今回は、一見すると非効率にも思える経営者との対話の中に、会社の経営を改善するヒントが隠されているもしれませんよ、というお話です。

「え、そんなことやってたんですか?」 

みなさん、こんにちは。京都の税理士、加藤博己です。

税理士の仕事においては、顧問先の経営者と定期的にお会いしてお話を伺う機会があります。

月次決算のご報告や今後の税務上の見通しなど、議題は明確なはずなのですが、気づけば話が脱線し、長時間に及ぶこともしばしばです。

経営者は孤独だ、とよく言われますが、経営について直接話をする機会が少ないためか、話し出すと止まらないといったケースはよくあります。

正直なところ、次の予定が迫っている時など、「ちょっと話が長いな…」と感じてしまう瞬間がなきにしもあらずですが(笑)。

しかし、そうした一見すると「雑談」のような時間の中で、経営に役立つアイデアが見つかるということを、これまでの経験で何度も目の当たりにしてきました。

経営者の口からポロっとこぼれる、最近の悩み、業界の動向、新しく試してみたこと、あるいは失敗談。

それらは、決算書などの数字の羅列からだけでは決して読み取ることのできない、生きた経営情報です。

たとえば、こんなことがありました。

利益の低下傾向をいかにして改善すべきか、と悩んでいた経営者。

一通りお話を伺い、準備した資料とは全く関係のない雑談をしている中で、粗利の改善につながるような内容をポロっと口にされました。

経営者ご自身は、それが利益改善につながるという意識はなかったようで

「それって、もっと積極的に進めれば利益が改善しますよ」

とお伝えすると、驚いた表情。

逆に私からすれば「え、そんな(経営にメリットがある)ことを、いつの間にやってたんですか?」 という感じです。

経営者からすれば当たり前だと思っていたり、重要ではないと見過ごしていたりすることの中に、第三者だからこそ気づける「アイデア」が埋もれているものです。

広告

経営者自身も気づいていない、頭の中に眠るアイデア

経営者の頭の中は、アイデアの宝庫です。

日々の業務の中で

「もっと効率的にするには何をすべきか」
「お客様に喜ばれるのはどんなサービスか」

といったことを、意識しているかどうかは別として、常に考えているわけですから、アイデアがひっきりなしに生まれては消えていきます。

しかし、多くの場合、それらは言語化されず、整理されないまま「アイデアの原石」として頭の片隅に追いやられてしまいます。

あまりに忙しいため、一つのアイデアをじっくりと深掘りする時間がありません。

ご本人でさえ、それが価値ある「アイデア」だと気づいていないわけです。

「雑談」と書きましたが、要するに他者との「対話」です。経営について誰かと対話することは、こうした眠っている原石を掘り起こし、磨き上げる絶好の機会となり得ます。

面談の終わりには

「他に何か気になっていることはありませんか?」

という問いかけをするようにしていますが、こうしたひと言が、経営者の頭の中にある断片的な情報を繋ぎ合わせるきっかけになったりするものです。

対話を通じて考えを口に出すことで、経営者ご自身も

「ああ、自分はこんなことを考えていたのか」

と思考が整理されていき、新たな改善策へとつながります。

もちろん、こうしたコミュニケーションを「非効率」と捉える風潮があることも事実です。

税理士事務所の中にも、「数をこなすためには、こうした雑談は切り捨てるべきだ」という意見があるかもしれません。

また、顧問サービスを依頼する経営者の側にも、「税金の計算だけを安く正確にやってくれればいい。余計な話は不要だ」と考える方が増えているようにも感じます。

しかし、数字の報告や手続きの代行だけであれば、それこそテクノロジーで代替できる部分が増えていくでしょう。

人が提供できる価値がどこにあるかという点は、常に考えておく必要があります。

広告

本当に必要なのは、客観的な「壁打ち」相手

ここまで読んで

「経営の壁打ち相手なら、最近はAIで十分じゃないか」

という声も聞こえてきそうです。

確かに、生成AIの進化は目覚ましく、アイデアを投げかければ、瞬時に多角的な視点から回答を返してくれます。

思考の整理や情報収集のツールとして、非常に優秀であることは間違いありません。実際、私自身もAIと壁打ちすることはよくあります。

ただ、そうした中で感じるのは、AIはユーザーを否定したり、厳しいダメ出しをしたりすることが極端に少ない、という点です。

AIは基本的に、ユーザーの入力に対して肯定的であり、「良いですね!」「素晴らしいアイデアです!」といったポジティブなフィードバックを返してくる傾向があります。

気持ちよくアイデアを広げる段階では、それでも良いでしょう。

しかし、本当に必要なのは、耳の痛いことも含めて客観的な事実を突きつけてくれる存在ではないでしょうか。

AIは非常に便利なツールですが、あくまでツールです。一見無駄に思える長い話の中に眠る会社の未来を変えるヒントを、(今のところは)拾い上げてくれません。

すべてをムダと切り捨てるのではなく、上手に活用することを考えてみてはいかがでしょうか。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
広告