積み上げた数字が必ずしも正しいとは言えないのが経理の世界。数字の信頼性を高めるために、理論値との比較や多角的なチェックが必要な理由について確認しておきましょう。
「まず収支をとれ!」といわれた思い出
会社員として入社して間もない頃、材料在庫が正しいかどうかといった内容で、部門の担当者と結論が出ずに悩んでいたときに、当時の上司に言われた言葉が
「まずは収支をとれ!」
でした。
最初「ポカン」と聞いていましたが、そのとき説明してくれたのは材料収支表。
要するに
前月繰越在庫 | 当月仕入 | 当月消費 | 当月在庫 |
100 | 150 | 180 | 70 |
といった形の表ですね。
「収支をとれ」というのが、一般的な言い方かどうかはよくわかりませんが、今になって思うと、「あるべき数字」をまず抑えるのは大事なポイントだとよくわかります。
今回は、こうした理論値を使ってチェックをする意味や効果について考えてみたいと思います。
理論値との比較でミスがないか検討する
例えば、売掛金について考えてみましょう。
A社との取引について、売掛金の台帳があるとします。
前月繰越 | 当月回収 | 当月売上 | 当月残高 | |
A社 | 10,000 | 8,000 | 15,000 | 17,000 |
こうした表については、まず
- 当月回収は実際の入金額とあっているか
- 当月売上は発行した請求書と一致しているか
といったチェックを行います。
その上で、残高が正しいかチェックすることになりますが、大企業などは期末月であれば、監査手続きとして取引先に残高確認書を送ったりして、残高が本当に正しいか検証することになります。
中小零細企業だと、この残高が正しいかどうかまではチェックしないことも多いですが、回収したときに想定通りの金額が入ってこなくて、調べてみたら残高が間違っていたなんてこともあったりするわけです。
経理の経験がない方からすると
「計算した金額(残高)なんて正しくて当然でしょ」
と考えがちですが、これがそうでもありません。
例えば
「現金で回収していたのに入金処理を忘れていた」
「請求書をExcelで発行したけれど、システムへの入力を忘れていた」
「請求書の発行金額が間違っていた」
等々、売掛金の残高が正しくならない理由はいろいろとあります。
残高が合わなくなるのは、イレギュラーな処理をしたことが原因となるケースが多いです。
イレギュラーな処理は本来すべきではありませんが、実務上ゼロとすることは容易ではありません。
こうしたミスを見つけるためにも、帳簿上の理論値を計算して、実際の金額と照合するというチェックは重要です。
最初に挙げた材料在庫も同じです。
材料の場合は金額ではなく数量でチェックすることになりますが、購入した材料の数量と消費した数量をきちんと押さえた上で、理論在庫を現物確認して差異がないか確認することになります。
経理担当者が
「きちんと基礎資料と照合してチェックもしたので間違いありません」
と上司に報告したものの、上司から
「イメージが合わない、もう一度見直すように」
といわれて実際にミスが見つかるというケースは何度も経験しました。
また「経営者のカン」といわれるものも、割とこの理論値に近いものがあると思います。
明示的ではなくても、会社の利益などについて収支表のようなイメージがあり、それが「カン」といわれるものになっているのでしょう。
「こうなるはず」という基準値を持っていることは、ミスをなくすために非常に大事なポイントのひとつといえます。
違う角度からチェックすることを意識しておく
理論値と実際の値を比較することについてまとめましたが
「常に理論値が間違っていて、実際の値が正しい」
とは限りません。
例えば材料在庫について、理論在庫と現物在庫が合わずに調べてもらったら、普段とは異なる場所に一箱保管していた、といった経験は数知れずあります。
現物を数えたからその数字が正しい、とは必ずしもいえないケースもあるわけです。
目の前の在庫を数えても正しいとは限らないわけですから、「理論」と「現物」の両方からチェックするという見方、つまり違う角度からチェックするという意識は常に持っておくべきでしょう。
何かをチェックする際にも、同じやり方で2回チェックするよりも、異なる方法を1回ずつやった方がミスが見つかる可能性は高いものです。
数字をチェックする際のやり方として、基礎資料とチェックするだけではなく、別の角度からのチェックとして「理論値」を上手に活用する方法も意識していただければと思います。
投稿者

- 加藤博己税理士事務所 所長
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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