税理士などの専門家と依頼者との間のコミュニケーションがうまくいかないことは起きうるものです。この原因のひとつとして「情報量」の差があるのではないでしょうか。今回は専門家がコミュニケーションをする際に意識すべき「情報量」の差について考えてみましょう。
眼科を受診して驚いた話
みなさん、こんにちは。京都の税理士、加藤博己です。
ここ数年、目のかゆみや充血が起きることが増え、定期的に眼科に通って目薬をもらっています。
以前は、ひどい充血もあってそのための目薬も使っていたのですが、最近症状が治まってきたので、しばらくその目薬の使用をやめていました。
ところが、また最近になって症状が出始めたので、薬をもらいに眼科へ行ったときのことです。
診察時に、充血を抑える目薬を欲しい旨を伝えたところ、先生から
「実は、以前眼圧が高かったのですが、薬をやめてから正常値に戻っているので、あまり使わない方がいいですよ」
と言われ、正直かなり驚きました。
というのも、診察の度に眼圧測定はしていたのですが、「眼圧が高い」という話を聞くのは初めてだったからです。
「眼圧が高いどういう問題が起きますか?」と質問すると、先生は「緑内障のリスクがあります」と説明してくれました。
恐らく先生は、私の目の経過を見ていて、まだ伝えるほどのことではない、あるいは、薬をやめて眼圧が正常に戻ったのだから、特に言わなくてもいいだろう、と思ってらっしゃったのかもしれません。
しかし、私からすると「え、そうだったの?」「緑内障のリスク?」と、突然言われた事実にビックリです。
この一件で、改めて専門家と非専門家の間にある「情報量」の差について深く考えさせられました。
「情報量」の差から生じる弊害
今回の眼科の事例は、まさに税理士の仕事においても同じようなことが言えます。
私たち専門家からすると「当たり前」だと思っていることで、特に伝えるまでもないと考えていた内容について、ふとした瞬間に話してみたら、お客様が驚かれるということは起きうる話です。
インターネットの普及により、誰もが情報を得やすくなっているとはいえ、専門家とその専門家に仕事を依頼する人との間には、いまだに大きな「情報量」の差があるという点は、常に意識しておくべきでしょう。
専門家にとっては「当たり前」であっても、依頼する側からしたら「衝撃の事実」であったり「なんで教えてくれなかったの」と感じることがあるからです。
この「情報量」の差が悪い形で現れるもののひとつが「専門用語」でしょう。
例えば、消費税の簡易課税を選ぶお客様に対して
「消費税簡易課税制度選択届出書を期日までに税務署に提出する必要があります」
と伝えても、正直、なかなかピンとこないことが多いでしょう。
それよりも
「決算日までに税務署に届出を出さないと簡易課税は使えませんよ」
といった、より平易な言葉に言い換えてあげた方が、重要性や行動が伝わりやすいケースは多いはずです。
また、横文字についてもなるべく使わないよう気をつけた方がよいでしょう。
悪い例として「この処理のままでは税務上リスクがあります」という伝え方があります。
これでは、「一体リスクって何やねん!」と、お客様は困惑してしまいます。
これも例えば
「この処理のままでは、税務署から○○と指摘されて、追加で税金を払う(修正申告をする)ことになるかもしれません」
くらい、具体的かつ噛み砕いて伝えるべきでしょう。
「税務上のリスク」という言葉は、私たち専門家にとっては「税務調査で指摘を受ける可能性がある」という意味で使ってしまいがちですが、お客様にとっては抽象的すぎて、具体的な危機感や問題点が伝わりにくいのです。
「情報量」の差を意識してコミュニケーションを明確に
専門家である私たちは、自分たちが持っている「情報量」や「知識」を基準として話を進めてしまうと、無意識のうちにお客様に誤解や不安を与えたり、重要な情報を伝え損なう可能性があります。
特に税理士の仕事では、法律や制度が関わるため、お客様にとって理解しにくい部分が多いものです。
だからこそ、その「情報量」の差を埋める努力をしなければなりません。例えば具体的な行動としては、次のようなことが考えられます。
- 専門用語や横文字を極力使わず、平易な言葉で伝える
- 「当たり前」だと思っていることでも、重要性が高ければ必ず説明する
- 期限やペナルティなど、お客様にとって不利益になり得る情報は、具体的に明確に伝える
今回の眼科の経験は、お客様とのコミュニケーションにおいて、立ち位置や情報に対する認識の違いを常に意識し、より明確で丁寧な説明を心がけることの重要性を、改めて教えてくれました。
専門家として仕事をしている方については、お客さまとコミュニケーションを行う際に、「情報量」の差について、少し意識してみてはいかがでしょうか。
投稿者

- 加藤博己税理士事務所 所長
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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