中小企業では、株式の管理が曖昧になりがちですが、名義変更の手続きを怠ることで、将来的に思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。今回は、株式の名義変更手続きの重要性とそのリスクについて確認しておきましょう。
名義変更の手続き、適当に済ませていませんか?
中小企業では株式にまつわる課題はいろいろとあります。
最も大きいものは事業承継にまつわる株式の相続や贈与ですが、社歴の長い会社の場合、株の一部を親子以外の親族や外部の方が所有しているといったケースも。
そうした場合、所有してもらっている株数が少ないことが多く、「少数株主」という呼び方をしたりします。
中小企業の場合
「うちの会社は家族経営だから」
「長年の付き合いがあるから大丈夫」
といった理由で、株式の名義変更手続きをきちんと行っていないケースもあるのではないでしょうか。
特に規模の小さな会社では、株主の異動があっても、きちんとした手続きを踏まずに放置されていることもあります。
例えば、「株式を贈与した」「売却した」といった合意があったとしても、口頭だけで済ませていませんでしょうか。
たとえ現在、関係が良好な間柄であっても、将来にわたってその関係が続くとは限りません。
確かに、具体的なケースによっては「どこまで厳密にやるべきか」と悩ましい場面もあるでしょう。
しかし、どんなに親しい間柄であっても
「名義変更してもらっていいですよ」
という口頭だけでの合意は絶対に避けるようにお伝えしています。
名義変更の手続きを怠った場合のリスク
先日、支部の研修で弁護士の先生から少数株主についてのお話を伺う機会がありました。
その中で特に印象的だったのが、最近では少数株式の買い取りを専門とする業者が存在するという話です。
こうした状況も踏まえると、株式の名義変更の手続きを怠った場合、次のようなリスクが考えられます。
1. 将来の人間関係の変化による紛争
現経営者と株主の間が今は良好であったとしても、将来もそれが続く保証はどこにもありません。
会社の状況や個人の事情が変われば、関係性も変化する可能性があります。
例えば、口頭で株式を贈与したつもりであっても、名義変更の手続きを怠っていた場合、その株主の相続人が株式の所有者だと主張する可能性がないとはいいきれません。
2. 所有権の証明が困難になる
1のようなケースで、もし株式の贈与や売買があったことを示す書類が一切なければどうなるでしょうか?
株式数が少ない場合は金額が小さく、売買ではなく贈与するケースもあるでしょう。
金額が110万円以下であれば贈与税の対象にならないため、通常は贈与税の申告も行いませんので、その場合は贈与税の申告書もありません。
例えば、次のような書類があれば、株式を所有していることを主張できますが、なければ本当の持ち主が誰かという点について争いになるリスクがあります。
- 贈与契約書または売買契約書
- 贈与税申告書(贈与の場合の受贈側)、所得税申告書(売買の場合の売手側)
- 株主名簿書換請求書
- 株主名簿への記載
3. 強制的な買い取りを強いられる可能性
もし、正当な手続きを経ていない株式の所有権を主張され、反論するための証拠がない場合、その株式を思ったよりも高い価格で買い取らざるを得ない可能性があります。
お金の支払いだけならまだしも、価格の交渉など想定外の時間がとれらることになりかねません。
こうした対応に多くの時間と労力を費やすことになってしまうと、本業に支障をきたす可能性も出てきます。
面倒だと感じる書類作業で救われることもある
「書類作業は面倒だ」と感じる方は多いでしょう。
私自身も税理士の仕事をしていても、「書類を揃えるの面倒」と感じることはあるものです。
しかし、何かトラブルが起きた場合、こうした「書類」があることで助かるケースがあります。
きちんとした手続きを踏み、必要な書類を保管しておくことで、権利関係が明確になり、後々のトラブルを防ぐことができます。
「備えあれば憂いなし」という言葉の通り、株式の名義変更手続きは、まさにその典型といえるでしょう。
手続きをきちんと行っていない場合は、今からでも見直してみてはいかがでしょうか。
投稿者

- 加藤博己税理士事務所 所長
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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