税金に関する書類というと、「紙」という印象をお持ちの方も多いかもしれませんが、電子申告など意外とペーパーレスが進んでいる部分もあります。最近になって、この状況が更に進むのではないかというニュースが出てきていますので、一度現状を確認しておきましょう。

税務の電子化に関する最近のニュース

今月10日に、令和3年の税制改正大綱が発表されました。

令和3年度税制改正大綱 | 政策 | ニュース | 自由民主党

この中で、税務関係書類への押印義務の廃止(一部押印が必要なものは残ります)とともに、帳簿そのものを電子データで保存する制度や、領収書などの証憑をスキャンして保存する制度についての見直しが項目として挙げられていました。

押印義務の廃止は別として、電子帳簿保存といわれる電子データでの保存については、従来から認めれていたのですが、要件などが厳しく、中小零細企業が導入するには敷居が高いものでした。

ところが、今回の大綱では、そうした要件を緩和するといった内容が書かれていて、少し流れが変わってきたのでは、と感じています。

そして、今月になってもう一つ発表があったのが、振替納税やダイレクト納付を申込む際の手続がオンラインでできる、というものです。

振替依頼書及びダイレクト納付利用届出書(個人)のオンライン提出について

年明けからの対応となりますが、従来は紙の書類に銀行印の押印が必要だった手続が、銀行印も不要となり、オンラインだけで完結できるようになります。

(但し、税務雑誌等によると、銀行での本人確認手続の関係上、法人のダイレクト納付の手続は、オンラインでできないようです。)

今月に入り、立て続けにこうしたニュースに接することとなり、来年以降、税務手続の電子化が大きく動き出すのではないかと感じています。

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税務の電子化を改めて整理してみると・・・

「税務の電子化」という言葉を今回使いましたが、税金に関係する手続の電子化といっても、いろいろあります。

一つの区分の仕方として、

  1. 所得税や法人税などの申告書や申請・届出の提出の電子化
  2. 納税(税金の支払)手続に関係する電子化
  3. 帳簿や領収書などの保存に関する電子化

といった分け方が考えられます。

1については、現状でもかなり電子化されている分野です。

そのため、先ほど取り上げたニュースが影響することは、あまりありません。

申告書や申請書・届出書の提出については、e-TaxやeLTAXという仕組みを使えば、一般的なものであれば、ほぼ税務署に出向かずに、提出をすることが可能です。

従来は電子申告に対応していなかった相続税や所得税の準確定申告も、(使いやすいかどうかは別として)電子申告ができるようになっていますので、申告関係については、税務署に行かずに完結できます。

2については、クレジットカード納付や振替納税、ダイレクト納付など、納付書を持って金融機関に行かなくても税金を支払うことができる方法は、従来からありました。

ただ、振替納税やダイレクト納付は、支払をする前に、税務署に紙の書類を提出して、税務署での手続が完了するまで待たなければなりませんでした。

これがオンラインで手続することで、税務署と金融機関の間で書類をやりとりする必要もなくなるため、紙の書類の提出が不要となることに加えて、手続完了までの期間も短くなるといわれています。

3については、従来は電子帳簿保存やスキャナ保存を開始するにあたり、税務署に書類を提出して承認を受ける必要があったり、さらにスキャナ保存については内部牽制のルールを決める必要がありましたが、これらについて廃止・見直しすることが、先ほどの税制改正大綱に書かれています。

こうした変更については、これから法律が検討されて、令和4年1月1日から変更される予定です。

来年中はこの改正のメリットは受けられませんが、早ければ再来年から中小零細企業にも使いやすい制度となる可能性があります。

来年には、いろいろな情報が出てくることになるでしょうから、中小企業でも使えないか検討すべきタイミングかと。

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流れは変わるときは一気に変わる

従来より、申告・申請関係はかなり電子化されていたわけですが、だからこそ逆に電子的に手続ができないものにストレスを感じるという面もありました。

ところが今回、振替納税などの開始手続や帳簿などの電子保存について、大きく見直しがされることとなり、今まで電子化したくてもできなかった税務に関する手続が、この1~2年で大きく変わっていく可能性があります。

「なかなか現状が変わらないな」と感じる分野であっても、変わり始めると一気に変わってしまうことはあり得るものです。

今がそうした状況の入口なんじゃないかと感じていますので、情報収集や検討は怠らずに進めていく必要があります。

「紙の書類イヤだ、なくしたい。というか扱いたくもない。」という方であれば、これから出てくるであろう情報には注意を払っておくべきかと。

・・・とこんな記事を書こうと思っていたら、昨日e-Taxや国税庁のホームページが半日以上使えないという障害が。

電子化を進めると、どうしてもこうしたトラブルは避けられません。

ただその一方で、新型コロナウイルス等の影響で税務署自体が閉庁となるリスクも、あり得るわけです。

そうした状況に備えるためにも、自分が提供できる選択肢は多い方が、変化に柔軟に対応できます。

リスク管理という側面からも、電子化という選択肢は持っておくようにしましょう。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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