「注意してください」という言葉の裏には、実は仕組み側の不備が隠れていることが少なくありません。今回は、あるソフトの仕様から感じた「使いやすさ」の本質について考えます。
ログイン画面がよくわからない、という問題
みなさん、こんにちは。京都の税理士、加藤博己です。
先日、某ソフトメーカーから一通のメールが届きました。内容は「操作ミスに関する注意喚起」です。
あえてメーカー名やソフト名は伏せますが、クラウド型の給与計算ソフトを利用されている方なら、以下の説明で「ああ、あのソフトのことか」とピンとくるかもしれません。
そのソフトには、大きく分けて二つの入り口があります。
-
自社の給与計算を行うための「自社計算用」
-
税理士事務所などが顧問先の計算をサポートするための「代行用」
メーカー側が困っていたのは、「代行用の計算をすべき場面で、誤って自社計算用の画面を使ってしまっているケースが多発している」ということでした。
わざわざ注意喚起のメールを全ユーザーに送るほどですから、相当数のミスが発生しているのでしょう。
気になって、実際のログイン画面や導線を改めて確認してみました。
パソコン用にポータルソフトがインストールされているのですが、その中に製品名のボタンがあり、そこをクリックすると、ごく自然に(?)「自社用」の画面へと遷移するようになっています。
一方で「代行用」の画面に行くには、ウェブ上のポータルサイトに飛んでから、代行対象の会社を選んだ上で製品を起動しなければなりません。
正直な感想を言えば、「これは、初見で間違えない方が難しいわ……」というレベルでした。
間違える人が多いのは、一般的な感覚とはズレているから
「間違える人が多いので注意してください」というアナウンスは、一見すると親切なように見えます。
しかし、見方を変えれば、それは「このシステムは、普通に操作すると間違えるようにできています」と自ら白旗をあげているともいえます。
そもそも、多くの人が同じところでつまずくのであれば、それは使う側のリテラシーの問題ではなく、設計や導線といった「作り手側」の論理が、一般的なユーザーの感覚とズレている証拠ではないでしょうか。
私は仕事柄、さまざまなクラウドソフトやITツールに触れますが、個人的な理想は「説明書(マニュアル)を読まずに直感で使える製品」です。
例えば、今の時代にテレビを買って、わざわざ分厚い説明書を1ページ目から読み込む人はまずいません。
リモコンの一番目立つ場所にある「電源」ボタンを押せば画面がつき、「選局」ボタンを押せばチャンネルが変わる。この直感的な操作感こそが、洗練されたデザインというものです。
先ほどのソフトの例をテレビに例えるなら、こんな感じでしょうか。
「今回見たい番組を見るためには、リモコンの電源ボタンを押すのではなく、本体の裏側にある隠しスイッチを長押ししてください。リモコンの電源ボタンでは見ようとしている番組は表示されません。」
これでは、誰だって「リモコンの電源ボタンを押して電源は入ったのに、見たい番組を見られない!」と混乱してしまいますよね。
「誰にとっても使いやすい」を目指すべき
「専門的なソフトだから、ある程度の習熟は必要だ」という意見もあるでしょう。
しかし、専門的な業務だからこそ、余計な「操作の迷い」に脳のリソースを使いたくない、というのがユーザーの本音です。
システムを作る側は、どうしても「多機能であること」や「内部的な処理の都合」を優先しがちです。
しかし、本当に価値があるのは、複雑なことを複雑なまま提供することではなく、複雑なことをいかにシンプルに、間違えようのない形で見せるか、という点にあります。
これは税理士の仕事にも通じる部分があると感じています。
難しい税法をそのまま伝えるのではなく、お客様が直感的に理解でき、次のアクションを間違えないように交通整理をする。
その「導線」を引くことこそが、プロの付加価値ではないでしょうか。
「注意してください」と言わなくて済む仕組みこそが、最強のユーザーフレンドリーです。
私も日々の業務の中で、自分自身の発信や仕組みが「初見殺し」になっていないか、改めて見直してみたいと思います。
投稿者

- 加藤博己税理士事務所 所長
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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