経理を簡単・楽にしたいと思ったときに、どうしても立ちはだかるのが「現金」です。経理でのキャッシュレスを目指すための進め方を確認しておきましょう。

現金があるとなぜ大変か?

経理を合理化・効率化しようとする際のひとつのポイントが「現金」です。

現金を扱っていると付随して様々な仕事が発生します。

仮に経理業務が現金を中心に行われているとすると

  • 現金がいくら残っているか数える
  • 金銭出納帳を作成する
  • 現金残高と金銭出納帳を照合する
  • 照合結果に差異があれば原因を追及して解決する
  • 売上を現金で回収した際に領収書を発行する
  • 現金で経費などを支払った際に領収書をもらい保管する
  • 仮出金の申請に対して現金を準備する
  • 経費精算の度に残った現金を受取る

とざっと考えただけでも、このような現金にまつわる業務が発生します。

こうした業務は意外と手間がかかるものであり、減らしたりなくすことができれば、経理の合理化は大きく進みます。

そのためには、現金の取扱いを減らす(理想は現金の取扱いをなくす)ことが必要です。

そこで今回は業務上取り扱う現金をなくすための取組である「キャッシュレス」の進め方について確認しておきましょう。

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経理のキャッシュレスの具体的な進め方

キャッシュレスを進めるためには

  1. 現金が使われている業務を洗い出す
  2. 1の業務を現金を使わずに処理する方法を検討する
  3. 採用する方法を決定して実施する

という流れになります。

現金が使われる可能性がある主な業務としては

  1. 売上の回収
  2. 仕入・経費の支払い
  3. 仮出金・経費精算
  4. 小口現金

といったものが挙げられます。

業種や業態によっては他にもあるかもしれませんが、この4項目で現金業務の大部分はカバーできるでしょう。

これらの項目について、現金を使わずに処理する方法を考えてみましょう。

売上回収

まず考えられるのは、売上を現金で支払ってくる相手先に対して、銀行振込での回収を交渉することです。

この場合、振込手数料の負担が問題となる可能性があります。

本来は支払う側が負担すべきものですが、現金回収の手間(領収書の発行、現金残高の管理)が減ることの効果と比較した上で効果が上回るのであれば、こちらでの負担も検討する必要があるでしょう。

毎月継続的な取引がある場合には、口座振替による回収を導入することもひとつの方法です。

また店頭での一見客が多い業種であれば、キャッシュレス決済を導入して店頭にわかりやすく明示するなど、そちらに誘導していくことも検討すべきでしょう。

仕入・経費の支払い

こちらは自社でコントロールできる内容ですから、売上回収と異なり進める際の障壁は少ないはずです。

銀行振込による支払い、取引先が口座振替やクレジットカードでの決済を準備しているのであればそれに切替えるなど、現金以外の支払い方法に切替えていきましょう。

なお、銀行振込による支払いの場合であっても、銀行窓口で振込処理をしていたのでは、銀行に行く時間・窓口で待つ時間などムダが生じます。

ネットバンキングを導入して振込手続きも外出せずに完結できるよう変えましょう。

仮出金・経費精算

仮出金や経費精算をなくすひとつの方法は、法人カードを導入して対象者に持たせることです。

営業担当者の出張用チケット購入などのために仮出金をする必要がなくなりますし、仮出金の残額を現金で受け取る業務もなくなります。

ただ会社によっては、法人カードを悪用されるリスクを恐れて、導入したくないというケースもあるかもしれません。

そうした場合には、仮出金は振込により申請者の給与振込口座に振込み、旅費の精算は給与計算の中で行うという方法も考えられます。

社員数が多い場合には、こうした業務を管理するために経費精算システムの導入を検討する必要も出てくるでしょう。

小口現金

小口現金という形で、日常の細々とした経費の支払いを管理している会社は既に多くないかもしれません。

その一方で、小口現金の目的を日々の細かな備品購入への支払い対応と考えれば、経理を合理化するために備品購入をアスクルやAmazonなどのネット通販に切替えるという方法が考えられます。

こうしたサービスを利用した上で、支払い方法を法人カードや請求書払いにしておけば、現金を使って都度支払う必要はなくなります。

会社の規模が大きくなってくると、注文時の承認方法をどうするかという検討も必要となりますが、備品購入先の集約は合理化のためのひとつの方法となります。

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コストの問題をどう考えるか?

ここまで現金関連業務の洗い出しと、キャッシュレス実現のための方法を整理しましたが

「コストがかかるからやりたくない」

という意見があるかもしれません。

今回ご紹介した中には、口座振替やキャッシュレス決済利用時の手数料、法人カードや経費精算システムの利用料など、導入することによりコストが発生するものも含まれています。

この点については、キャッシュレスの実現により実現する

  • 管理する現金の減少による実査・照合の効率化
  • 売上回収のキャッシュレス化に伴う領収書発行の廃止
  • 仕入・経費の支払い手続き削減
  • 経費精算効率化による経理及び経費精算申請者の手間の減少

といった効果を含めて判断すべきでしょう。

こうした効果は残業代の削減といった形で直接的にコスト削減につながるケースもありますが、今までやるべきだった仕事に時間を振り向けられるという形で効果がでてくることもあります。

さらにいえば、小売業などで釣り銭を準備する場合、以前と異なり金融機関で両替手数料が取られるケースも増えてきています。

現金を減らすことによりこうした両替手数料の削減にもつながります。

これらの効果と新たな仕組みの導入によるコストをきちんと比較した上で、キャッシュレス実現に向けて舵を切るかご検討いただければと思います。

今回の記事が、経理のキャッシュレス化を検討する際の参考になれば幸いです。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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