誰にとっても時間は有限ですが、忙しい経営者にとっては特に重要な問題ではないでしょうか。今回は、この「時間の使い方」に焦点を当て、経営者が本当に集中すべきことは何かについて、私なりの考えをお話ししたいと思います。
「経理が得意な経営者」と「経理が苦手な経営者」
みなさん、こんにちは。京都の税理士、加藤博己です。
経営者の皆様は、日々、本当に多岐にわたる業務に追われていることと思います。
売上をどう伸ばすか、新しいサービスをどう展開するかといった「攻め」の課題から、人材の採用・育成、資金繰り、さらには日々の「事務作業」まで、考えるべきこと、やるべきことは山積みです。
特に、規模の小さな中小企業では、経営者ご自身がプレイヤーとして現場に立ちながら、会社の方向性を決め、さらにバックオフィス業務までこなしているケースも少なくありません。
規模の小さな中小企業の場合、経営者やその配偶者の方が、会社の経理業務を担当しているケースはよく見受けられます。
これは、コストを抑えるため、あるいは外部に任せるほどの業務量ではない、という判断からでしょう。
そうした方々とお話しさせていただくと、経理という業務に対する「苦手意識」の強さに、明確な違いがあることに気づきます。
経理が得意、あるいは苦にしないという経営者の方は、数字の把握が早く、試算表を見て現状を冷静に分析できる傾向があります。しかし、これは少数派です。
イメージ的には、ほとんどの経営者の方が、経理業務に対して何かしらの苦手意識を持っていらっしゃいます。
「レシートや領収書の整理が面倒」「この支出の勘定科目は何にすればいいのか?」「会計ソフトへの入力で時間を取られすぎる」といった悩みを抱え、その結果、本業が終わった夜や週末に、溜まった経理業務と格闘しているというケースもあるとお聞きします。
だからこそ、多くの中小企業が、私たち税理士に記帳代行や経理代行を依頼されます。
これは、単に手間を省きたいというだけでなく、後述する「ある重要なこと」に時間を割くための選択だと言えます。
経営者が集中すべきは「事務」ではなく「事業」
ただでさえ経営者は、やるべきこと・考えないといけないことが山積みです。
具体的には
- 売上を上げるための販路開拓
- 競合に打ち勝つための新商品やサービスの検討
- 事業拡大の土台となる人の問題(採用・育成)
- 資金繰り(お金の調達)やキャッシュフローの管理
など、挙げればキリがありません。
これらはすべて、経営者しか決められない、あるいは深く関与すべき最重要事項です。
しかしながら、人がひとりでできることには限度があります。
物理的な時間は24時間であり、その中で集中できる時間、活発に思考できる時間はさらに限られています。
だからこそ、経営者は「何に集中すべきか」をよく考えるべきなのです。
結論から言えば、基本的には「事業を伸ばすこと」に最も時間を使うべきです。
事業を伸ばすには、広い意味での「投資」が欠かせません。「投資」といっても、単に高額な設備を買うことだけが投資ではありません。
新しい市場調査の時間かもしれませんし、社員教育にかける労力かもしれませんし、将来を見据えたシステムへの先行投資かもしれません。
どこに会社の資源(お金や人、そして経営者の時間)を割り振るか、これを決められるのは経営者だけです。
そんな時に、「この領収書は勘定科目を何にすればいいのか?」とか、「会計ソフトの入力が全然終わらない…」といった、本質的ではない事務作業で悩んでいるべきではない、と強く感じています。
その悩んでいる時間は、未来の売上を生むための思考や行動にこそ、使うべきではないでしょうか。
手放すべき業務を決めて事業に集中する
「事務作業ではない、事業を伸ばすことに集中すべき」と言われても、「でも、外部に委託するとなるとコストがかかる」というお声が返ってくるのも理解できます。
これは非常に重要な経営判断です。当然ながら、そのコスト(例えば、外部に委託する費用)以上の利益を、その空いた時間で上げられないのであれば、やめておくべきという考え方も成立します。
しかし、世の中は変化しています。
インフレが進む今のご時世、原材料や仕入れコスト、さらには人件費も上昇し、現状維持の経営では、収益が圧迫され、事業は苦しくなるだけです。
事業を伸ばすこと、変化に対応できる体力をつけることこそが、経営者の役目ではないでしょうか。
ここで改めて強調したいのは、「記帳代行を税理士に依頼しているから、もう十分」という考え方で本当に問題がないかという点です。
記帳代行は、確かに経営者の手元の事務作業を大きく減らしてくれます。しかし、会社の中には、まだ経営者の時間が奪われている雑多な業務が残っていませんか?
例えば
-
給与計算や社会保険手続きといった専門性の高い人事労務
-
請求書や契約書の管理、発行といった営業事務
-
ウェブサイトの更新、SNSでの情報発信といった広報業務
-
来客対応や電話対応といった庶務
といったものに時間をかけていませんか?
これらは、慣れてしまっているために「自分でやった方が早い」と感じるかもしれませんが、その時間を事業を伸ばすことに割り振った方が、将来的に得られる利益が増えないでしょうか。
自分の手元から手放すべき業務がないか、一度立ち止まって棚卸しをしてみるべきです。
記帳代行を依頼して経理に費やす時間が減ったのであれば、次は別の分野の「事務作業」をプロに任せ、より事業の成長に直結する活動に時間を使うべきです。
先ほど、「事業を伸ばすための投資」とお話しましたが、仕事を外部に委託して、経営者が事業に集中できる環境を整えること、これも立派な未来への「投資」と言えます。
外部委託にかかる費用は、「経営者の時間」という最も貴重な資源を、本来の価値ある仕事に投入するための「投資」なのです。
事務作業から解放された時間で、新しいビジネスプランを考えたり、重要顧客との関係構築に時間を割いたり、社員とじっくり向き合ったりする。
その行動が、きっと委託コストを上回るリターンを生み出してくれるはずです。
もし、ご自身の会社の状況から見て、「どこから手を放すべきか」「そのコスト対効果はどうなのか」と判断に迷うことがあれば、ぜひ一度ご相談ください。
投稿者

- 加藤博己税理士事務所 所長
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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