現在も「DX」という言葉をよく見かけますが、電子帳簿保存法やインボイスへの対応がDXにつながるのかについて少し考えてみたいと思います。

DXってペーパーレス化のことを指す?

先般ネットを見ていたら、DXに関する記事を見かけました。

全部読んだわけではないのですが、企業に対するアンケートについてのもので

「DXとは何か?」

という質問への回答(複数回答可)として最も多かったのが

「ペーパーレス化を進める」

というものだったということです。

複数回答が可能なアンケートのようですので、多くの企業で

「DX=ペーパーレス化」

と思っているわけではないと思いますが

「ペーパーレスができればDXを達成できる」

という考え方が蔓延っているとすると、「DX」もかけ声倒れに終わってしまうのではないかと心配になります。

経済産業省が平成30年に出したDXレポートやその他の書籍を読んだ上での、私なりのざっくりとしたDXの理解としては

  • 日本企業の多くに、昔ながらの古いシステムが残っていて、保守が大変でIT人材の多くがそこに割かれてしまっている
  • そうした古いシステムをだましだまし使っていても、企業の競争力強化にはつながらない
  • だから競争力を強化できるようなシステムに刷新して、そこに蓄積したデータを活用した新しいビジネスの創出などにつなげるべき

というものです。

最終的には

「データを活用してビジネスを強化しよう」

という目的があるわけですから、単純に紙を無くすだけでこの方向に向かっていけるのかどうか。

ペーパーレス化の目指すところが

「取引全体をデータ化する」

という方向であればよいのですが、単に

「手元の資料をスキャンしてPDFファイルに置き換える」

だとすると、書類保管スペースの削減や出勤せずに書類を閲覧できるというだけで、それ以上の効果は見込めないんじゃないかと。

電子帳簿保存法がDXの役には立たないと思う理由

このように考えたときに、電子帳簿保存法への対応を進めることは、多少なりともDXに貢献するのかというと、まあ役には立たないだろうな、と思ってます。

理由としては

  • 電子取引データの保存(義務化の対象)
    • 電子取引の範囲が広すぎて、EDIデータからPDFファイルの請求書までデータとしての性質が異なるものが含まれてしまっている
    • そのため法律を守っても、例えばメールで送られて来るPDFファイルの請求書を保存するという現状を是認するだけ
    • 結果として、PDFファイルの請求書をEDIなどに置き換えるといったインセンティブは働かない
  • スキャナ保存(任意の制度)
    • 紙をPDFファイルなどのデータに置き換えるだけ
    • スキャン後のPDFファイルを事業に役立てるという発想は、当然ながら法律の中にはない(企業や事業主が意識しないと、スキャンするという作業をするだけになってしまう)
    • 法律に対応するだけでは、電子取引データの保存と同じく、紙の請求書を無くそうというインセンティブは働かない

といったところです。

もちろん電子帳簿保存法は

「帳簿や書類などをデータで保存することを認めてあげる」

という法律なので、そこに「DXの推進」という側面を期待すること自体が間違っているのでしょうけれども、何も考えずに電子帳簿保存法に対応するだけでは、業務のデジタル化や改善にはつながらない、という点は頭の片隅に入れておくべきかと。

電子インボイスが普及すればDXも進むか?

個人的な意見ではありますが、電子帳簿保存法よりもインボイスの方が、まだDXを推進するという点では効果があるかもしれないと考えています。

あちらこちらで評判の悪いインボイス制度ですが

インボイス制度への対応は大変・負担が重い → 紙の書類のままでは対応できない可能性が高い → やむを得ず電子インボイスの導入を検討する

という流れで、事務負担が重いが故に電子化を検討せざるを得ない局面になる可能性があるんじゃないかと。

(風が吹けば桶屋が儲かる、みたいな感じであまりよいロジックとは思いませんが)

電子インボイスが

「電子的なデータ、例えばPDFファイルの請求書などであっても、インボイスとして認める」

ということだけであれば、電子インボイスを導入したところで、状況としては電子帳簿保存法への対応と何も変わりません。

電子インボイスについて状況が異なるのは、Peppolという海外の規格を日本に導入しようという動きがあり、これに賛同している会計ソフトメーカーなどがあるという点です。

(ちなみにPeppolについては、PINTという名称に変わるようです)

現時点でPeppolに対応した具体的な製品はまだ出てきていません(今年の秋頃に出てくる予定とされています)。

そのため、実際にどのような使い勝手になるかはわかりませんが、ソフトを導入した企業(特に中小企業)がさほど意識せずに、PDFファイルをメールで送る業務フローから取引データを取引先に送信するように変わっていくのであれば、システムを刷新してデータを活用するというDXの方向性に沿った動きにつながるのではないかと期待しています。

実際には、ここで書いたとおりにうまくいくかどうかはわかりませんが、世の中の取引のデータ化・デジタル化につながるのであれば、悪名高きインボイス制度も、まったく意味のないものではないかもしれません。

今回は、ネットで見かけた記事の内容から、DXと電帳法・インボイスについて考えていることをまとめてみました。

皆様のDXや電帳法・インボイスへの対応の参考になれば幸いです。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち、7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。