経理を担当されている方にとって、「この処理、ちょっと面倒だな」と感じる作業もあるのではないでしょうか。その一つが「源泉所得税」の記帳処理かもしれません。今回は、その必要性について解説します。

源泉所得税が出てくると記帳が面倒になる?

みなさん、こんにちは。京都の税理士、加藤博己です。

会社で経理をしていると、様々な場面でこの「源泉所得税」という言葉に遭遇します。

例えば、銀行預金の利息を受け取ったときや、弁護士や税理士などの士業に報酬を支払うとき、あるいはデザイナーやライターの方へ原稿料などを支払うときなどです。

これらの取引では、受け取る金額や支払う金額が、契約書や請求書に記載された金額とズレることになります。

受け取る側からすれば、本来もらえるはずの金額から税金が引かれていますし、支払う側からすれば、本来の支払い額の一部を、相手に代わって「預かり」、後で税務署に納めるという手間が発生します。

このような場合、単に「入金があった」「出金があった」と記録するだけでは、正しい税務上の処理とは言えません。

源泉所得税の金額を確認して、きちんと分けて記帳する必要があります。

経理を担当する人にとっては「面倒くさい」と感じるかもしれませんが、こうした取引には、会社の法人税や消費税の計算に影響を与える要素が含まれています。

今回は「源泉所得税」の記帳が、その後どのように税金の計算に影響するか確認していきましょう。

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源泉所得税をきちんと分けて記帳すべき理由

なぜ源泉所得税をきちんと分けて記帳しておく必要があるのでしょうか。これは、受け取るケースと支払うケースで、それぞれ理由があります。

受取時に源泉所得税が引かれているケース(預金利息など)

代表的な例として、銀行預金の利息が挙げられます。

利息を受け取る際、銀行側で源泉所得税(と復興特別所得税)が差し引かれた後の金額が口座に入金されます。

この差し引かれた源泉所得税をきちんと記帳しておくことが、重要な意味を持ちます。

法人税への影響:法人税の前払としての性質

会社が納めるべき法人税の計算において、この既に引かれた源泉所得税は、「法人税の前払い」として扱われます。

具体的には、一年間の法人税の金額を計算した後、この前払いした源泉所得税の金額を差し引くことができるのです。

つまり、源泉所得税が引かれた取引(預金利息など)を正確に集計しておかないと、本来差し引けるはずの税金を計算から漏らしてしまい、納めなくても良い税金まで納めてしまうという事態になりかねません。

厳密には法人税から差し引かなかった源泉所得税は、経費(損金)として処理されますので、全額損するわけではありませんが、通常は税額から差し引いた方が法人税は少なくなります。

だからこそ、預金利息などの記帳をする際には、入金額だけでなく、差し引かれた源泉徴収額も分けて記帳し、きちんと集計できるようにしておく必要があります。

消費税への影響:課税売上割合の計算

さらに、消費税の申告にも影響を及ぼします。預金利息は、消費税法上「非課税売上」に該当します。

消費税を計算する上では、課税売上と非課税売上を明確に区別し、「課税売上割合」というものを計算する必要があります。

この課税売上割合が95%未満になると、消費税の計算方法が変わり、納付する消費税額に影響が出ます(簡易課税が適用される場合を除きます)。

仮に10万円の預金利息が発生し、84,685円が口座に入金されたとします。

このとき、非課税売上として計上すべき金額は、84,685円ではなく10万円です。

もちろん、預金利息の非課税売上への計上額を間違っただけで、95%のボーダーラインを割り込むケースは稀でしょう。

しかし、非課税売上が他に多くある会社や、ちょうどボーダーライン付近にある会社にとっては、預金利息という小さな非課税売上も、課税売上割合に影響し、ひいては消費税の税額にも関わってくる可能性があります。

税務調査で指摘されると、消費税の修正申告が必要ということになりかねません。

そのため、消費税の計算上も、利息収入を非課税売上として正確に認識・集計するために、分けて記帳する必要があるというわけです。

支払時に源泉所得税を引くケース(税理士報酬など)

次に、税理士や弁護士への報酬、あるいは原稿料などを支払う際に、会社側が源泉所得税を差し引き、相手に支払うケースです。

この場合、会社は差し引いた源泉所得税を、相手に代わって税務署に納める義務を負います。

つまり、会社は一時的に「源泉所得税」を預かっているという状態になります。

納税義務の管理

この預かった源泉所得税は、定められた期日(原則として支払った月の翌月10日)までに、税務署に納税しなければなりません。

もし、報酬の支払い時に源泉所得税を差し引いたという事実を単なる「報酬の支払い」として一括で記帳してしまうと、会社がいくらの源泉所得税を預かっているのか正確に把握することができなくなります。

納税漏れや遅延は、不納付加算税などのペナルティにつながる可能性があります。

これを避けるためにも、報酬支払い時の記帳においては、報酬本体の金額と、差し引いて預かった源泉所得税の金額を「預り金」などの科目にきちんと分けておく必要があります。

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面倒な経理処理も「やるべき」理由はあるもの

源泉所得税の記帳は、たしかにひと手間増える面倒な作業かもしれません。しかし、今回見てきたように、その面倒な処理の裏には、

  1. 法人税の前払いとして税額からきちんと控除するため

  2. 消費税の計算に正確を期すため

  3. 会社が負う納税義務(預かり金の管理)を果たすため

といった、「やるべき理由」が存在しています。

特に中小企業の場合、経理部門が少人数であったり、経営者の方が自ら経理を兼ねていたりすることも多いでしょう。時間と労力を節約したいというお気持ちはよく分かります。

しかし、この「源泉所得税」の処理を正しく行うかどうかが、最終的な法人税額や消費税額に影響を与えたり、税務署からの指摘を招いたりするかどうかの分かれ道になることも少なくありません。

「面倒だから」と手を抜かず、「損をしないため」「将来のトラブルを避けるため」と理解して、日々の記帳に取り組んでいただければ幸いです。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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