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日本商工会議所の調査などを見ていると、事業者のインボイス制度への準備はまだまだ進んでいないようです。対応せずに放置したときに起きうる問題点について整理しておきましょう。

日本商工会議所のインボイスに関する調査

今月になってから、日本商工会議所が

「消費税インボイス制度」と「バックオフィス業務のデジタル化」等に関する実態調査結果について

という調査を公表しました(調査対象は商工会議所の会員企業)。

【調査結果のポイント】には

インボイス制度導入に向けて特段の準備を行っていない事業者の割合は、全体で42.2%と昨年の59.9%から減少したものの、「売上高1千万円以下の事業者」では60.5%にのぼり(昨年は73.0%)、小規模な事業者ほど準備が進んでいない実態が浮き彫りになった。
○ 【新設】既にインボイス発行事業者登録申請を行った事業者は10.5%に留まっている。
制度導入に向けた課題は、「そもそも制度が複雑でよく分からない」が47.2%で、最多の結果となった。

といった内容が書かれていて(太線は筆者による)、インボイス制度に対する理解や対応が進んでいないことが伺えます。

調査結果をみていると

「なんか世の中では大騒ぎになってるけど、何もしなくても別に困らないんじゃないの」

と思っている事業者の方も一定数いるのではという気がします。

もしインボイスへの対応を一切行わず放置していたらどんなことが起きうるのか。

今回は、この点について考えてみたいと思います。

インボイスへの対応を怠ると起きうる問題点

インボイス制度により受ける影響については、「売手」と「買手」の立場で分けて考える必要があります。

売手と買手それぞれで場合分けをして確認してみましょう。

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【売手】が免税事業者の場合

インボイス制度に対応しない、つまりインボイスを発行するための申請・登録をしないことにより考えられる最悪のケースは、取引先との取引がなくなることです。

公正取引委員会などは、インボイスを理由とした一方的な見直しはダメと言っていますが、逆に言えばきちんと手順を踏めば取引を見直すことも可能ということ。

※上記の点については、公正取引委員会等が連名で出している以下のサイトのQ7を参照ください。

免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A:公正取引委員会

免税事業者ということは、そもそも事業規模が小さいでしょうから、取引が見直されることによる影響は大きいはず。

ところが取引継続のためにインボイスを発行するとなると消費税の納税が必要となります。

そうした意味では、インボイスへの対応を検討せずに放置すると最も影響を受けるのはこのケースかもしれません。

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【売手】が課税事業者の場合(事業者との取引がメイン)

既に消費税を納税しているのにインボイスを発行しないとどうなるか?

顧客が主に事業者の場合、免税事業者と同じ状況になる可能性はありますが

「インボイス発行してくれないの?」

と取引先から要望を受けたときに対応すれば、大きな問題にはならないかもしれません。

ただ取引先が「インボイス欲しい」と要望してくれればいいですが、取引先からの確認もなくいつの間にか取引が減少していくなんて可能性もゼロではありませんので、やはりきちんと検討した上で対応した方がいいでしょう。

【売手】が課税事業者の場合(消費者との取引がメイン)

消費者に対してはインボイスを発行する義務はありませんので、特に対応は不要と考えている事業者が多いと思います。

基本的には間違っていませんが、もし現状「積上げ計算」という消費税の計算方法を採用している場合は注意が必要です。

この「積上げ計算」をインボイス開始後も継続したいのであれば、インボイス発行事業者として登録しておく必要があります。

「ウチは消費者しかお客さんいないからインボイスなんて必要ない」と放置していると、インボイス制度が始まった後に

「ん?なんか去年までより消費税の納税額が増えてるような気が・・・」

という状況になる可能性もありますのでご注意ください。

【買手】が原則課税で消費税の納税額を計算している場合

支払った消費税を元に納税額を計算する原則課税という方法で消費税を計算している場合、取引先からインボイスをもらえないと消費税の納税額が増えてしまいます。

「当然インボイスをもらえるだろう」と高を括って確認を怠ると、インボイス制度が始まってから受け取った請求書等をみて驚くことになるかもしれません。

気付いてからインボイス発行を要請したり、取引先の変更を検討していたのでは時間がかかりすぎてしまいます。

大口の取引先については、事前にインボイスを発行してくれるか確認しておいた方がよいでしょう。

【買手】が簡易課税で消費税の納税額を計算している場合

簡易課税といわれる方法で消費税の納税額を計算している場合には、取引先からインボイスをもらえなくても困ることはありません。

このケースはインボイスへの対応を放置しても、特に影響はないと考えてよいでしょう。

ただし、事業が急成長中で数年内に売上が5,000万円を超える可能性があるのであれば、今からインボイス制度への対応を検討しておくべきでしょう。

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「わからないから何もしない」では損をする

インボイスへの対応を放置した場合に起こりうる問題点について整理してみました。

他にもいろいろとあるとは思いますが、主なものは大体網羅できていると思います。

インボイス制度のような新しい制度については

「理解した上で放置している」

のであればまったく問題はありません。

逆に「よくわからないから」といって思考停止に陥り何もしないと、今回のような問題が起きる可能性があります。

「わからないから何もしない」では、最終的に損をするのは自分自身です。

調べたり考えたりするのは苦痛ではありますが、気になる方は検討をはじめた方がよいでしょう。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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