消費税の控除を受けるには請求書等と帳簿の保存が必要ですが、請求書をもらえないケースも現実にはありえます。そんなとき帳簿にはどう書いておくべきかについて確認しておきましょう。
目次
消費税で控除を受けるのに必要なのは「請求書等」と「帳簿」の保存
先日税務雑誌の記事の中で、次の質疑応答事例が参照先として紹介されていました。
インターネットを通じて取引を行った場合の仕入税額控除の適用について
内容は、
「インターネットを通じた取引のため、紙の請求書等をもらえず、請求内容等は電子データで保存しているが、この場合消費税はどうなるか?」
というものです。
消費税の最終金額を計算する際に、支払った消費税を控除するためには、通常は紙の「請求書等」と「帳簿」の保存が必要とされていますが、その「請求書等」に該当するものを紙でもらえないというケースです。
結論から言えば、このケースでは、
「帳簿に必要な追加情報を書いておけば、控除を認めます」
とされています。
こうした電子取引は今後も増えてくることが予想されますので、具体的にどのような情報を書いておくべきか、一度きちんと確認しておきましょう。
なお、電子データの保存方法については、電子帳簿保存法という法律が関連してくるのですが、今回は電子帳簿保存を適用していない場合の、消費税法での扱いを確認していきます。
帳簿には具体的にどう書くべきか?
最初に確認すべきは「やむを得ない理由」があるかどうか
帳簿に何を書くべきか、確認するために関係する法律(消費税法施行令)をちょっとだけ確認しておきましょう(太字は筆者による)。
第49条 課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等
法第30条第7項に規定する政令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 法第30条第1項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円未満である場合
二 法第30条第1項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円以上である場合において、同条第7項に規定する請求書等の交付を受けなかつたことにつきやむを得ない理由があるとき(同項に規定する帳簿に当該やむを得ない理由及び当該課税仕入れの相手方の住所又は所在地(国税庁長官が指定する者に係るものを除く。)を記載している場合に限る。)。
三 特定課税仕入れに係るものである場合
法律を解説することが今回の目的ではありませんので、細かい点は省略しますが、カンタンにまとめると、
- 請求書等をもらえなかったことについて「やむを得ない理由」があるときに
- 帳簿に「やむを得ない理由」と「相手の住所」を書く
という2点を満たしていれば、請求書等がなくても消費税の控除ができますよ、ということです。
ここで気になるのは、具体的にどういうケースが「やむを得ない理由」に該当するのか。
これについては、消費税法基本通達11-6-3にその範囲が書いてあります。
(請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるときの範囲)
11-6-3 令第49条第1項第2号《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等》に規定する「請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるとき」は、次による。
なお、請求書等の交付を受けなかったことについてやむを得ない理由があるときに該当する場合であっても、11-6-4に該当する取引でない限り、当該やむを得ない理由及び課税仕入れの相手方の住所又は所在地を帳簿に記載する必要があるから留意する。(平10課消2-9により追加)(1) 自動販売機を利用して課税仕入れを行った場合
(2) 入場券、乗車券、搭乗券等のように課税仕入れに係る証明書類が資産の譲渡等を受ける時に資産の譲渡等を行う者により回収されることとなっている場合
(3) 課税仕入れを行った者が課税仕入れの相手方に請求書等の交付を請求したが、交付を受けられなかった場合
(4) 課税仕入れを行った場合において、その課税仕入れを行った課税期間の末日までにその支払対価の額が確定していない場合
なお、この場合には、その後支払対価の額が確定した時に課税仕入れの相手方から請求書等の交付を受け保存するものとする。(5) その他、これらに準ずる理由により請求書等の交付を受けられなかった場合
自動販売機を使って仕入を行った場合や、電車・飛行機などを使って乗車券が回収されてしまう場合、請求書の発行を依頼したけれどもらえなかった場合、などが挙げられています。
すべてのケースがここに書いてあるわけではありませんので、「やむを得ない理由」に該当するかはそれぞれの状況により異なりますが、この通達を参照しながら判断することになります。
ちなみに、最初に取り上げた質疑応答事例のケースにおいては、上記(5)のケースとなり「やむを得ない理由」に該当すると判断されています。
帳簿に追加で書かないといけない項目は?
「やむを得ない理由」に該当するかどうかがわかれば、次に帳簿に必要な項目を記入していきます。
請求書をもらえた・もらえなかったにかかわらず、一般的な仕入のケースでは、次の4項目を帳簿に書いておかなければなりません。
- 仕入先名称
- 仕入年月日
- 仕入れた商品やサービスの名称(軽減税率対象の場合は、軽減税率対象であることも記載)
- 仕入金額
今回取り上げたような請求書がもらえないケースでは、これに加えて
- やむを得ない理由
- 仕入先の住所又は所在地
の2点を記入する必要があります。
やむを得ない理由の書き方としては、最初に取り上げた事例であれば
「インターネットを通じた取引による課税仕入れであること」
といった書き方になるのでしょうけれども、長すぎて帳簿に書ききれない可能性があります。
なので、
「電子取引により請求書不発行」
「電子取引のため」
など、あとで理由を説明できるような書き方をしておきましょう。
次に仕入先の住所・所在地ですが、これは契約書等で住所を確認して帳簿に書いていただくしかありません。
なお仕入先の住所・所在地については、消費税基本通達11-6-4で、帳簿に書かなくてもよいケースとして、電車・飛行機などのチケットや会社内で出張旅費などを精算した場合(この場合の相手は従業員)などが挙げられています。
これらを参考に、帳簿に必要な追加項目を記入しておきましょう。
余計なトラブルを避けるためにもルール通りに記載しておく
国税庁の質疑応答事例を題材に、請求書等をもらえなかった場合の帳簿の書き方について確認をしました。
今回取り上げた法律(消費税法施行令)は、令和5年のインボイス導入時に法律が少し変わるため、インボイス導入後に影響が出ないかについては、それぞれの状況に応じて確認する必要があります。
ところで、実際には、ここまできちんと書いておかないと税務調査で問題になるのかどうか。
この点が大きな問題になったケースというのは、私自身は聞いたことはありません。
とはいえ、帳簿に2点追記するだけで認められるというのであれば、書いておいた方がいい、というのが私のスタンスです。
業種によるかもしれませんが、該当する取引が大量に出てくることはほとんどないのではないでしょうか。
そうであれば、将来の余計なトラブルを避けるためにもルール通り書いておくべきかと。
なお、消費税の請求書等の保存には、他にも現状(インボイス導入前)では3万円未満であれば請求書等がなくても認められるなどのルールもあります。
今回すべてについて説明しているわけではありませんので、記事を読んで気になる点がある場合には、お近くの専門家に相談されることをオススメします。
投稿者
-
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
最新の投稿
- 弥生会計2024年11月21日弥生会計NEXTを試してみた素直な感想をまとめてみる
- Notion2024年11月17日Notionフォームの使い方
- Notion2024年11月14日NotionでTrelloと同じ機能を再現するための手順
- AI2024年11月10日今後のAI活用を考えたときに、データの集約を意識しておくべきかについて考える