仕事をする上で、特に組織で仕組みやルールといったものが必要になる理由。今回はその点について考えてみたいと思います。

海外に経理責任者として赴任して最初にやった仕事は?

最近、自分の過去について振り返る機会があり、今までどんな仕事をしてきたのかということを考えていました。

その中の一つとして、38歳のときに、スロバキアの製造子会社に管理部門(経理の仕事が主でしたが)の責任者として赴任したのですが、赴任直後に行った仕事が次の2つでした。

  1. 貸借対照表(B/S)の中身の確認
  2. 決裁ルールの見直し・整備

こうした見直しを最初に行った理由は、会社になじんでからやってしまうと、「なんで今さら?」という反発が強くなるからです。

その会社にとっての「よそ者」であるうちに、一気にやってしまおうと。

貸借対照表(B/S)の中身の確認

まず最初に行ったのが、B/Sの中身の確認。

現地スタッフに、科目別の内訳を準備してもらって中身を確認します。

これをすると、まあいろいろ出てくるわけです。

回収遅れの債権や、長期間ほったらかしの建設仮勘定、行方不明の固定資産、中身のよくわからない前払金などなど。

損益計算書(P/L)については1年経てばリセットされますが、B/Sについては都度中身を確認して対応しないと、それぞれの科目のなかに「ゴミ」のような内容が貯まっていきます。

なので、こうした「ゴミ」が残っていないか確認したら、やはり残っていたと。

一つずつ対応策を指示して科目ごとの中身をキレイにしていくとともに、キレイにした後も定期的に中身を報告してもらうルールにしました。

決裁ルールの見直し・整備

次に確認したのが、内部の決裁規定。

決裁規定自体はありましたが、非常にシンプルな内容で、「こんな時はどうするの?」という疑問が次々とアタマの中に。

この状態では、細かいことまで社長に決裁を仰ぎに来たり、逆に規定がないので現地スタッフが勝手に判断したり、ということが頻発していたわけです。

この状態では、

  • 社長が細かい判断に時間を取られてしまう
  • 現地スタッフも社長の時間がとれず仕事が止まってしまう
  • 現地スタッフが自分たちでどこまで判断していいのかわからない

といった問題が生じます。

そこで、「社長が判断すべきこと」「部門の責任者が判断出来ること」をきちんと切り分けて、決裁規定の項目を増やし、社長がサインした文書を社内で共有しました。

もちろん最初から完璧なものはできませんので、その後も改訂を繰り返しましたが、少なくとも「どこまで自分で判断して良いか」と悩んだときに、確認すべきルールは明確になったわけです。

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仕組みを整えれば、周囲の人は動きやすくなる

こうした仕組みを整えることで、組織の中の人は動きやすくなります。

B/Sの中身のフォローの場合、突然やってしまうと担当部署の人からすれば、

「今まで何もいわれなかったのに、なぜ突然経理からクレームが来るんだ?」

という風に感じてしまいます。

これを例えば、

「月次決算が終わった後に内容を確認し、不明な点や不備については担当部署にフォローを依頼する」

といったルールを決めて内部で共有しておけば、依頼される部署からしても、いつ頃依頼が来るか想定できるわけです。

また別の観点として、B/Sの中に不適切なものが残っていると、後で想定外の損失が発生する可能性もあります。

こうした場合は、月々使用する経営数字が正しくないということになりますので、経営判断にも影響が出て、経営者が経営判断という仕事をしにくいということになります。


決裁規定の整備にしても、例えば経営者に相談に行ったときに、

「それくらい自分で判断しろ!」

といわれて困った経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

どこまで自分で判断して良いのか、客観的に判断出来る資料がないと、経営者に文句を言われないようにその思考を読みながら判断せざるを得ない。

こんな仕事の仕方していると、部下の人も本来気を遣わなくていいことに配慮せざるを得ず、疲労してしまいます。

生産的な仕事の仕方とはいえません。

明文化されたルールがあれば、それに基づいて判断すればよく、そこに無駄な時間を使うことがなくなり、関わる人が働きやすくなるわけです。

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他人同士が集まるからこそ、行動や判断基準を合わせておく

人が集まると組織ができるわけですが、他人の集まりですから、お互いに相手の考えていることをすべて理解できるわけではありません。

そうした中で、会社や組織を同じ方向に動かそうとすると、行動基準や判断基準といった、組織に属する方が判断するための基準を明示しておく必要があります。

そうした基準が無いと、何か問題が起きたときに、経営者の方が「なんでそんなことをしたんだ!」とか「なんで今まで放置していたんだ!」と怒ったとしても、「そんなこと聞いてなかった」「そんな風に考えているとは思わなかった」ということで終わってしまうことでしょう。

こうした仕組みやルールを作っておくことは、組織に属する方をトラブルから守るだけでなく、組織の上に立つ人の考えを伝え、そうした方がフォローに割く時間を減らすことにもつながります。

もし「部下が思うように動いてくれない」という悩みを抱えている経営者の方であれば、

  • 現在の仕組みやルールが、自分の進みたい方向に沿ったものになっているか見直してみる
  • そうしたものが無ければまずカンタンなものからつくってみる

というところから始めてみてはいかがでしょうか。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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