確定申告のシーズンが近づくと、自分で申告を済ませるべきか、専門家に依頼すべきか悩む方が増えてきます。 今回は、自己申告がスムーズに進むケースと、逆にリスクが潜んでいるケースについて、実例を交えて整理しました。

確定申告を自分でやっても問題ないケース

みなさん、こんにちは。京都の税理士、加藤博己です。

この時期になると「確定申告は自分でできるかどうか」という話題をチラホラと耳にします。

身も蓋もない言い方ですが、個人的な結論としては「ケースバイケース」。

原則的なことを言えば、正しい申告には経理処理の知識と税金に関する法律の知識が不可欠です。

しかし実際には、そうした深い知識がなくても自分で完結できてしまうケースは確かに存在します。

例えば、会社員の方が副業で不動産投資をしているような場合です。

不動産の管理を管理会社に丸投げしており、そこから年間の収入と経費をきれいにまとめた表が送られてくる。こうした状況であれば、給与にかかる税金は会社が年末調整で精算してくれています。

あとは国税庁の「確定申告書等作成コーナー」などのサイトにアクセスし、源泉徴収票の数字と管理会社から届いた資料の数値を画面の指示通りに入力していけば、申告書は完成します。

ある程度、元となる数字がまとまっていれば、特別な知識がなくても「なんとかなる」ものです。

同様に、医療費控除を受けるための還付申告なども、領収書さえ整理されていれば、自分で行うハードルはそれほど高くありません。

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経理知識なしに申告すると危険なケース

その一方で、「事業所得」がある方の場合は、経理知識なしに独力で申告するのはかなり厳しいのではないかと感じます。

処理が複雑になる例として代表的なのが、我々税理士もそうですが、報酬に対して「源泉徴収」がされるケースです。

例えば、私が11万円(税込)の請求書を出したとします。実際に口座に入金されるのは、源泉所得税が差し引かれた99,790円です。

ここで経理を知らない方がやりがちなミスが、通帳の金額を見て

「預金/売上 99,790円」

という仕訳を切ってしまうこと。これは明確に間違いです。

売上はあくまで「11万円」で計上し、差し引かれた10,210円は「事業主勘定」や「仮払源泉税」といった科目を使って適切に処理しなければなりません。

もし消費税の納税義務もある場合には、入金額の99,790円を元に計算をスタートさせてしまうと、消費税の計算まで芋づる式に間違ってしまいます。

また、クラウド会計ソフト(例えばfreeeなど)を利用している際にも落とし穴があります。

よくあるのが、ソフト上で請求書を発行して自動的に売上仕訳を起こしているケースです。

実際に入金があった際、本来は発行済みの請求データと「消込(けしこみ)」作業をしなければならないのですが、これを知らずに入金時に売上として処理してしまうと、売上が二重に計上されてしまいます。

さらに、請求額の一部しか入金がなかった場合に、その差額をどう処理すべきか(正しくは一部のみ消し込む作業が必要になるなど)。

こうした細かな判断は、やはり基礎的な経理知識がないと、遭遇したときに対処するのは難しいものです。

ところがクラウド会計ソフトなどは、ある程度処理方法を「提案」してくれますので、ボタンを押すだけで、処理できてしまったように「錯覚」してしまうリスクがあります。

そうした誤った処理が積み重なると、税金計算の土台となる数字そのものが狂ってしまいます。この状態で申告を進めるのは、非常にリスクが高いと言わざるを得ません。

「今までこれで通ってきたし、問題ない」と思っている方もいるかもしれませんが、それは単に「まだ見つかっていないだけ」という可能性を忘れてはいけません。

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最終的には、状況を踏まえた総合的な判断を

とりあえず思い当たるところをつらつらと書き出してみましたが、やはり結論は「ケースバイケース」に戻ります。

今の時代、AIに聞けば申告書の書き方や操作方法は教えてくれます。

しかし、基礎知識が全くない状態だと、

「そもそも何を質問すればよいか分からない」
「回答は得られたけれど、具体的に自分のケースにどう当てはめていいか確信が持てない」

という事態が起こり得ます。

確定申告をご自身で行うかどうかの判断は、

  • 自身の置かれている状況(所得の種類や複雑さ)

  • 持っている知識の精度

  • 万が一間違っていたときのリスクを自分で負えるかどうか

といった点を総合的に勘案した上で、ご自身で申告にチャレンジするか、あるいは専門家を頼るかを判断していただければよいのではないでしょうか。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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