固定資産の処理は、経理担当者や税理士事務所にとって意外と面倒なものですが、誤った処理をすると長期にわたって影響が出ます。今回は固定資産を計上する際に、内訳をきちんと確認しましょうというお話です。

固定資産担当だった頃の話

みなさん、こんにちは。京都の税理士、加藤博己です。

私は会社勤務時代、長年経理の仕事をしていました。

その中でも特に工場経理の期間が長く、一時期はひたすら固定資産に関する業務を担当していたことがあります。

工場の設備担当部署から、毎日のように大量の決裁書や請求書が回付されてきて、それらの書類一枚一枚に目を通し

「これは固定資産に計上すべきか、それとも修繕費として処理すべきものか」
「資産だとしたら、どの勘定科目が適切で、耐用年数は何年に設定すべきか」

といった判断を延々と繰り返していました。

金額の大きな設備投資から、ちょっとした修繕まで様々です。

当時はまだ若く、知識も経験も浅かったため、社内の経理マニュアルや市販の解説書などを何度も読み返しながら、頭を悩ませていました。

この時の経験が、今の税理士としての仕事にも役立っていると感じることがよくあります。

広告

請求書の内訳を確認して固定資産に計上していますか?

さて、固定資産の計上と聞いて、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。

例えば、「新しいパソコンを15万円で買いました」というようなケースであれば、経理処理で悩むことはほとんどありません。

ちなみに、中小企業であれば30万円未満のものは一括で費用にできる特例(少額減価償却資産の特例)があります。

また、10万円以上20万円未満のものであれば「一括償却資産」として3年間で均等に費用化する方法もあります。

個人的には、20万円未満の場合は、償却資産税の対象となることを避けるため、費用化が多少遅れても「一括償却資産」をお勧めすることが多いです。

問題は、こういった少額なものではなく、建物など金額が大きな工事の場合です。

例えば、老朽化した古い建物を取り壊し、その跡地に新しい建物を建設する、といったケースを考えてみましょう。

この場合、古い建物の取り壊しにかかった費用は、原則として固定資産の除却損として、その年度の費用(損金)にすることができます(法人税基本通達7-7-1)。

建物の償却が終わっていない簿価と、取り壊しのために直接かかった費用は、建物の取得価額に含めるのではなく、費用として処理します。

古い建物の取り壊しも、新しい建物の建設も、同じ建設会社が一括で請け負うケースが多いでしょう。そして、建物の規模にもよりますが、同じ事業年度内にすべての工事が完了するケースもあります。

こうしたケースだと、工事完了後に送られてくる請求書も一つにまとまって、「工事一式」として請求されることがあったりするわけです。

もし、この請求書の内訳をきちんと確認せずに、書かれている金額の全額を新しい建物の「取得価額」として資産計上してしまったらどうなるでしょうか。

本来であればその年度に費用にできたはずの「旧建物の取り壊し費用」まで、新しい建物の取得価額に含めてしまうことになります。

もし新しい建物が鉄筋コンクリートの事務所用建物であれば、50年といった非常に長い期間をかけて、減価償却という形で少しずつしか費用化できなくなってしまいます。

もちろん、良心的な建設会社であれば、請求書に

新建物建設費用 〇〇〇円
旧建物取り壊し費用 〇〇〇円

といった具合に、内訳をきちんと記載してくれます。

しかし、残念ながらすべての会社がそうとは限りません。

請求書に内訳が記載されていない場合は、見積書の確認が必要となります。

ところが、見積書から追加工事が発生して、最終的な請求金額と異なっていることも多々ありますので、その場合は建設会社に連絡して、最終的な費用の内訳がわかる資料を提出してもらう必要があります。

シンプルな例として、建物の建て替えを取り上げましたが、固定資産購入時に費用として処理できるものがないかという点は注意が必要です。

広告

おろそかにすると大きな影響が出る可能性も

固定資産の計上については、金額が小さければ

「最終的に費用になる金額は同じなんだから、別にいいじゃないか」

という判断も、(会計上・税務上は正しくないですが)あるかもしれません。

確かに、将来その建物を取り壊すことになれば、まだ残っている簿価は「除却損」として費用になります。

理論上は、どこかの時点で全額が費用になることに違いはありません。

しかしながら

「本来なら今年費用にできたはずの数百万円・数千万円を、今後50年かけて費用にしていきます」

と言われて、素直に受け入れられる経営者は少ないはずです。

それに、数十年後に会社が利益を出している保証はどこにもありません。赤字の時に多額の除却損を計上しても、その年度の税金は減りません。

これは税金が得とか損とかいう話ではなくて

「そもそも今年度払う必要のない税金を払ってしまっている」

わけで、流石にそういう状況は良くないでしょう。

私はあまり「節税」という言葉をあまり積極的に使いたくはないのですが、これは節税テクニックというより、「本来あるべき会計処理・税務処理を正しく行う」という、誠実さの問題だと考えています。

ルール上、費用として処理すべきものを、手間を惜しんで資産計上してしまうのは、やはりどこか不誠実じゃないかなと。

そもそも、新しい建物を建てるほどの大きな投資をする時期は、会社にとって資金繰りが普段よりも厳しくなっているはずです。

そのような時に、本来支払う必要のない税金を払うことになれば、キャッシュフローをさらに圧迫することになります。

正しく処理をして、その年度に支払う税金を少しでも減らすことができれば、それは立派な資金繰り改善策の一つです。

金額の大きな工事に関する経理処理は、関係書類も多く、判断も複雑で、非常に手間がかかります。正直、避けたい気持ちになるのも分かります。

そして、経理担当者や税理士事務所がどれだけ頑張って書類を精査し、細かく費用を拾い出したとしても、その努力が他の人から見えることはほとんどなく、直接的に評価されることも少ない、地味な作業です。

しかし、こうした地味で目立たない作業の積み重ねが、会社の利益そしてキャッシュを守ることにつながります。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
広告