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弥生会計のスマート取引取込では、取り込んだデータに対して複数行の仕訳を自動的に作成できませんでした。先日のアップデートでこの点が改善されましたので、その内容を確認しておきましょう。

スマート取引取込を使う上での問題点

弥生会計のスマート取引取込、という機能。

CSVファイルをインポートして仕訳を作成するには便利な機能ですが、使う際に大きな問題がありました。

それは、

「ひとつの入出金データから、複数行の仕訳を作成できない」

という点。

経理の経験をお持ちであれば、

  • 売掛金の回収の時に、先方が振込手数料を引いて振込んできた

  • 税理士に報酬を支払う際に源泉所得税を引いて支払った

  • 毎月の借入金の返済の際に、元本と利息の合計額が引落しされる

といった、ひとつの入出金データから複数行の仕訳を作成するケースをご存じかと思います。

こうした取引の場合、スマート取引取込の仕組みの中で適切な仕訳を作成することができず、データ取込み後に弥生会計で修正する必要がありました。

クラウド会計やデータ化サービスなどでは、自動仕訳ルール等の機能を使って問題なくできることが、今までできなかったわけです。

アップデートにより追加された「加算」と「分割」設定

先月、アップデートにより先ほど挙げたような取引データについて対応しました、との発表がありました。

ただ、説明を見ていると、

「複数行の自動仕訳ルールが作成できる」

という書き方ではなく、

「ある取引に対して金額を追加/分割して取引を自動追加することが可能」

となっています。

クラウド会計を使う際にイメージされる「複数行の仕訳ルール」とは異なる対応方法である点については、注意が必要です。

設定方法については、

弥生:スマート取引取込「弥生会計へのデータ取込」運用ガイド

の12~13ページに説明がありますので、詳細は省きますが、「取引追加ルール設定」メニューで「加算」と「分割」という区分を使ってルールを設定します。

「加算」と「分割」の違いですが、

  • 加算:本来の金額よりも少ない金額での入出金のケース(手数料控除した売掛金の回収、源泉徴収控除後の税理士報酬の支払 など)
  • 分割:実際の入出金の金額を分割するケース(借入金返済を元本と利息に分割する など)

という使い分けになります。

具体例は、以下の運用ガイドからの抜粋をご参照ください。

スマート取引取込「弥生会計へのデータ取込」運用ガイドP12より抜粋

この機能を確認して気になったのは、次の2点です。

  1. 預金や売掛金の仕訳が2行に分かれてしまう点
  2. 「加算」「分割」の設定が、「仕訳ルール設定」メニューでできない点
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預金や売掛金が2行に分かれてしまう

今回のアップデート、行を「加算」したり「分割」するという考え方での対応のため、仕訳の中で売掛金や普通預金の金額が2行に分かれてしまいます。

普段はそれでも構わないかもしれませんが、

  • 弥生会計の預金残高と通帳の預金残高が合わない
  • 弥生会計の売掛金残高と売掛金元帳の残高が合わない

となった場合に、例えば売掛金であれば

  • 弥生会計(総勘定元帳:売掛金):99,120円と880円に分かれて表示
  • 売掛金元帳:100,000円と表示

となってしまい、照合がやりづらくなります。

クラウド会計の自動仕訳ルールであれば、こうした問題は生じませんので、将来的に改善されることを期待します。

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ルール設定メニューが分かれてしまっている

今回の設定画面が通常の「仕訳ルール設定」とは別の「取引追加ルール設定」とされている点も、使い勝手という点では気になります。

ユーザーからすればどちらも「仕訳ルールの設定」ですから、同一の画面ですべて完結できた方が手間がかかりません。


とはいえ、複数行の仕訳をデータから自動的に作れなかった点が、スマート取引取込の利用を躊躇させる原因のひとつでありましたので、このアップデートは歓迎すべきものです。

これにより、スマート取引取込で対応できる場面は増えるでしょう。

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導入のためのハードルを下げるには

弥生会計は、入力作業を前提に何年もかけて磨き上げてきたソフトのため、直接入力する場合には非常に使いやすいものとなっています。

その一方で、そのメリットを活かしたまま、「クラウド会計的なこと」ができるよう対応されてきましたので、その点に関してはどうしても使いづらく感じる部分があります。

スマート取引取込を使うにしても、インストールされた弥生会計から、Web上のスマート取引取込の画面に移動しないと、今回のような取引ルールの設定や修正を行うことができません。

設定や作業が一カ所で完結しないと、どうしても「使いにくい」「作業がやりにくい、面倒」という印象を持ってしまいます。

この「使いにくい」という感覚を一度持ってしまうと、ツールを導入する際のハードルが上がってしまいます。

導入のハードルを下げるためにも、いわゆるUI(ユーザーインターフェース)の部分が抜本的に見直されないものかと。

入力はやりやすいまま、UIを改善して欲しいというのは、無茶な要望なのかもしれませんが、そこを改善しないとクラウド会計に慣れた方達に使ってもらうのは厳しいと感じています。

今回は、弥生会計のスマート取引取込のアップデートについて確認しました。

個人的な意見も多分に含まれていますが、活用される際の参考になれば幸いです。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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