税理士や会計事務所に記帳を依頼する記帳代行について「自分でやるので税理士の報酬を下げて」という要望がありますが、その考え方に問題はないでしょうか。記帳を依頼すべきケースとすべきでないケースについて考えてみましょう。

会計ソフトへの入力くらい誰でもできる?

お問い合わせをいただいたお客さまと話をしていると

「記帳は自分でやるので、料金を下げてほしい」

という要望をいただくことがあります。

こうしたケース、よくよく聞いてみると

  • 今まで経理処理はやったことがない
  • 会計ソフトを購入して、調べながらやってみる
  • 自分のところは難しい処理はないのでなんとかなると思う

といった説明をいただくことが多いものです。

やったことがないことについて

「難しくない」
「なんとかなる」

という判断をされる根拠がよくわからないと思いつつ、いつも話を聞いていますが・・・

個人的な意見としては、今まで経理の経験がない方が会計ソフトへの入力を、それほど時間をかけずに、さらにある程度の正確性を確保して行うのはカンタンではないと考えています。

「今の時代クラウド会計を使えば、ボタンを押すだけ」という話もありますが、これも事前の設定をきちんと行うからできることであって、会計ソフトが提示する推測された科目で処理しても、特に貸借対照表(B/S)の残高は正しくなりません。

自分で正しくない記帳をして、その正しくない数字をもとに経営判断をすると、判断を間違えます。

また人材の採用に悩む会社が多い中、経理担当者を採用・確保できないというケースも考えられます。

こうした場合に、経営者自身が経理業務を行うことが本当に正しい判断かどうか注意が必要です。

もちろん事業を行う上で、利益に貢献しないコストの削減について考えることは間違っていません。

ただ、記帳代行のコストを下げることを考えるくらいなら、不慣れな経理処理にかける時間をアウトソースで浮かせて、その時間を使って記帳代行のコストを超える利益を上げる方法を考えるべきでしょう。

単なるコストの削減だけを考えていても縮小均衡に陥るだけであり、売上を上げることを必死になって考えないと何も解決しません。

「不慣れな経理に時間がかかってしまい、営業活動に時間を割けない」なんて状況は、本末転倒です。

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税理士に記帳を頼んでも数字が出てくるのは数ヶ月後?

その一方で

「税理士事務所に記帳を依頼しても、数字が出てくるのが遅すぎて困る」

といった意見があるもの事実です。

ただ、こうした点については、恐らく依頼する先により大きく状況は大きく異なります。

最近はクラウド会計などを上手に活用して、数日から1週間くらい(中にはもっと早く対応できる方も)で数字をまとめてくれる税理士も増えています。

「税理士に頼んだから記帳が遅い」というわけではなく、依頼する先や自社内での数字・資料の事前の整理状況によって成果物が出てくるまでの期間は変わってくる、という点は理解しておくべきでしょう。

とはいえ

「依頼してから数字がでてくるまで数日待つのももどかしい」
「できるだけリアルタイムに近い状態で数字を把握したい」

といった要望を持つ経営者もいると思います。

こうした場合であれば税理士事務所に依頼するよりも、経理担当者を雇って(必要であれば税理事務所にサポートをもらいつつ)数字を自社で早期に固められる体制を作っていくべきでしょう。

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依頼すべきケース、依頼すべきでないケース

このように考えると、記帳を外部に委託すべきケースと委託すべきでないケースが見えてきます。

委託すべきケースとしては

  • 経験がなくて経理処理のやり方がよくわからない
  • 人手不足で経理のための人材を確保できない
  • 経理に時間をかけるくらいならもっと稼ぐことを考えたい

といったケースが該当するでしょう。

委託すべきではないケースとしては

  • 常にリアルタイムで経営数字を把握できる体制を構築したい

といったケースが考えられます。

常にすべてのケースで記帳を外部に委託することが正しいわけではありませんが、リソースが不足しがちな中小企業では、苦手な業務を外部に委託することは良く行われることです。

自社の状況に応じて、どこにリソースをかけるべきか慎重に検討しつつ判断しましょう。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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