決算において注意すべき点は多々ありますが、売上の計上漏れや、計上時期のズレには特に注意が必要です。今回は「売上計上モレ」を防ぐためのポイントを確認しておきましょう。
目次
税務調査で必ずチェックされる「売上」
みなさん、こんにちは。京都の税理士、加藤博己です。
税務調査でチェックされる項目はいろいろとありますが、中でも「売上」は、事業における根幹であり、当然ながら税金計算のベースとなるため、最も重点的に確認されます。
税務署が売上に関して確認したいことは、主に次の二点です。
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そもそも売上が漏れていないか?
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現金商売であればレジの記録や日計表、振込が主であれば預金通帳など、あらゆる資料を突き合わせて売上の計上漏れがないかを確認されます。
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計上するタイミングが適切か?
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特に決算期前後の取引について、商品やサービスを引き渡した事実に対し、売上が正しく計上されているかを確認します。例えば、期末までに納品が完了しているにもかかわらず、入金が翌期だからといって翌期の売上にしていないか、といった点です。
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正直なところ、「これさえやっておけば税務調査は完璧!」という魔法のような方法はありません。
しかし、税務調査官が来て、あれこれと細かい指摘をされるのが嫌だ、余計な手間をかけたくないというのであれば、まず売上をきちんと、漏れなく、正しいタイミングで計上しておくことは、最低限取り組むべきことです。
特に売上の計上漏れが見つかると、「他にも漏れているのでは?」と疑われかねません。
だからこそ、日々の経理処理における売上の計上は、細心の注意を払って行う必要があります。
正しい売上を計上するために売掛金をキレイにする
ポイントは「回収管理」
では、どのようにすれば売上を正確に計上し、税務署からの指摘を最小限に抑えることができるのでしょうか。
そのポイントとなるのが「売掛金」の管理です。
ある程度の規模の会社であれば、商品やサービスを引き渡した(納品した)時点、またはその月の納品分をまとめて請求書を発行し、その時点で売上を計上する、という流れが一般的でしょう。
この際、まだ現預金を受け取っていないため、一時的に「売掛金」という債権として資産計上します。
売上計上後に必要なのは、その後の回収管理です。
請求した金額が期日通りに入金されているか、入金されなければなぜなのか、を把握しておくことが重要です。
大企業などでは、監査法人からの指示を受けて、期末に取引先から残高確認書を取るといった対応を行うケースもあります。
最も確実でモレを防ぐ方法は、この一連の流れを徹底することです。
とはいえ中小企業だと、取引先との残高確認まで行うのは実務としては現実的ではないケースも多いでしょう。
それでも、少なくとも「回収管理」の一環として、売掛金の中身は定期的に確認し
- 回収が遅れているものがないか
- 売掛金がないのに入金されているものがないか
- 月々の取引量と比べて異常な残高はないか
といった点を確認することで、売上計上の精度を上げることが可能です。
「入金時売上計上」の落とし穴
売上計上のタイミングについて、中小企業でよく見受けられるのが「入金時に売上計上する」という方法です。
厳密に言えば、期中はこの方法で運用し、期末にだけ未回収分を「売掛金」として計上する、というケースです。
一見すると、最終的な数字は合うように見えますが、ここに大きな落とし穴があります。
普段から回収管理がきちんとできていれば問題ありませんが、もしできていない場合
「そもそも、期末時点で未回収となっている売掛金残高を、漏れなく正確に把握できるのか?」
という問題が生じるのです。
納品書や請求書の控え、それと入金記録を都度確認して、漏れなく残高を計算する作業は、非常に手間がかかり、ミスも起きやすい作業です。
ここで漏れが生じると、売上計上そのものに漏れが発生し、税務調査の指摘対象となりかねません。
「少なくとも決算月の翌月の入金はチェックしているから大丈夫」という考え方も安全とはいえません。
決算の翌々月、あるいは数ヶ月後に入金される取引があった場合、その売上が漏れてしまう可能性が高くなります。
調査で指摘された時に、「入金が遅れた売上は計上しなくてもいい」というルールは存在しませんから、結局は修正申告が必要になるという話になってしまいます。
正しい売上の計上方法(納品・役務提供時に計上)に基づき、日常的に売掛金を管理していくことが、最もリスクの低い方法なのです。
貸借対照表はメンテしないと大変なことに
日々の経理で売掛金のチェックをきちんと行っていれば、問題は起きにくいものです。
それに対して、こうした売掛金や未収入金といった債権の管理をいい加減にやっていると、内容のよくわからない「塩漬けの未回収残高」が貸借対照表(バランスシート、B/S)に残ってしまいます。
担当者が変わったり、時間が経ったりすると、その未回収残高がいつ、誰に対するものだったのか、経緯もわからなくなってしまいます。
その結果、誰も触れたがらなくなり、放置されてしまうケースが起こりえます。
貸借対照表と損益計算書には、ひとつ大きな違いがあります。
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損益計算書(P/L): 売上や費用を集計したもので、原則として毎期リセットされ、新たにスタート
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貸借対照表(B/S): 資産、負債、純資産を示したものであり、過去からの積み重ねで残高が構成
つまり、過去にいい加減な処理をしてしまうと、貸借対照表ではその影響がずっと残ってしまいます。
売掛金は貸借対照表の「資産」の部に計上される項目ですから、過去の処理の積み重ねがダイレクトに残高に反映されます。
過去に処理を怠ると、そのツケはいつまでも残り続けるのです。
今回は、売上を正しく計上するためには売掛金のチェックが不可欠である、という趣旨で解説してきましたが、それだけでなく、会社の財政状態を正確に把握し、内容の不明な未回収残高などを未来に先送りしないためにも、日常的な、そして期末におけるきちんとしたチェックと債権に対する対応(回収、貸倒処理など)が必要になってきます。
売掛金の残高を定期的にチェックし、回収できていないものはなぜ回収できていないのか、将来的に回収不能の可能性はないか、といった視点で分析することが、健全な経営を行う上でも、税務リスクを回避する上でも非常に重要であるということを、認識いただければと思います。
投稿者

- 加藤博己税理士事務所 所長
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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