物価高対策として議論されている「食品の消費税率ゼロ」。生活者としてはありがたい話かもしれませんが、私たち税務の現場に携わる人間としては、正直なところ「勘弁してほしい」というのが偽らざる本音です。
目次
2年間限定で食品の消費税率がゼロになる?
みなさん、こんにちは。京都の税理士、加藤博己です。
現在、先日の選挙結果を受けて、食品の消費税率をゼロに引き下げるという案が真剣に検討されています。
まだ確定事項ではありませんが、これまでの流れを見る限り、実現の可能性は決して低くありません。
もしこれが本当に実施されるとしたら、税理士という立場から見て、「やめてほしいな」と強く感じてしまいます。
税率変更というだけでも事務負担は大きいのですが、何よりも気が重いのは「2年間限定」という期間限定の措置である点です。
なぜそこまで「イヤだな」と感じるのか。現場の視点から、その理由をいくつか挙げてみたいと思います。
「イヤだな」と感じる3つの理由
今回の変更が実務に与える影響は計り知れません。主な懸念点は以下の3つです。
売上の税区分が増える
首相答弁によれば、現在8%の軽減税率が適用されている食品について、税率を0%にする方向で調整されているようです。
ここで少し技術的な話をすると、「0%」と「非課税」は税法上、明確に扱いが異なります。
現在、税率0%が適用されているのは「輸出免税」のみであり、会計ソフトでも「輸出売上」といった名称で区分されています。
もし食品売上が0%になった場合、食品売上に既存の「輸出売上」という税区分をそのまま流用するのは不自然です。
そのため、別途「食品売上(0%)」といった新しい税区分を設けるか、あるいは既存の「輸出売上」を包含する「0%売上」という税区分設定を新設する等の対応が会計ソフト側で必要になります。
会計ソフトの設定変更もさることながら、2年後にまた元に戻すとなると、その度に入れ替え作業が発生します。事務的な手間だけでなく、設定ミスが起きるリスクも飛躍的に高まります。
仕入れの税区分が増える
売上の区分が増えれば、当然、仕入れ側にも影響が出ます。これまでは10%・8%・対象外の3種類で済んでいた仕入れの判定に、「0%」という新しい選択肢が加わります。
「食品の税率が変わるなら、8%の税率はなくなるのでは?」と思われる方もいるかもしれません。
しかし、定期購読の新聞は今回の対象から外れる可能性があるため、実質的には税率が3本立て(10%・8%・0%)で併存することになります。
特に、本則課税かつ「個別対応方式」で計算されている事業者にとっては、これらを正しく仕分ける作業は非常に複雑になります。
仕訳の組み合わせが増えることは、ミスが起きる原因そのものです。
簡易課税制度を利用しているならまだしも、そうでない事業者にとっては、経理処理の煩雑化は避けられない問題です。
切替タイミングが面倒
税率が変わる際、もっとも混乱するのが「変更日をまたぐ取引」です。
例えば、4月1日に税率が変更されるとしましょう。25日締めの会社であれば、3月26日から4月25日までの期間が含まれる請求書が届きます。
請求書の発行側がきちんと税率ごとに分けて記載してくれれば良いのですが、システム対応が遅れている場合などはどうでしょうか。
他にも「3月31日に出荷して、4月1日に納品された食品の税率はどっち?」といった細かい実務上の対応がいろいろと出てくるものです。
変更日をまたぐ際の経過措置の確認や、取引先との調整など、現場の混乱は避けられません。
しかも今回は「2年間限定」です。
開始時だけでなく、2年後の終了時にも同様の切り替え作業や混乱が予想されます。一過性の対応に追われる事業者の負担は、想像以上に大きなものになるはずです。
経理処理以外にも課題は山積?
ここまで経理処理の面を中心にお話ししましたが、課題はそれだけではありません。
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還付申告の増加: 食品販売業など、売上が0%になれば、食品以外の仕入れの消費税が還付となるケースが急増する可能性があります。税務署側の審査体制も逼迫しかねません。
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外食産業との兼ね合い: 外食(10%)と食品(8%→0%)の税率差が現在の2%から10%に拡大することで、外食産業からの反発も予想されます。
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現場のコスト: 値札の張り替えやレジシステムの改修など、直接的なコスト負担は全て事業者にのしかかります。
物価高から国民の生活を守るという政治的な判断自体を否定するわけではありません。
しかし、それを実行する現場の事業者の負担、そして私たち税理士のような支援者が担う事務コストが、果たして許容範囲を超えていないか。
当初の目的を達成するために、消費税率の変更というやり方が、総合的に判断して適切な手法かどうか。
そうった点を冷静に議論してほしいと強く願います。
投稿者

- 加藤博己税理士事務所 所長
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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