多店舗展開が順調に進んでいるように見えても、実は特定の店舗の赤字を他の店舗の利益がカバーしているだけ、というケースは決して珍しくありません。今回は、店舗別の利益計算のポイントと、その数字を経営に活かす方法についてお話しします。
お店ごとの利益が見えないと危険な理由
みなさん、こんにちは。京都の税理士、加藤博己です。
事業が軌道に乗り、複数の店舗を展開するようになると、多くの経営者が直面する課題があります。
それは、「店舗ごとの利益状況を正確に把握すること」です。
会社全体で利益が出ていたとしても、実は一部の店舗の利益が、他の店舗の赤字を埋めているだけ、なんてケースも少なくありません。
そのまま放置しておくと、赤字店舗の経営状況が悪化し、最終的には会社全体の経営にまで影響を及ぼす可能性があります。
だからこそ、経営者が感覚的に「あっちの店は儲かってる、こっちはイマイチ」と考えるだけでなく、数字として店舗ごとの利益をきちんと把握することが、安定した事業運営には不可欠です。
多店舗展開は、事業の成長を示すものですが、店舗数が増えるにつれて、経営の複雑さも増していきます。
創業期はすべての業務を自分一人でこなしていたとしても、店舗が増えれば、各店舗の状況を常に細かく把握するのは難しくなります。
「会社合計で利益が出ているから大丈夫」と安心していると、実は特定の店舗が足を引っ張っているなんてことも起こり得るわけです。
例えば、A店の多大な利益が、B店の大きな赤字をカバーしているようなケース。
この状況に気づかずにB店の赤字を放置していると、やがてB店の赤字が拡大し、会社全体としても赤字に転落してしまうリスクがあります。
だからこそ「会社合計」の数字だけでなく、「店舗別」の数字も定期的にチェックしておくべきでしょう。
「正確さ」と「割り切り」のバランスが大事
店舗別の利益を計算する際、すべてを完璧に分けようとすると、かえって非効率になってしまうことがあります。大切なのは、「正確さ」と「割り切り」のバランスです。
まず、店舗ごとに明確に分けられる項目は、きちんと分けましょう。例えば、売上や仕入れは、多くのケースで店舗ごとに管理できます。
仮に本部で一括仕入れを行っている場合でも、各店舗への納品明細があるはずなので、可能な範囲で店舗ごとの仕入れ額を割り振ります。
売上や仕入れは利益に与える影響が大きいため、これらの主要項目はできる限り正確に分けて管理すべきです。
一方で、共通してかかる費用については、ある程度の割り切りが必要です。最もわかりやすい例が社長の人件費でしょう。
社長がどの店舗の業務にどれくらいの時間を費やしたか、正確に把握するのはほぼ不可能です。
店舗別の利益を出すために、社長が日々の業務について細かく時間管理をすることは現実的ではありませんし、社長の貴重な時間を管理業務に割り振ることになり本末転倒です。
新店舗を出したばかりの頃は、特に新店に多くの時間と労力を費やすでしょう。
しかし、その手間をすべて人件費として新店に計上すると、新店の赤字が大きく見えすぎてしまい、「イメージと合わない」と感じる経営者の方もいらっしゃいます。
完璧を求めすぎると、手間ばかりかかってしまい、単なる自己満足に終わってしまう可能性があります。
各店舗に直接紐づけられる項目は正確に分け、それ以外の共通費用は、売上高や従業員数など、合理的な基準を決めて割り振るのが現実的かつ効率的な方法です。
数字を出す目的は経営をよくすること
店舗別の利益を計算する目的は、単に数字を出すことではなく、その数字を使って経営を改善することです。
店舗別の利益計算は、時間と労力がかかる作業ですが、その数字が明らかになれば、各店舗の強みや弱みが浮き彫りになり、より精度の高い経営判断が可能になります。
その一方で、経営判断に必要とされないレベルまで緻密に計算したとしても、時間の無駄にしかなりません。
だからこそ、どこまで時間をかけてどの精度で数字を出すかというバランスがポイントとなります。
各店舗の利益状況が明らかになれば、例えば次のような対策を検討できるようになります。
- 赤字店舗の改善策を検討する
- 利益の低い店舗や赤字の店舗がわかれば、その原因を探します。売上が足りないのか、人件費や家賃などの固定費が高すぎるのか、具体的な対策を立てるためのヒントになります。
- 好調な店舗の成功要因を分析する
- 利益率が高い店舗は、何が成功しているのかを分析し、そのノウハウを他の店舗に展開することができます。
- 事業の撤退・集約を検討する
- 恒常的に赤字が続く店舗については、早期の撤退や、他の店舗への集約を判断するための客観的な材料になります。
会計ソフトを導入する際も、この「店舗別の利益を出す」という視点を持つことが大切です。最近のクラウド会計ソフトは、部門別管理(この場合は店舗別)の機能も充実しています。
ご自身の事業の現状に合わせて、どのようなデータをどのように取得し、活用していくか、事前に設計しておくことで、後々の管理がグッと楽になります。
もし、ご自身の事業で
「店舗別の利益がどうなっているのかわからない」
「どうやったら効率的に把握できるのか知りたい」
といったお悩みがあればご相談ください。
事業をより良い方向へ導くお手伝いができれば幸いです。
投稿者

- 加藤博己税理士事務所 所長
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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