インボイス制度導入後であっても、インボイス無しで仕入税額駆除が認められるケースがあります。今回はそのうち「古物の購入」の際の注意点を確認しておきましょう。
目次
インボイスを保存しなくても消費税を控除できる場合
来年10月から始まるインボイス制度、カンタンにいってしまうと
「インボイスという書類を保存しないと、税務署に支払う消費税を計算するときに、支払った消費税を引くことができませんよ」
というものです。
ところが何にでも例外はあるわけで、インボイスをもらうことが難しいなどの理由により、インボイスを保存しなくても、支払った消費税を差し引くことができる取引があります。
(ただし、帳簿に必要事項を書いておくなどの条件はあります)
具体的には、国税庁が公表している
消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A
という資料の中の問79に該当する取引が列挙されていますが、今回はこのうち
「③ 古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の購入」
について確認しておきたいと思います。
「古物営業を営む者」なんて書き方がしてあるので
「骨董品を扱うお店の話?」
と思われる方がいるかもしれませんが、例えば中古車販売などの場合には古物営業の許可を受けていますので、中古品を扱っている業種であれば該当するケースもでてくるでしょう。
古物商が中古品を仕入する場合の注意点
ここからは古物営業の許可を得ている事業者(「古物商」)という前提で確認をしていきます。
古物商の方がインボイスなしでも消費税を差し引く処理(このことを専門用語で「仕入税額控除」といいます)を適用できる取引は
- 古物の仕入
- 棚卸資産としての仕入
- インボイス発行登録をしていない者からの仕入
のすべてに該当するものとされています。
では内容を順番に確認していきましょう。
古物の仕入
古物の仕入ということで、『そもそも「古物」って何?』という疑問が湧いてきます。
古物営業法という法律を確認してみると
第二条 この法律において「古物」とは、一度使用された物品(鑑賞的美術品及び商品券、乗車券、郵便切手その他政令で定めるこれらに類する証票その他の物を含み、大型機械類(船舶、航空機、工作機械その他これらに類する物をいう。)で政令で定めるものを除く。以下同じ。)若しくは使用されない物品で使用のために取引されたもの又はこれらの物品に幾分の手入れをしたものをいう。
となっていて(太字は筆者)
- 一度使用された物品
- 使用されない物品で使用のために取引されたもの
- これらの物品に幾分の手入れをしたもの
を指すようです。
なので一般的にイメージする「中古品」と理解しておけばよいでしょう。
ただ、ここで
「大型機械類(かっこ内省略)で政令で定めるものを除く」
と「古物」から除外されているものがあります。
念のためこの除外されているものを法律を確認してみると
- 船舶
- 航空機
- 鉄道車両
- 一トン超の機械で、溶接やアンカーボルトなどで簡単に取り外すことができないよう土地又は建造物に固定しているもの
- 五トン超の機械で自走できないものやけん引されるための装置がないもの
となっていました(古物営業法施行令第二条、わかりやすく文章は書き換えています)。
船・飛行機・鉄道や据付式の大型機械が対象となるようですので、一般的な中古品販売業の方にとっては、気にする必要はなさそうです。
棚卸資産としての仕入
結論から言えば
「他の方に販売する目的での仕入でなければ、インボイスなしでの仕入税額控除は認めない」
ということになります。
自社で使用するために購入した固定資産や経費としての仕入の場合には、仕入税額控除を適用するにはインボイスが必要です。
ただ、この棚卸資産に限定するという条件については、例えば中古車販売業者が棚卸資産として仕入れたものの、売れ残ってしまい営業車として転用した場合はどうなるんだろうか?という疑問は残ります。
調べた限りでは、こうした場合の処理ルールは見当たりませんので、今後取扱いについて情報が出てこないか注意しておきたいと思います。
インボイス発行事業者以外からの仕入であること
インボイス登録していない会社や個人の方からの仕入でも「仕入税額控除」を適用できるということになりますが、逆に言えば相手がインボイスを発行できる場合は、必ずインボイスをもらわないといけない、ということです。
そうなると仕入の際に、毎回売手の方に対して
「インボイス発行事業者ですか?」
と確認が必要となります。この点実務的には少々面倒かもしれません。
もし売手が、実はインボイスを発行できるのに、発行するのが面倒などの理由で
「インボイス発行事業者じゃありません」
と申告し、それを信用して処理したらどうなるか?
その後の税務調査において
「この仕入先はインボイス発行事業者ですよ。インボイス保存していないので仕入税額控除を否認します。」
となるリスクは、法律上はあります。
ただ、取引相手がインボイス発行事業者かどうか調べるには
で検索するしか方法がないのですが、ここで検索できるのは
「受取ったインボイス登録番号が本当に登録されているか」
という点のみです。
相手の社名や住所といった情報だけでは、インボイス登録事業者かどうか調べることはできません。
インボイス制度開始後の税務調査で、この点がどこまで厳しくチェックされるかは始まってみないとわかりませんが、自衛という観点からすると、相手にインボイス発行事業者かどうか確認したという証拠は残すようにしておいた方がよいのではないかと考えます。
インボイスへの対応検討はお早めに
今回は、古物営業の許可を受けている事業者が、インボイスなしで仕入税額控除を受けられるケースについて確認しました。
他にも帳簿に必要事項を記載するなど条件があるのですが、今回は割愛します。
詳細を確認したい方は、国税庁のインボイスQ&Aの問81や問85などをご参照ください。
インボイス制度については、古物商の中古品仕入だけでも、今回のように確認すべきポイントがいろいろとあります。
対応や準備は早めに開始して困ることはありませんので、是非準備を進めることをお勧めいたします。
投稿者
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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