月次決算については「毎月やっているよ」という会社でも、そのスピードまで意識されているケースは、そう多くないかもしれません。なぜ月次決算の早期化が重要なのか、そして実現するための対策について考えてみましょう。

月次決算はなぜ早い方がいいのか?

「月次決算を早く締めるべき」とお伝えしても、その重要性は中々理解してもらえないことがあります。

「経理担当者から数字が上がってくるのが翌月20日過ぎ」「顧問税理士から試算表が送られてくるのは翌々月」といったことは、よくあるケースではないでしょうか。

経営状況がよくない場合だと、赤字の報告などはあまり聞きたくないこともあり、報告が遅れれば、その分、気が重い時間も先延ばしにできます。

でも、もしその「悪い話」が、早めにわかっていれば対処できるものだったらどうでしょうか。

経営をしていると

「もっと早く言ってくれればよかったのに」

と思う場面は少なくありません。

例えば、決算月の前月の月次決算を締めて、最終的な利益見込みを計算したところ

「今期の利益計画達成に、あと10万円足りません」

といったケース。

これくらいであれば、余裕を持って対処すれば十分対応可能なのに、あと期末日の直前だとか、場合によっては期末日が過ぎてから報告されても、打てる手はほとんど残されていません。

実際のところ、5月の経営状況について、6月の末になって報告を受けたとしましょう。

その数字を見て、何か問題が見つかったとしても、それはもう1ヶ月以上も前の話です。

報告を聞きながら「それで?」という感想しか持てないのではないでしょうか。鮮度の落ちた情報からは、有効な次の一手は生まれません。

例として挙げたものは、それほど大きな問題ではないかもしれませんが、資金繰りに関する内容だと深刻さはさらに増してきます。

こうした状況を未然に防ぎ、経営を安定させるために必要なのが、月次決算の早期化です。

結果をできるだけ早く確認して、対応するための時間をいかに多く確保できるか。

月次決算を早期化することは、過去を振り返るスピードを上げ、未来を変えるための時間を生み出すことに他なりません。

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ポイントは「割り切り」「前倒し」「習慣化」

では、どうすれば月次決算を早期化できるのでしょうか。

結論から申し上げると、魔法のようなテクニックはありません。ですが、意識しておくべきポイントはあります。

それは「割り切り」「前倒し」「習慣化」の3つです。

割り切り

まず最も重要なのが「割り切り」です。

月次決算に求められるのは、1円単位の完璧な正確性よりも、経営判断に使えるレベルの概算数値をいかに早く固めるかです。

期末決算は、税金の計算などにも影響するため正確性が最優先されますが、月次決算はあくまで速報値です。

この割り切りが、早期化の第一歩です。

具体的には、以下のような項目が考えられます。

■売上

売上は自社でコントロールできる部分です。請求書の発行ルールや締め日の管理を徹底し、月末後すぐに計上するように見直してみましょう。

■仕入・外注費

月末になっても、取引先から請求書が届かない、というケースは頻繁に起こります。ここで請求書の到着を待っていては、いつまで経っても数字は固まりません。

発注書や納品書、見積書などから金額を把握し、「概算で」計上することも検討してみましょう。

「だいたいの金額」で計上して、正式な請求書が届いた際に差額を修正する、と割り切ることも重要です。

■経費

社員からの経費精算が遅れるのも、月次決算が遅延する大きな原因です。締切日を月末にするのではなく、もう少し早めに設定するのもひとつの「割り切り」です。

その上で「毎月〇日までに必ず提出」といった締め切りを明確に設定し、徹底させましょう。

前倒し

次に「前倒し」です。

月末や月初に作業を集中させるのではなく、月の中から処理できることは前倒しで進めていく意識が大切です。

例えば、月の半ばに届いた請求書を月末まで放置せず、すぐに会計ソフトに入力しておく。

経費精算も、締め切りを前倒しして早めに回収して、月末までに処理を終わらせておくといった工夫が必要でしょう。

こうした小さな「前倒し」の積み重ねが、月末月初の業務負荷を軽減し、結果として早期化に繋がります。

習慣化

最後のポイントは「習慣化」です。

例えば、みなさんは歯磨きについては、毎日当たり前の要に行っているのではないでしょうか。

「ああ、歯を磨くのが苦痛だけどやらないといけない」と感じながらしている方は、(もしかしたらいるかもしれませんが)まずいないでしょう。

これは、やることが当たり前だと感じるまで「習慣化」されていることが理由です。

月次決算についても、例えば

「最初の1週間でまとめてしまうのが当たり前」

と感じるようになるまで継続する必要があります。

期間を短縮する最初の頃は、月次決算を早期にまとめることに苦痛を感じる場面も多いでしょう。

ただそれも段々と慣れてきます。

習慣化してしまえば、「早く締めなければ」と毎回意気込む必要もありません。

決まった時期に、決まった業務を、淡々とこなす。その状態にまで持っていくことができれば、月次決算の早期化は成功したといえます。

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必要性を理解して、ひとつずつ課題をつぶす

月次決算の早期化は、単なる経理の効率化ではありません。

リアルタイムに近い状態で自社の経営状況を把握し、変化に迅速に対応するための、大切な経営活動の一環です。

まずは経営者自身が

「なぜ自社にとって月次決算の早期化が必要なのか」

を深く理解することが大切です。

その上で、「割り切り」「前倒し」「習慣化」という3つの視点から、自社のどこに課題があるのかを洗い出してみましょう。

「請求書の到着が遅い」「経費精算のルールが曖昧」「月末に業務が集中しすぎている」など、具体的な課題が見えてくるはずです。

あとは、その課題をひとつずつ地道につぶしていくしかありません。

経営の改善につながるものと意識した上で、月次決算を早期化するための一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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