前回、国税庁が公表している「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」(以下、新型コロナFAQ)の更新内容を確認しましたが、そのとき取りあげなかった海外勤務関係の追加質問を確認しておきましょう。

海外勤務にまつわる所得税の基礎知識

前回、取り上げなかった新型コロナFAQの海外勤務に関連する追加質問について、今回確認していきたいと思います。

とはいえ、海外が関連する内容となると所得税も複雑になってきます。

そこで最初に、FAQを確認するために必要となる基礎知識をザックリと確認しておくことにしましょう。

なお、わかりやすさを優先してかなり粗っぽい説明をします。正確な税務判断が必要な場合には、お近くの税理士の方などにご相談ください。

日本の所得税は、誰の、どのような所得にかかるの?

所得税では、最初に個人を「居住者」と「非居住者」に分けます。

「日本人だから全員が居住者」というわけではありません。

ザックリといえば、

  • 居住者:日本に住所がある人や日本で1年以上ホテル住まいなどをしている人(外国人含む)
  • 非居住者:日本に住んでいない外国人や、1年以上の予定で海外に住んでいる日本人

となります。

そしてそれぞれ、どのような所得(≒利益なので、以下では利益とします)に対して所得税をかけるかというと、

  • 居住者:稼ぐ場所にかかわらず、世界中で稼いだすべての利益
  • 非居住者:日本国内で稼いだ利益

とされています(正確には、居住者の中に「非永住者」という区分があり、取扱いが異なるのですが、今回は無視して説明しています)。

そのため、例えば海外会社に1年以上の予定で出向している人は「非居住者」となるため、海外会社からのみ給料をもらうのであれば、日本の所得税はかかりません。

給料から源泉徴収する必要があるのはどんなとき?

毎月会社から給料をもらっている方は、所得税が引かれているはずです。

この給料から所得税を引く(「源泉徴収」といいます)のは、どんなときか?

結論からいいますと、

  • 支払う場所:日本国内
  • 支払う人:給料などを支払う会社や個人事業主
  • 受け取る人:居住者、非居住者(日本国内での勤務に基づく給料を受け取る場合)

という条件が揃った時に、給料から源泉徴収をする必要があります。

「非居住者だからゼッタイ源泉徴収はない」わけではないことに注意が必要です。

今回追加された新型コロナFAQの内容は?

前置きが長くなってしまいましたが、次に新型コロナFAQの内容を確認していきましょう。

問11 日本から出国できない場合の取扱い

この問の内容を表にまとめると、次のようになります。

確認すべきポイント 確認した内容 判定ポイント
誰が? 日本から出国できない海外勤務予定者  
勤務形態は? 日本国内で海外会社の業務を行う 「居住者」に該当
給料を支払うのは? 海外会社(日本に拠点なし)  
給料からの源泉徴収は? 不要 国内で支払われないため
日本での確定申告は? 必要 「居住者」は全世界の利益に所得税がかかり、源泉徴収されていないため

海外で働くつもりであっても、実際に出国していなければ「居住者」として取り扱われます。

「居住者」は稼いだすべての利益に所得税がかかりますので、海外会社から支払われた給料も対象となります。

ただ、実際に該当するケースは、あまり多くなのではないかと思います。

問11-2 海外の関連企業から受け入れる従業員を海外で業務に従事させる場合の取扱い

先ほどと同様に、内容を表にまとめてみましょう。

確認すべきポイント 確認した内容 判定ポイント
誰が? 海外会社から受け入れる従業員 役員として受け入れる場合は、取扱い異なる可能性あり
勤務形態は? 日本に入国せず、海外で日本の仕事を行う 「非居住者」に該当
給料を支払うのは? 日本の会社  
給料からの源泉徴収は? 不要 非居住者が海外で行う勤務に対する給料のため
日本での確定申告は? 不要  

このケースでは、日本に入国していないため「非居住者」と判定され、非居住者が海外で行う業務に対する給料(=海外での仕事に対する海外でかせいだ利益)のため、源泉徴収も日本での確定申告も不要とされています。

なお、受け入れる従業員が日本の会社の役員となる場合は、国内源泉所得とされるケースがあり、その場合は源泉徴収・所得税申告ともに必要となるとされています。

問11-3 一時出国していた従業員を日本に帰国させない場合の取扱い

表にまとめると次のようになります。

確認すべきポイント 確認した内容 判定ポイント
誰が? 3ヶ月程度の海外派遣された従業員  
勤務形態は? 移動制限により、日本に帰国せず、出張先(海外)で日本の仕事を行う 国内に住所があるため「居住者」に該当
給料を支払うのは? 日本の会社  
給料からの源泉徴収は? 必要 「居住者」に「国内」で支払うため
日本での確定申告は? 給料以外の収入なく、年末調整されていれば不要  

