「税理士のような士業はAIにとって代わられるのではないか」といった議論が盛んに行われていますが、今のところ普通に税理士の仕事をしています。生成AIの進化と「税理士の仕事なくなる」論について、現状思うところをまとめてみました。

AIの進化はスゴいけれどカンペキではない

AIが改善・改良されるスピードやその精度には驚くものがあります。実際私も仕事の中で、活用するケースが増えてきました。

例えば、業務で特定のテーマについて調べる際に、自分で調べるだけではモレが出る可能性がありますので、セカンドオピニオン的に生成AIに調べてもらったりします。

以前は一つひとつ自分で調べていたことが、AIのおかげで短時間で要点を押さえることができるようになりました。

ただ、やはり回答内容については、まだ鵜呑みにすることはできないです。

先日、退職所得について調べた時のこと、確定拠出年金を一時金で受け取る際の退職所得控除について、AIに内容を調べてもらいました。

その回答は

「19年以内に別の退職金を受け取っていると退職所得控除額が調整される」

というもの。

「おっ、スゴいな。ここまで回答できるようになったんだ。」

と思いながら読み進めてみると

近日施行:「9年ルール」への変更(2026年以降)
このDC一時金に関する「前年以前19年以内」のルールは、2026年以降に受け取るDC一時金からは「前年以前9年以内」に短縮される予定です 。

との説明が。実はこれ明らかな間違いです。

たしかに退職所得控除の調整には改正があったのですが、内容としては

確定拠出年金の一時金をもらう→他の退職金を受け取る

というケースの場合に、この期間が9年以内だと退職所得控除を調整するというルールが新たに「追加」されたというもの。

退職金を先にもらってから確定拠出年金の一時金をもらう場合に、この期間が19年以内だと退職得所得控除を調整するというルールには変更はありません。

「税制改正があった」「確定拠出年金の一時金が対象となっている」という点では、間違ってしまうのも頷ける点はありますが、内容としては明らかな間違いです。

このように、生成AIの回答が常に正しいとはいえないケースもあり、税務の世界においては致命的な間違いにつながりかねません。

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「あれって間違ってたかも」は(今のところ)AIにはない

「AIで税理士はいらなくなる」という内容を信じて、AIの回答を鵜呑みにして間違った申告をしてしまったらどうなるでしょうか。

納税者が損をした場合、GoogleやMicrosoftに損害賠償を請求するのでしょうか?

「生成AIは間違えることもある」と明示してサービス提供しているわけですから、恐らく損害賠償は認められないでしょう。

生成AIはあくまでツールであり、その回答には一切の責任が伴いません。もしAIの回答に基づいて損害を被ったとしても、それは利用者の自己責任です。

一方で、税理士が間違えてお客さまに損害を与えると、損害賠償を受けるリスクがあります。

だからこそ、必死に調べて、内容を何度もチェックして、お伝えする内容に問題や間違いがないことを「保証」するわけです。

この内容を「保証」する部分というのは、これだけAIが進化しても、やはりまだまだ役割として残るのだろうと考えています。

もうひとつ、人にしかできないこととして、「あとで気付く」という点があるんじゃないかと。

この仕事をしていると良くあるのですが

「あれっ、さっきの回答は間違っていたかもしれない」

と気付くことがあります。

こうした気づきは長年の経験や知識、そして直感に基づいたものです。

あるお客さまの申告書を作成している時に、別の方の過去のケースを思い出し、その経験から

「もしかしたら間違っていたかも」

と気づく、といったことも珍しくありません。

生成AIについては、質問に対する回答について、別の回答をしているときに、

「そういえば、以前回答した内容に間違いがありました」

と”自発的に”対応することはありません。

これは、人が対応することのひとつの価値かもしれないと最近感じています。

とはいえ、生成AIの進化が早すぎて、そのうちこうした「気づき」に対応するようになるかもしれませんが・・・

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AIは裏方に、インターフェースは人に

生成AIがこれだけ普及してきても、実際のところまだまだ使っていないという方も多くお見かけします。

使い方やできることをご紹介しても

「よくわからない」
「自分にはムリ」

という方も一定数いらっしゃるものです。

だからこそ、今後の方向性としては「生成AIを使うぞ」という感じではなく、使っている会計ソフトなどのサービスにいつのまにかAIの機能が取り込まれて、知らないうちに使っていたというケースが増えてくるのでしょう。

税理士の仕事も、ルーティンワークや情報収集といった作業を効率化するなど、裏方としてAIを活用することが増えていくでしょう。

AIは裏方に回り、人がやるべき仕事は、実際に人と話をしたり、経営の悩みを聞いたりといった、泥臭い部分の比重が増えていくような気もします。

今のところはこんな風に考えていますが、1年後にはどうなっているか正直なところ想像もつきません。

新しいものを取り入れつつも、振り回されないように注意しながら、これからも仕事していければと思います。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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