最近は、中小企業でも海外との取引が増え、外貨での売上や経費の支払いが発生することが珍しくなくなりました。今回は、外貨建取引を日本円に換算する際の基本的なルールについて解説します。

中小企業でも外貨での取引が増えている

みなさん、こんにちは。京都の税理士、加藤博己です。

「外貨」と聞くと「うちは国内ビジネスしかやってないから関係ないよ」と思う方もいるかもしれません。しかし、意外なところで外貨での取引は発生するものです。

海外とのお客様と直接の取引がなくても、例えば

  • 海外のソフトウェアやクラウドサービスをドルなどで支払う
  • 市場調査などで海外出張に行き、現地通貨で経費を支払う

といったケースはないでしょうか?

クレジットカードで決済して、円建てで請求されるなら外貨建ての金額を日本円に換算するといった悩みはありませんが、外貨をそのまま受け取ったり支払ったりした場合は、これを日本円に換算する作業が必要になります。

直接的な輸出入をしていなくても、インターネットを通じて世界中のサービスや商品にアクセスできる現代では、外貨での取引はごく身近なものになっています。

しかしながら、日本で事業を行う以上、最終的な決算書は当然ながら「日本円」で作成しなければなりません。ここに、外貨建取引の経理処理の難しさがあります。

外貨で受け取った売上を、どの為替レートで日本円に換算すればいいのか。逆に、外貨で支払った経費は、どのレートで換算するべきなのか。

これらのルールを正しく理解していないと、正確な利益計算ができなくなってしまいます。

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売上や経費を日本円に換算する際の基本的なルール

さて、ここからは具体的に、外貨建ての売上や経費を日本円に換算する際のルールについて確認していきましょう。中小企業向けに、法人税法上の取り扱いについて解説します。

原則は「取引日」の電信売買相場の仲値(TTM)

外貨建ての売上や仕入れを日本円に換算する場合は、取引を行った日の為替レートで換算するのが原則です。

この際のレートとして使われるのが、銀行が公表している「電信売買相場の仲値(TTM: Telegraphic Transfer Middle Rate)」です。

これは、売る時のレート(TTS)と買う時のレート(TTB)の中間にあたるレートです。

「実際に円に換金した時や、支払った時のレートじゃないの?」と思われた方もいるかもしれません。

しかしながら、法人税におけるルールは「取引日」のレートで換算します。

実際には、取引が発生した日と、実際に日本円を回収したり支払ったりする日にはタイムラグがありますので、為替レートが変動した場合は、換金時や支払い時のレートとの差額は「為替差損益」として別途処理することになります。

ちなみに余談ですが、「売る時」「買う時」というのは、私たちから見たものではありません。銀行など外貨を取り扱う側が、外貨を売る時はTTS、外貨を買うときはTTBを適用します。

例外として認められている換算レート

原則はTTMですが、実は実務上の負担を考慮して、いくつかの例外が認められています。

ただし、これらの例外的なレートを適用するには、継続して使い続けることが必要となる点には注意が必要です。

  • 売上:電信買相場(TTB)
  • 仕入れや経費:電信売相場(TTS)

実際にどうなるのか?具体的な例で見てみましょう。

2025年9月25日の米ドル(USD)の為替レートは

  • TTS:149.77円
  • TTB:147.77円
  • TTM:148.77円

でした(金融機関により異なるケースがあります)。

ここで1万ドルの売上があった場合を考えてみましょう。

  • 原則(TTM):1万ドル × 148.77円 = 1,487,700円
  • 例外(TTB):1万ドル × 147.77円 = 1,477,700円

売上として計上される金額が1万円少なくなりますが、あくまでこれは「売上が発生した時点」の処理です。

実際にドルを円に換金した時の為替レートとの差額は為替差損益として調整されるため、最終的な利益の額は変わりません。

もう一つの例外「合理的な為替レート」

さらに、継続適用を条件に「合理的な為替レート」を使うことも認められています。

これは法人税基本通達13の2-1-2の注書きにて言及されているものですが、例示としては前月の平均レートなどが挙げられています。

通達の例示には明記されていませんが、例えば海外出張時に空港で外貨を購入し、その外貨で経費を支払った場合なども、上記の考え方を適用することが考えられます。

この場合、原則は取引日のTTMで換算すべきですが、実際に外貨を購入した時の換算レートを使った方が、経理処理が分かりやすく、実態に即していると言えます。

しかし、この方法を採用する場合は「全員が同じルールで継続して適用すること」が重要です。

例えば、「経費精算の際は実際に外貨を購入した際のレートを使用する。出張時に外貨を購入していない場合は、取引日のTTMを適用する」といった明確な経理ルールを事前に定めておくべきでしょう。

最近では、経費精算システムを導入している企業も増えており、こうしたシステムが自動的に取引日のレートを適用してくれるケースも多くなっています。

それでも、手動で処理を行う場合には、こうしたルールを明確にしておくことが大切です。

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経理処理の負担を減らすための選択を

今回ご紹介したように、外貨換算のルールには原則と例外があります。例外が認められている背景には、「実務上の負担を避ける」という意味合いがあります。

外貨の換算が発生すると、経理処理の手間は想像以上に跳ね上がります。特に中小企業では、経理担当者が少ないケースも多いため、いかに効率的に経理処理を行うかが重要です。

そのため原則と例外のルールを理解した上で、自社の経理処理において最も負担が少ない方法を採用することがポイントとなります。

正確な税務申告のためにも、不明な点があれば専門家である税理士に相談することをお勧めします。

日々の経理処理の効率化を図り、本業に集中できる体制を整えていきましょう。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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