準備のための「想定」と、可能性を狭めてしまう「先入観」の違い。仕事において採用面接やお客様との面談など、事前情報に惑わされず常にフラットな視点を持つことの重要性について考えてみました。

海外出向時の大事なポイントは「日本食の調達」?

みなさん、こんにちは。京都の税理士、加藤博己です。

私は会社員時代の最後の数年間、東欧のスロバキアという国に出向していました。

海外への出向が決まると、現地の情報収集を行います。治安や気候、文化など、調べるべきことは山ほどありますが、意外と重要なポイントになるのが「日本食がどの程度手に入るか」です。

例えば、その国の首都近辺や日本人が多く住む大都市であれば、日本食レストランやアジア系のスーパーマーケットがあり、それほど不自由なく日本食を入手できます。

しかし、私が赴任したのは首都から遠く離れた地方都市。残念ながら、日本食の調達はほとんど望めない環境でした。

もちろん、肉や野菜、パンといった基本的な食材は現地のスーパーで手に入ります。

それらを使って自炊をするわけですが、やはり日本人。どうしても、醤油や味噌などの味が恋しくなるものです。

当時の赴任先には、あれだけ「世界中どこにでもある」と言われる中華料理屋すら、近隣には一軒もない状況でした。

そうなると、どうするか。自分が帰国する際には空っぽのスーツケースで日本へ向かい、現地に戻る便ではパンパンに日本食を詰め込んで・・・、といったことを繰り返すことになるわけです。

そうした情報収集をする中で、前任者からこんなアドバイスを受けました。

「味噌汁を持っていくなら、生味噌タイプよりフリーズドライの方が断然美味しいですよ」と。

正直、最初は半信半疑でした。私の中には「フリーズドライやインスタントの味噌汁は、あくまで非常食で、それほど味はよくないのでは。」という、強固な思い込みがあったからです。いわば「先入観」ですね。

怪訝に思いながらも、いくつか試してみると、確かに味は悪くない。

具材の食感なども、生味噌タイプに引けを取りません。何より、軽くて日持ちがするので、大量に持って行くにはむしろ好都合でした。

出向に際して、「どうやって日本食を調達しようか」という「想定」はしていたものの、「インスタントは美味しくない」という「先入観」が、フリーズドライ味噌汁という有効な選択肢を、自分の中から消し去っていたわけです。

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その判断、「想定」ですか? それとも「先入観」ですか?

この「フリーズドライ味噌汁事件」(?)は、単なる海外生活の思い出話ではありません。仕事をする上でも、同じようなことが頻繁に起こり得ると感じています。

例えば、採用面接。履歴書や職務経歴書を読み込み

「この人は、こういう経験を積んできたから、きっとこういうタイプの人だろう」
「前職がこの業界なら、こんな質問をしてくるかもしれない」

といったことを考えます。これは、面接を円滑に進めるための、いわば「想定」です。

お客様からのお問い合わせを受けて、初めて面談に臨む際も同じです。

ウェブサイトのどのページをご覧になったか、お問い合わせの内容や書き方、といった情報から

「おそらく、この点にお困りなのだろう」
「こういうサービスに興味をお持ちかもしれない」

と仮説を立てます。これも、より的確なご提案をするための、重要な「想定」です。

こうした「想定」は、物事をスムーズに進めるために欠かせません。問題なのは、この「想定」が、いつの間にか「先入観」に変わってしまうことです。

「この経歴の人は、間違いなく我が社の文化には合わないだろう」
「この質問をしてくるということは、おそらく契約には至らないな」

このように、「~に違いない」「~なはずだ」と決めつけてしまった瞬間、それはもう「先入観」になってしまいます。

先入観という色眼鏡をかけて相手を見てしまうと、その人の本来の良さや、思いがけない可能性を見落としてしまう危険性が非常に高くなるわけです。

本当は素晴らしいポテンシャルを秘めた人材かもしれないのに、「合わない」というフィルター越しに見てしまうことで、粗探しばかりしてしまう。

お客様が本当に抱えている課題は別のところにあるかもしれないのに、「この点に困っているはずだ」という思い込みから、的外れな提案をしてしまう。

「先入観」は、私たちの判断を鈍らせ、目を曇らせてしまうのです。これは、仕事を進める上で、常に注意しなければならない点だと自戒しています。

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「まっさらな状態」で向き合う。事前情報との上手な付き合い方

では、「想定」と「先入観」を混同しないためには、どうすれば良いのでしょうか。

私が大切にしているのは

「事前情報は参考程度に留め、相手と会う時はできるだけフラットな状態で臨む」

ということです。

準備段階での「想定」は、もちろん行います。しかし、いざ目の前に相手がいる場面では、その想定を一旦すべて脇に置く。

そして、「この人は、本当は何を考えているのだろう」「何に困っていて、何を求めているのだろう」と、まっさらな気持ちで相手の話に耳を傾けます。

事前情報というのは、あくまで過去のデータや断片的な情報に過ぎません。それによって作られた「想定」が、目の前の事実と異なっていることは、往々にしてあります。

「インスタントの味噌汁は美味しくない」という私の思い込みのように、過去の経験や聞きかじった情報が、必ずしも現在の事実を正しく反映しているとは限りません。

仕事においても、プライベートにおいても、日々、様々な情報に触れ、無意識のうちに多くの「先入観」を形成しています。

しかし、その先入観が、新しい発見や良いご縁を遠ざけてしまっているとしたら、それは非常にもったいないことです。

「想定」と「先入観」の違いを常に意識し、事前情報に惑わされることなく、目の前の人や物事に真摯に向き合う。

言葉で書くと簡単ですが、実際にはかなり難しいことです。ただこうした意識はやはり持っておきたいものだなと思います。

皆さんも、ご自身の仕事や生活の中で、気づかないうちに「先入観」に捉われていないか、一度立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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