給与所得の源泉徴収票が来年からeLTAXで提出可能となりますが、この変更により法定調書の提出業務は楽になるのでしょうか?

1.E-taxとeLTAXの違い

この二つの違いですが、要するに国税(法人税・所得税・消費税など)を電子申告するための仕組みがE-taxで、地方税(法人住民税・法人事業税など)を電子申告するための仕組みがeLTAXです。

ユーザー目線で考えればどちらも同じ「税金」なのになぜ違う仕組みを使わないといけないのか?と思いますが、それぞれの税金を取扱う主体が国と地方で分かれてしまっているため現状ではどうしようもありません(会社でいえば、法人税・消費税以外に地方税の申告が必要なため、E-taxだけでは電子申告を完結させることができないのが現状です)。

また、単純に送信時に使うソフトが違うだけ、というのであれば良いのですが使い勝手も結構違います。

特にeLTAXの方は市町村毎にeLTAXに対応している税目や申請書が違ったり、ベンダーに仕様が一部公開されていないようで、PCdeskというeLTAXの公式ソフトでは対応できる業務がベンダーの税務ソフトではできなかったりして、個人的には使い勝手が良いとは思えません。

さらにeLTAXはあまり税理士が関与するケースを想定していないようで、電子申告の開始届を提出する際に、納税者が自分で提出する場合には電子証明書が必要ですが、税理士に依頼する場合には納税者・税理士どちらの電子証明書も不要となっていてよくわからない仕様です。

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2.法定調書の提出は楽になるのか?

給与所得の源泉徴収票がeLTAXで提出可能に

本題ですが、今回お話ししたい内容は次の発表についてです。

国税庁:給与・公的年金等の支払報告書及び源泉徴収票のeLTAXでの一括作成・提出(電子的提出の一元化)について

サラリーマンの方は年末になると「源泉徴収票」という年間の給料や税金が記載された書類を受けとると思います。実はこの書類、一定の要件を満たす方の分については税務署に提出されています。

そしてこの「源泉徴収票」(正式には「給与所得の源泉徴収票」といいます)とほとんど同じ様式の「給与支払報告書」という書類が、住民税の計算のため住所地の市町村に提出されています。

これらの書類の提出は給料を支払った者が行うのですが、今までは電子申告しようとすると

「給与所得の源泉徴収票」:E-taxを使って税務署に提出
「給与支払報告書」:eLTAXを使って各市町村に提出

という風にほぼ同じフォーマットの書類を2回送らなければならなかったわけです。

これが平成29年1月以降は、『eLTAXに両方のデータを送ってくれれば「源泉徴収票」はちゃんと税務署に送っておくから!』という風に変わるわけです。

これって個人的には結構大きな変化だと思います。今までE-taxとeLTAXの間には超えられない壁があるというイメージでしたが、私の知る限りでは初めてこの壁を越えるような対応をしてくれるわけです。

これですべてが解決するかというと・・・

とはいえ、これで問題がすべて解決するというわけではありません。

「給与所得の源泉徴収票」は法定調書といわれるものの一つになります。
法定調書というのは、一定の支払等を行った際にその内容について税務署に提出しなければならないとされている書類のことです。

弁護士や税理士と契約されている会社については、年間支払額が5万円を超えると「給与所得の源泉徴収票」とは別の書式で税務署に報告しなければなりません(この書類を「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」といいます。長いので以下「報酬・料金等の支払調書」とします)。

税理士と契約している会社を例にとりますと、従来は

E-tax:給与所得の源泉徴収票、報酬・料金等の支払調書
eLTAX:給与支払報告書

という形で電子申告していたわけですが、来年以降は

E-tax:報酬・料金等の源泉徴収票
eLTAX:給与所得の源泉徴収票、給与支払報告書

という形で提出することもできますよ、というのが今回発表された変更内容です。

これって給料以外の対象となる支払がある会社にとっては、結局2回電子申告しないといけませんから、手間としては減らないのでは?という疑問が残るわけです。

3.日本における税務業務の効率化の余地まだあるはず

この件については、この発表以上の詳細がわからず税務ソフトのベンダーがどのように対応するかも現時点では不明なため、どこまで法定調書の提出業務が楽になるのかは今のところわかりません。

ただ、eLTAXに対応しているベンダーであれば税務ソフト側で給与データから源泉徴収票と給与支払報告書を作成してくれるでしょうし、E-taxとeLTAXの送信を連続して行えるケースもありますので、そうした対応をしている税務ソフトを使っている場合には今回の変更により大きな改善は期待できないと思います。

そもそも、税務に関連する情報を送信するのにわざわざE-taxとeLTAXでそれぞれIDを取得しなければならないという仕組み自体が問題です。
理想をいえば、E-taxとeLTAXは統合してしまって受け側で必要な情報を必要な組織に届けるようになって欲しいものです。

今回の発表がそうした将来のシステム統合や大幅な効率化に向けての第一歩となることを期待したいところです。

日本の公的業務の中では税務分野は電子化が進んでいる方だとは思いますが、まだまだ効率化する余地はあります。
資料提出という業務は、提出する側からすれば付加価値を産みませんので常に効率化を追求しなければなりませんので、そのための仕組みが提供されることを願うばかりです。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち、7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。