長期海外出張者が、新型コロナによる移動制限に伴い、日本に帰国せずそのまま現地で日本の仕事をするケースについての解説になります。

このFAQでは日本で仕事をしているときと変わらない取扱いとなっていますが、期間が長期間になると現地で「居住者」とされて課税される可能性もありますので、注意が必要です。

問11-4 海外に出向していた従業員を一時帰国させた場合の取扱い

日本の会社から、海外会社に出向させていたものの、新型コロナの影響で一時的に日本に帰国してもらい、日本で海外会社の仕事をしてもらうケースです。

これについては、日本の会社から支払われる給与と海外会社から支払われる給与に分けて、表にまとめてみましょう。

日本の会社から支払われる給与(留守宅手当など)

確認すべきポイント 確認した内容 判定ポイント
誰が? 日本に一時帰国中の海外出向者  
勤務形態は? 日本国内で海外会社の業務を行う 引き続き「非居住者」に該当
給料を支払うのは? 日本の会社 日本国内での勤務に基づく給与とされる
給料からの源泉徴収は? 必要 非居住者への日本国内勤務に基づく給料のため
日本での確定申告は? 不要 源泉徴収のみで確定申告不要

このケースでは、一時帰国中に日本で仕事をしたことに対して留守宅手当を支払ったとされてしまうため、源泉徴収が必要となる点に注意が必要です。

通常時には、「非居住者」が「海外で行う仕事」に対する給料のため、日本国内での勤務に基づくものではありませんので、源泉徴収は不要ですが、日本での一時帰国滞在中に仕事をすると取扱いが変わります。

FAQの中では、租税条約を締結している国に出向していて、日本での勤務に対して短期滞在者免税が適用される場合には所得税が免税となるものの、このケースでは条件を満たさないため適用がない、といった説明もされていますが、説明が複雑になるため、今回は割愛します。

海外会社から支払われる給与

確認すべきポイント 確認した内容 判定ポイント
誰が? 日本に一時帰国中の海外出向者  
勤務形態は? 日本国内で海外会社の業務を行う 引き続き「非居住者」に該当
給料を支払うのは? 海外会社 日本国内での勤務に基づく給料とされる
給料からの源泉徴収は? 不要 国内で支払われないため
日本での確定申告は? 必要(不要の可能性あり)

「非居住者」が日本国内で稼いだ利益のため
但し、租税条約の短期滞在者免税が適用される場合は不要

これが、今回の記事タイトルに関連する内容となりますが、海外出向者が日本への一時帰国中に仕事をした場合、海外会社から支払われた給料も、日本国内での勤務に基づく給料とされてしまいます

「非居住者」が日本国内で稼いだ利益となりますので、前半で解説したとおり日本の所得税の対象となります。

海外で支払われる給料のため、源泉徴収はされませんので、出向者自身が日本において確定申告をする必要がある、というのがこのFAQで解説されている内容になります。

なお、日本の会社から支払われる給料と異なり、租税条約が締結されている国の場合、「短期滞在者免税」という制度が適用される可能性があります。この場合には、日本の所得税はかからないため確定申告は不要となります。

FAQが出た以上、会社としての確認は必要か

国税庁公表の新型コロナFAQの更新部分のうち、海外出向者などに関連する部分を取り上げました。

日本企業で特に注意が必要なものは、問11-4でしょう。

新型コロナウイルスの影響で、日本に一時帰国して仕事をしている方は一定数いらっしゃると思います。

わざわざ国税庁がこうした内容を公表したわけですから、今後税務調査等の場面においてチェックされる可能性はあるでしょう。

その一方で、海外出向されている方でこうした税務に精通されている方は、ほとんどいないのが実情です。

そのため、会社内で海外出向者を担当されている人事・経理担当者の方は、出向者を含めて自社に影響がないかどうか一度確認しておいた方がよいでしょう。

なお、今回できるだけ平易にFAQの内容を説明したつもりですが、実際には

  • 出向先の国との間に租税条約が締結されているかどうか
  • 対象者が役員か従業員か
  • 海外会社が日本に拠点を持っているかどうか

などといった内容を総合的に判断する必要があります。

今回の記事内容だけで判断できない部分も多々ありますので、国税庁のFAQを読んで、不安や疑問を持たれたのであれば、お近くの専門家に相談されることをオススメします。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち、7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。