定申告書の「医療費控除の明細書」の記入が簡単になります。

具体的には、医療費の1件別の明細を入力する必要はなく、以下の赤枠部分だけの記入ですみます。

しかも、この場合は領収書を保管しておく必要もないため、使えるのであれば非常に便利な方法です。

ところが、ひとつだけ面倒な点があって、

「医療費通知」を紙で受け取っている場合には、その原本を税務署に郵送等で送らないといけない

のです。

所得税などの申告書を電子申告で提出する際には、添付書類をイメージデータで送るという方法がありますが、最初はこれで送れるんじゃないかと思ってました。

ところが、イメージデータで送信できる書類は決められていて、リストを確認したものの、その一覧に「医療費通知」といった記載はありません。

e-Taxホームページ:イメージデータで提出可能な添付書類(所得税確定申告等)

さらにここには、

「電子データ(XML形式)により提出が可能な添付書類は、イメージデータで提出できませんよ」

とも書かれていますが、「医療費通知」は対応している健康保険組合であれば、XML形式の電子データを受け取れることになっています。 

そういうわけで、せっかく電子申告で申告書を提出しても、別途郵送で医療費通知の原本を送らないといけないという残念な結果に。

平成30年1月に国税庁が発行した「医療費控除に関する手続について(Q&A)」という資料がありますが、この資料の最後のところにも、

『「医療費通知」(書面)を別途郵送等により所轄税務署に提出する必要があります』

と書かれているので、送らないとダメなんでしょうね。

国税庁:「医療費控除に関する手続について(Q&A)」 より抜粋

ただ、私の周りで聞いたことないんですよね、XML形式の電子データを発行してくれる健康保険組合って・・・。

誰も得をしない現状の仕組み

ネットで検索してみると、XML形式のデータを提供してくれる健康保険組合がないわけではなさそうですが、恐らく全体からするとほぼ一部ではないかと。

そうなると、今の仕組みではほとんどの人にとってメリットがあまりないでしょう。

つまり、

  • 納税者:入力はラクになるが、最終的に郵送処理が発生
  • 税務署:「医療費控除の明細書」を導入して、領収書原本の提出をなくしたのに、医療費通知は変わらず郵送で送られてくる
  • 健康保険組合:XML形式データの提供をするにはコストがかかるので積極的にやりたくない(紙代・郵送費が下がる可能性はあるものの、XML形式への移行・浸透には恐らく時間がかかる)

といった状況です。

健康保険組合が医療費通知をXML形式で提供することについて、強制されているわけでもありませんし、「確定申告に使えるから」という理由だけでは導入するメリットもほとんどないと言えるでしょう。

導入する側にメリットがないので、今後XML形式の医療費通知が広く普及する可能性はかなり低いんじゃないかと。

そうなると、この医療費通知を使った医療費控除の適用というのは、「郵送」という作業がなくならないまま続いていくことになってしまうんでしょうね。

では、この中途半端な状態が続くのかというと、今後の可能性としてはマイナンバーカードを使った健康保険証の普及に期待するしかないでしょう。

マイナンバーカードの健康保険証利用申込がはじまりました。

現時点でも

「マイナポータルで確定申告の医療費控除がカンタンにできます!」

と謳われていますので、理想的なシナリオとしては、

マイナンバーカードを使った健康保険証が普及 → マイナポータルで医療費明細がすべて取得できるようになる → 確定申告書にデータを取り込めば医療費控除の計算完了(かつ、領収書等の保管も不要となる)

といったものかと。

ただこれも

  1. マイナンバーカードの読み取りに対応する医療機関・薬局がどこまで増えるか
  2. マイナンバーカードを使った健康保険証がどこまで普及するか
  3. マイナポータルから確定申告書を作成するソフトへのデータ連携が容易か

といった課題はあります。

とくに1と2はそれぞれ影響を与えますので、普及に向けた施策をとらないと、

医療機関:「カードリーダー導入しても、使う人がほとんどいない」

患者:「マイナンバーカードの健康保険証にしたけど、読み取り対応する医療機関が周りにない」

となって普及しない可能性もありうるわけです。

普及しなければ、従来通りの「紙で医療費通知を受け取って、原本は郵送で提出」というやり方を続けざるを得ないということになってしまいます。

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過渡期はチグハグな部分がでてしまうもの

「電子化」は手続きを便利にするためのものですが、従来の紙をベースにした仕組みから移行する過渡期には、どうしても両方に対応する必要があるため、今回取り上げたようなチグハグな部分は出てきてしまうものです。

その過渡期を超えて、完全に電子化できれば便利な世の中になるのでしょうが、新しい仕組みが定着するには一世代(約30年)かかると言われることもあります。

世の中の仕組みとして、劇的に一気に変わるということは期待しづらい部分もあり、中途半端な状態にストレスを感じることもあるのですが、より良い方向に向かうためのステップだと理解して進んでいくしかないかなと。

とはいえ、医療費通知については、紙をスキャンしたものの送信を認めてもらえば、納税者(や税理士)、税務署担当者など多くの方にメリットがあると思うんですよね。

改正してほしいな、と期待しつつとりあえずは粛々とすすめていこうかと。

 

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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