インボイス制度の導入まで残り一年半。今回はインボイス制度導入後に消費税にまつわる経理実務がどのように変わるのか、という点について考えてみたいと思います。

請求書を見ながら仕訳に悩むことがなくなる?

二週間ほど前の税務雑誌に、インボイス制度について財務省担当官の方へのインタビューが掲載されていました。

その中で印象に残った内容が

  • 海外では受領したインボイスを基にVAT(海外の消費税みたいなものです)の事務を行っているので、買手としてVAT対象かどうか判定するという作業がない
  • 現行の消費税法については、給与か外注かの判定が複雑だったり、キャッシュレス決済の加盟店手数料には課税と非課税のパターンが混在して大変、といった意見がある
  • インボイス制度の開始によって消費税対象かどうかの判定という事務は、かなり減っていくのではないか

といった点でした。

確かに実務をしていると

「これって消費税の対象取引?それとも対象外?」

と悩むケースは非常に多く、この点がラクになるのであればインボイス導入によるメリットともいえます。

インボイスには税率や消費税額を明記することになっていますので、制度としてきちんと運用されれば処理はしやすくなるでしょう。

(明らかに消費税対象外の取引に消費税を乗せてきたときどうなるのか、といった疑問は残りますが)

現状では、経理担当の方や税理士が苦労しながらうまく立ち回りつつ、消費税を計算しているともいえるわけで、消費税対象かどうかの判定が仕組みとして担保されるのであれば、実務上の負担は軽減されることになります。

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チェックせずにインボイスを処理する場合のリスク

ここまでの話を受けて

「インボイス制度導入後は特に何もチェックせずに、記載内容に従って処理をすればいいんだ!」

と思いたいのですが、そう言い切れない部分があります。

登録番号がわかるからといって未登録の番号を記載してはダメ

最も気になるのが

「インボイスに記載された登録番号が本当に登録されたものであるのかどうかのチェック」

が必要になるということです。

インボイスの登録番号については、法人については法人番号の頭にTをつけたものとなります。

法人の場合、税務署にインボイス発行事業者として登録していなくても、登録した際に使うこととなる登録番号は簡単にわかります。

そのため、インボイスではないのにインボイスのように見える書類を作ることは実は難しくありませんが、この記事をお読みの皆様は、難しくないからといってこうした行為は絶対にしないでください!

なぜなら税務署に登録していない登録番号を請求書に記載してインボイスのように見せかける行為などについては、罰則規定が法律上設けられているからです(新消法57の5一、新消法65四)。

さすがに罰則規定がある行為を積極的にする会社はないと信じていますので、未登録の登録番号が書かれた書類が世の中に大量に出回ることはないと思われます。

インボイスと信じて処理しても消費税が控除できない

とはいえ問題は、もしインボイスでない書類をインボイスだと信じて消費税を計算してしまった場合です。

消費税を計算する際に、支払った消費税を控除する仕入税額控除という仕組みがありますが、この仕組みを適用するためには「インボイスの保存」が条件となります。

つまりインボイスと信じて保存していたとしても、その書類が法律上認められるインボイスでなければ、そのインボイスもどきに含まれる消費税については控除することが認められません。

「インボイスだと信じて処理したのに、なんで!?」

と思われるかもしれませんが、法律上の要件を満たしていませんので、もし税務調査などでインボイスもどきが見つかった場合には、修正を求められることになるでしょう。

自衛のために登録番号のチェックが必要

そうなると自衛のために、インボイスを処理する際には

「登録番号が本当に登録されているのか」

というチェックが必要となります。

消費税の対象かどうかという判断業務については軽減される可能性がありますが、その一方で登録番号が正しいかどうかというチェック業務が新たに発生するわけです。

処理する請求書が多い会社の場合、「全部チェックするのムリ!」となるケースもあるでしょう。

そうした場合は

  • 金額ルールを設けて、一定金額以上のインボイスのみ登録番号をチェックする
  • 登録番号を自動的にチェックできる会計ソフトを導入する(仕訳入力時に登録番号を入力すれば自動的にチェックしてくれるなど。まだ具体的な製品は出てきていませんが)

といった対応を検討する必要があります。

免税事業者からの仕入に仕入税額控除が認められる期間の対応

ここまでは免税事業者からの仕入に対して仕入税額控除が認められなくなった後の話です。

インボイス制度導入後6年間は、免税事業者からの仕入についても一部仕入税額控除が認められますので、その期間についてはインボイス以外の請求書についても消費税の処理が必要です。

そのため

  • インボイス:登録番号のチェック
  • インボイス以外の請求書:消費税対象かどうかの判定

と非常に処理が煩雑になることが予想されます。

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実務への影響は確実にあるからこそ事前の検討を

今回は、インボイス制度開始後に消費税対象かどうかの判定はラクになるかもしれませんが、登録番号の確認という別の作業が新たに発生しますよ、というお話でした。

インボイス制度というのは、このように経理の実務に大きな影響を与えるものです。

今までと同じやり方のまま経理業務を進めることはできません。

制度開始まであと1年半。今回取り上げた内容以外にも、いろんな課題があります。

まだ何も検討していないということであれば、ぜひ今から対応を始めることをおすすめします。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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