税理士に顧問契約を依頼する際に、依頼者が悩む点のひとつが記帳代行まで任せるかどうかではないでしょうか。今回はこの点について取り上げます。

記帳代行、頼むべきか、頼まざるべきか

新規のお客様から顧問契約についてお問い合わせいただく際、日々の取引の記録、いわゆる「記帳」を税理士に依頼するか悩む方は一定数いらっしゃいます。

記帳代行を依頼するかどうかで報酬が変わるため

「できることなら自社で対応して費用を抑えたい」

と考えるのは自然なことです。

ただ、このときに税理士の立場としては

「自社で記帳します」

という言葉を安易に鵜呑みにすることはできません。

こちらがイメージする「記帳できる」とご依頼者様のイメージするものが同じとは限らないためです。

最近はご自身でクラウド会計を契約して経理処理をされているケースもありますが

「預金やクレカのデータを連携して、ソフトが提案するとおりに処理したのだから、当然正しいでしょ」

と考える方がいるかもしれません。

実際のところ、こうしたケースでは「ほぼ100%正しく処理されていない」というのが、多くの税理士の肌感覚ではないでしょうか。

そのため、ご依頼を受ける際には、本当にご自身で記帳できるかきちんと確認するようにしています。

確認する中で、できるかどうか不安があるのなら、記帳代行を依頼いただくことを税務顧問を受ける条件としています。

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「自分で記帳できる」かどうかの判断基準

ここで明確にしておきたいのは、「会計ソフトへの入力」は必ずしも「記帳」ではないということです。

「会計ソフトに入力さえすれば、あとは税理士がチェックしてくれる」というのは、ご自身で記帳ができている状態とはいえません。

例えば、何かの修理を業者に依頼する場面を想定してみましょう。

「できるところまで自分でやったので、残りの部分だけ修理してください。自分で途中までやったのだから、当然料金は安くなりますよね」と言われたら、言われた側はどのように感じるでしょうか。

しかも、途中まで修理した箇所が全くの見当違いで、手直しするよりも最初からやり直した方が早い、という状況だったら困りますよね。

記帳についても同じです。どこが間違っているか確認して修正するくらいなら、こちらで最初から入力した方が早いわけです。

「経費をExcelに入力しているから記帳できている」という方もいらっしゃいます。

確かに、現金の入出金を記録した「金銭出納帳」を作成している場合、日々の現金管理はできているといえるでしょう。

しかし、「勘定科目」についての情報がなければ、取引内容からひとつずつ判断する必要があります。

経費の明細を入力しているだけでは、会計帳簿として十分とはいえません。

当事務所では、ご自身で記帳される場合は、原則としてその記帳内容を前提として税務処理を進めることとして、契約上も明記しています。

その前提条件を満たせるといえる状態が、「記帳できる」のひとつの判断基準となるでしょう。

もうひとつ別の判断基準を挙げるとすると、以前ブログでも取り上げた「預り金」の処理を理解できるかどうか、というのがあります。

例えば、単純に消耗品を購入した場合の仕訳は

消耗品費/現金

と比較的シンプルです。

しかし、従業員から源泉所得税や社会保険料を預かった場合など、もしくは税理士法人ではない税理士に報酬を支払う場合など、「預り金」が発生する取引になると、途端に仕訳の難易度が上がります。

この「預り金」の処理をきちんと理解できるかどうかは、「自分で記帳できる」状態かどうかを見極める上で、ひとつの指標になるでしょう。

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「記帳」についてイメージするレベルを合わせておく

他にも「自分で記帳するので一から教えてほしい」というご要望をいただくこともあります。

こうしたケースでは、その方の現状のレベルにもよりますが、記帳代行をご依頼いただくよりも報酬が高くなることもありえます。

先ほどの修理の例でいえば

「自分で修理するので、修理の仕方を最初から教えて」

といわれているのと同じわけです。

記帳についても基本から全てを説明するには、相応の時間と労力がかかります。

会計事務所と依頼者との間で、記帳についてはイメージする内容に大きな隔たりがあることが多いのが現状です。

顧問契約後に「こんなはずではなかった」とお互いに不幸な状態にならないためにも、税理士に顧問契約などを依頼する際には、記帳のレベルの理解に齟齬が生じないよう、事前にしっかりと話し合い、共通認識を持つようにすべきでしょう。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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