今回のブログでは、私が少しガッカリした国税庁の新着情報と、そこから感じる税務行政のデジタル化に対する違和感について、お話ししたいと思います。

コンビニで申告書の印刷ができます!

みなさん、こんにちは。京都の税理士、加藤博己です。

突然ですが、税務署の「デジタル化」について、皆さんはどんなイメージをお持ちでしょうか?

e-Taxの普及や、マイナンバーカードを利用した手続きの簡素化など、国税庁もかなり力を入れているように見えます。

正直、紙での提出が減るのは大歓迎で、業務効率化の観点からもどんどん進めて欲しいというのが本音です。

しかし、先日、国税庁から公表された次の情報をみて、「あれ?」と。

国税庁:マルチコピー機で印刷できる申告書・申請書・届出書等

タイトルを見たとき

「お!自分で提出した申告書などをコンビニで印刷して確認できるようになったのだろうか」

と思い、一瞬スゴいなと感じました。

e-Taxで提出した申告書控であれば、e-Taxのメッセージボックスなどで確認はできますが、それ以外の書面で提出したものなどをコンビニで印刷して確認できるとなれば、これは非常に便利です。

特に、過去の申告書を確認したい場合など、税理士に依頼するまでもなく自分で対応できるのは、納税者の方にとって大きなメリットになるはずです。

ところが、説明を読んでみたところ、どう読んでもいわゆる白紙の書類を印刷できるというだけのサービスでした。

この点について、なぜ今、こうしたサービスを提供する必要があるのか、理由がよくわかりません。

こうした書類って、例えば所得税の申告書なら確定申告書等作成コーナーを使えば、紙の申告書を準備することなく、数字が入った状態のものを作れます。

電子申告ができない方であっても、作成後には、数字の記入が終わったものを印刷して提出も可能です。

また、届出書や申請書などは、国税庁のホームページでダウンロードできる上に、書類によっては入力用のPDFファイルまで準備してくれています。

パソコンとプリンターがあれば、自宅などで簡単に必要な書類が手に入るわけです。

正直、どういった方に需要があるのか、私にはよくわかりませんでした。

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税務行政はオンラインツールの活用に向かっているのではないの?

この「コンビニで白紙印刷」のサービスにガッカリした最大の理由は、税務行政のオンライン化・デジタル化の方向性と逆行しているように思えたからです。

最近公表されている国税庁の資料では、ようやく税理士や納税者とのコミュニケーションにおいて、メールやオンラインストレージの活用といった、最近では当たり前の方向性が示されています。

国税庁:税務行政におけるオンラインツールの利用について

当初は税務調査時に使われるにとどまるようですが、とはいえ、ようやくこうした方向性が出てきたか、と思っていた矢先に、今回の「コンビニで印刷」というサービスが出てきたわけです。

しかも、国税庁は、デジタル化を推進することを理由として、窓口での書類提出について「受付印を押さない」と言っているわけです。

国税庁:令和7年1月からの申告書等の控えへの収受日付印の押なつについて

これは、実質的に

「紙で出すなよ!」
「e-Taxで提出してくれ!」

というメッセージに他なりません。

e-Taxでの提出を促し、紙を減らす方向へと舵を切っているはずなのに、なんで今回、紙での提出を前提としたようなサービスが突然出てくるのか、理解に苦しみます。

紙の書類を印刷して、手書きで記入し、窓口で提出という、最もデジタル化から遠いプロセスを支援するようなサービスが、なぜ今、デジタル化を推進しようとしている(はずの)国税庁から提供されるのかなと。

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方針がフラつくと受け取る側は混乱する

国税庁の目指す方向性は、「e-Taxの推進によるペーパーレス化」であるはずです。

そうした中で、今回のような「紙ベースのサービス」が突然出てくると、現場は混乱します。

「結局、国税庁は紙を減らしたいのか、減らしたくないのか、どっちなんだ?」
「高齢者やパソコンを持たない人にも配慮している、ということなの?」

方針がフラついて見えると、納税者も税理士も、対応の基準をどこに置くべきか迷ってしまいます。

税務行政のデジタル化は、納税者の利便性向上と、行政の効率化という二つの大きな目的をもって進められています。

そうした方向性で進める以上は、一貫したメッセージと、目的達成に資する施策が必要だと考えます。

今回の「コンビニ印刷」サービスが、本当にその目的に資するのかどうか。

国税庁には、「税務行政のデジタル化によって、納税者や税理士にどのような未来をもたらしたいのか」というビジョンを、より明確にし、そのビジョンに基づいた一貫性のある施策を展開して欲しいものだと思います。

またこれって自分が仕事をする上でも同じなんでしょうね。

「できるだけ紙を減らしましょう」とお客さまに言っておいて、「これは紙で出してくださいね」といったことがないよう、注意しないといけないなと。

人である以上ブレることはゼロにはできませんが、大きな方向性としてブレないよう気をつけたいものです。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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