インボイスが導入されると変わることの一つに請求書等保存の3万円基準廃止があります。この廃止とクレジットカード明細との関係について今回確認しておきましょう。
クレジットカード明細では消費税の控除ができないってご存知ですか?
消費税については「請求書等」の保存が必要とされています。
「もらった請求書はきちんと保存しているよ」という方が大多数だと思いますが、今回取り上げるのはクレジットカード明細。
クレジットカードで経費の支払などをすると
- お店が発行したレシート
- カード会社から送られてくる1ヶ月分の利用明細
の2つの書類を受け取ることになります。
消費税の観点からすると、2を保存するだけでは不十分で1を保存しておかないと
「請求書等を保存していない」
と税務署から言われるリスクがあります。
この点については、国税庁の以下の質疑応答事例に詳細が書かれています。
回答要旨から一部引用しますと(太線は筆者)
クレジットカード会社がそのカードの利用者に交付する請求明細書等は、そのカード利用者である事業者に対して課税資産の譲渡等を行った他の事業者が作成・交付した書類ではありませんから、消費税法第30条第9項に規定する請求書等には該当しません。
とあり、要するにモノやサービスを提供したお店が発行したものじゃないから「請求書等」ではない、とされています。
3万円基準の廃止が与える影響
ここまでの話を読んで
「えっ、そうなの?!」
と思った方が多いのではないでしょうか。
同時に
「税務調査を受けたこともあるけど、そんなこと言われたことない」
と感じた方も多いかもしれません。
実は、クレジットカード明細についてはもう一つ知っておくべき消費税のルールがあります。
それは
「1回あたりの支払合計額が3万円未満(税込)であれば、請求書等の保存をしなくても必要事項を記入した帳簿さえ保存していればよい」
というルールです。
クレジットカードで経費を支払う場面を想像してみると、すべてとはいいませんが、かなりの部分が1回あたり3万円未満というケースが多いのではないでしょうか。
3万円未満であれば、このルールにより請求書等の保存が不要、つまりお店で発行してもらったレシートを保存していなくても、消費税の計算上は特に問題とはされません。
そのため、従来の税務調査においてはそれほど問題とされることはなかったのでしょう。
ところが、インボイス制度が始まると
「3万円未満であれば請求書等の保存が不要」
というルールが廃止されます。
これによりインボイス制度の開始後は
「クレジットカードで支払った経費については、お店でもらったレシートをすべて保存しておく必要がある」
となります。
クレジットカード明細での処理を認めるのが難しい理由
法律的には
- お店でモノやサービスを購入すること
- クレジットカード会社に支払を一時的に肩代わりしてもらうこと
は別の行為であるため、あくまでお店が発行したレシートの保存が必要という点は理解します。
とはいえ
「クレジットカード明細でお金を払ったことを証明できるんだから問題ないでしょ」
と考え、お店が発行したレシートを保存していない事業者も多いのではないでしょうか。
クレジットカード会社がクレジットカード契約を勧める際のうたい文句のひとつが
「利用明細を一覧で確認できるので、お金の管理がしやすくなりますよ」
というもの。
実際この点を期待して法人カードを導入している会社も結構あるかもしれません。
支払ったこと自体は証明できますので、法律上もクレジットカード明細のみの保存で問題なしとしても良い気はします。
ただ、問題はクレジットカード明細では購入した具体的な内容がわからないという点。
利用店舗名しか表示されていないケースも多く、現状のクレジットカード明細のままでは
「何を買ったか」
がわからないため、恐らくルールが変わることはないでしょう。
※ちなみに、お店で受け取ったレシートに「部門1」など購入品目ではない項目しか表示されていないものを時折見かけますが、購入品目がわからないレシートでは「請求書等」を保存していることにはなりませんので注意が必要です。
お店での売上処理とクレジットカード処理が分かれていることも多く、クレジットカード明細に購入明細を表示するのは技術的に難しいのかもしれません。
法律の改正を期待しても、そう簡単に実現するものではありませんので、インボイス制度への準備のひとつとして
「クレジットカードで支払った場合には、お店で受け取ったレシートをきちんと保存する」
という点を意識いただければと思います。
レシートを無くさないためにも、特に小規模事業者は、前日に使った経費は翌日にきちんと経理処理をする習慣をいまから身につけた方がよいです。
実務的には面倒な処理が増えるインボイス制度ですが、少しでも負担を減らして対応できるよう、経理のやり方を工夫していきましょう。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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