日本ではまだまだ普及しているとはいえないデビットカード(キャッシュカード)による決済ですが、今後普及する可能性があるのかどうか、「キャッシュアウト」と言われるサービスから考えてみたいと思います。

1.スーパーマーケットではレジに注意

まずはイギリス(といってもウエールズですが)時代の思い出話から始めます。

イギリスに赴任して、銀行口座の開設も終わり、デビットカードを手にスーパーマーケットに行こうとしたところ、先に赴任していた人から一つアドバイスをもらいました。

『デビットカードで支払うのなら、レジで「キャッシュバックいるか?」と聞かれて「Yes」と答えても、キャッシュバックしてもらえるわけではないからね!』

日本語になってませんよね(笑)。最初聞いたとき私も味が全くわかりませんでした。

この意味するところをレジでの実際のやり取りにしてみると、こんな感じになります。

店員 ”Do you need cashback?”

私 ”??? Yes…”(ん、なんかキャッシュバックしてくれるの。ラッキー)

店員 ”How much?”(いくらって、キャッシュバックの金額自分で決められるの?)

私 ”5 pounds…”(今回買い物50ポンドくらいだから、せいぜい10%くらいだよな)

この会話の後、実際に現金で5ポンド渡されるわけです。

ところが、1ヵ月後にステートメント(欧州には通帳はありませんので、毎月1ヵ月分の取引明細=ステートメントが郵送で送られてきます)を受け取って確認してみると、自分の口座から5ポンド引落しされているわけです。

2.キャッシュバックって一体?

この話を思い出しだのは、先日(といっても数ヶ月前ですが)デビットカードによる「キャッシュアウトサービス」開始についての発表を伝える新聞記事を見たからです(確か日経新聞だったと思います)。

日本電子決済推進機構 J-Debit「キャッシュアウトサービス」の取扱い開始について

このリンク先に記載されている「キャッシュアウトサービス」が、イギリスでの「キャッシュバック」と同じものになります。つまり、「スーパーマーケットのレジで現金が引き出せるサービス」ということです。

最初は戸惑うのですが、ATMに並ばずとも買い物のついでに現金の引き出しも一緒に済ませることができるため時間の節約となり、慣れると結構便利なんです。

ちなみに手元の電子辞書(新英和辞典)で調べてみると”cashback”の項目には、2番目の意味として「デビットカードで買い物をする際に一定限度の現金を引出すことのできるサービス」と書いてありました。

イギリス系スーパー「テスコ」駐車場からの風景 (イギリスではなくスロバキアですが)

3.日本でデビットカードの利用は普及するか?

日本人にはクレジットカードよりデビットカード

日本では欧米ほどクレジットカードが普及しないとよく言われていますが、デビットカードであれば銀行のキャッシュカードがそのまま使用できるケースが多いため、カードを作るために審査が必要であったり買い物時点で銀行残高がなくても使えてしまうクレジットカードよりも、日本人の性格に合っているかもしれません。

ただ、買い物をする際にあまり見かけないんですよね「デビットカード使えます」という表示(私の買い物の範囲が狭いだけかもしれませんが)。

「キャッシュアウトサービス」がデビットカードの普及を後押しする

先ほどのプレスリリースでは、「キャッシュアウトサービス」は2018年4月の開始を目指すとなっていますが、例えば銀行ATMを設置できない小規模の店舗が、ATM設置の代替サービスとしてデビットカードに対応すれば、デビットカードを使える店舗が今より増えてくるのではないかと思います。

またプレスリリースには「宅配サービスにより、自宅に居ながら現金の引き出しが可能」といったサービスも想定されており、銀行まで行くのが辛いといった高齢者の方が意識せずにデビットカードとして使うケースも増えることが考えられます(現金の宅配サービスについては、悪用されないような対策は当然必要かと思います)。

デビットカードのライバルは電子マネー?

一方で、日本では電子マネーの普及が著しいため、買い物の際電子マネーで決済される方も多いと思います。電子マネーであれば事前にチャージする手間はありますが、支払の都度暗証番号を入力する必要がありませんので、デビットカードよりも楽ですよね。

一度楽することを覚えてしまうと元には戻れませんから、デビットカード普及の最大の障壁は電子マネーではないかと。私がイギリスにいたのは10年以上前ですが、その頃は当然電子マネーは存在していませんでしたから、当時と比べると今の日本の状況は異なります。

ただこれも、場面ごとの使い分けで案外共存していくのではないでしょうか。コンビニなどの少額決済であれば電子マネーを使うでしょうし、スーパーである程度まとめ買いをするような場合や、キャッシュアウトサービスも同時に使いたい場合にはデビットカードが使われることになるでしょう。

個人的には、日本でも少しずつキャッシュレス化の流れが進んでいくと考えていますので、この「キャッシュアウトサービス」がそうした流れを推進する一つのきっかけになるのではないでしょうか。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち、7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。