インボイス制度が始まり、早いもので既に1年が経ちました。今回は改めてインボイス登録すべき事業者と登録が必要ではない事業者の線引きについて整理します。

「なんとなく必要そうなのでインボイス登録しました」

インボイス制度の開始から、早いもので1年が経ちました。

制度が始まったあとにご相談を受ける中で、インボイス制度に登録した理由として

「なんとなく必要そうだったから」
「税理士に言われたので」
「登録しないといけないと思っていた」

といった理由で登録されたという話をたまに耳にします。

インボイス制度への登録については法律上の義務ではありませんので、必要性がなければ登録する必要はありません。

改めてインボイス制度についてカンタンにおさらいしておくと・・・

  • 事業者が税務署に支払う消費税は、売上に含まれる消費税から仕入や経費に含まれる消費税を差引いて計算する(ただし簡易課税や2割特例の場合は計算方法は異なる)
  • 商品やサービスを購入した事業者が上記の方法で消費税を計算して納税している場合、インボイスがないと支払った消費税を納税額計算時に控除できない
  • ただし当面(6年間)はインボイスがなくても、支払った消費税を部分的(80%・50%)に控除できる

となります。

要するにインボイスがないと買った側に不利益が生じる可能性があり、そうした不利益を被る取引先が多い売手は、取引関係を維持するためにインボイス登録をした方がいいということです。

そのため取引先が

  • 消費税を納税しているが簡易課税や2割特例を適用している
  • 消費税の免税事業者
  • 一般消費者

といったケースでは、インボイス登録していなくても、特に支障が生じることはないでしょう。

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インボイス登録が必要な事業者、不要な事業者

とはいえ、取引先が消費税を納税しているのか、納税していることがわかったとしても簡易課税等を適用しているのか、といったことを知るのは容易ではありません。

ここがインボイス登録すべきか判断する際に悩ましい点です。

こうした判断に悩むであろう事業のひとつが飲食業です。

仮に、企業が接待で使うケースが多い飲食店であれば、インボイス登録はお店を選んでもらう際のひとつのアピールポイントになる可能性があります。

その一方で、例えば観光地の飲食店などで、お客さまのほとんどが旅行者の場合はどうでしょうか。

恐らく「インボイスをください」といわれることはまずないでしょう。

従来から消費税を納税していたのであれば、インボイス登録をしたとしても大きな違いはありませんが、もともと消費税を納税していない規模の事業者は慎重に判断すべきです。

※インボイス登録の有無で積上げ計算ができるかどうかといった違いはありますが、今回は無視します。

他に、小売業も登録すべきか悩ましい業種です。

例えば、近くに会社がたくさんあり、そうした人たちが会社で使う備品などを買いに来る場合は、インボイス登録しておいた方が、継続して購入してもらえる可能性が高いです。

その一方で観光地の土産物屋だったとしたらどうでしょうか。

可能性として

「海外の取引先が商談のため日本に来ている。日本らしいものをお土産として渡したいので観光地の土産物屋で買う。」

というケースはゼロではないと思いますが、恐らくインボイスをもらえると期待していないのではないでしょうか。

こうしたケースではインボイス登録する必要性は高くないといえます。


ちなみに、インボイス制度に登録すると、2割特例という多くの事業者にとって消費税額を抑えられる制度を使える可能性があります。

ただし、これはあくまで従来消費税の納税がなかった事業者の納税負担を、期間限定で抑えるためのものです。

もともと消費税を納税していた場合は、2割特例を使えませんので、これは登録する理由にはなりません。

免税事業者はインボイスに登録しなければ、そもそも消費税の納税は生じませんので、2割特例を使えるからトクをするというものではありません。

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事業の特性や顧客層により結論は異なる

いくつかの例について確認しましたが、インボイスに登録すべきかどうかは

「小売業だからインボイス登録不要」

といった単純な話ではありません。

インボイス登録の要不要を判断するには

  • 自社の事業内容
  • 顧客層
  • 顧客との取引関係の状況(インボイスなしでも取引継続してもらえるか等)

といったポイントをきちんと見極めた上で、判断することが必要です。

「なんとなく言われるままにインボイス登録した」という方は、インボイス登録が本当に必要かどうか、いま一度見直してみてはいかがでしょうか?

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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