最近、税理士の業界団体から宗教法人格の売買について、注意喚起のメールが届きました。今回は、この問題の背景にある「宗教法人」の税務上の位置付けなどについて、整理しておきたいと思います。
宗教法人格が売買されている?
みなさん、こんにちは。京都の税理士、加藤博己です。
先日、税理士の業界団体からメールが届き、何かと思って開いてみると、文化庁からの注意喚起に関するものでした。
内容としては、宗教法人格が売買され、脱税やマネーロンダリングなどに悪用される事例があるため、こうした売買に関する相談があった際には注意を促すというものです。
ネット上では、こうした「宗教法人の売買」についての噂話は時折耳にしていましたが、文化庁がわざわざ注意喚起を行うということからすると、具体的な実例として存在し、看過できないレベルになっているということでしょう。
なぜ、こうした不正が起きるのかを考えると、「時代の変化による小規模な寺院の苦境」といったものが要因の一つではないかと個人的には見ています。
檀家が減り、法事などの需要も減る中で、運営が苦しくなってしまった小さなお寺が、こうした不正な取引の誘いに乗ってしまうケースもあるのではないでしょうか。
誤解されがちな「宗教法人の税金」の仕組み
この問題の議論をする上で、まず整理しておきたいのが
「宗教法人は全く税金を払っていない」
という、よくある誤解です。
簡単な例で言えば、宗教法人も「法人」なので、そこから給料を支払った場合には、一般の企業と同じように源泉徴収を行い、税務署に納税が必要です。
法人税については、宗教法人は法人税法上の「公益法人等」に分類されます。これは、学校法人や社会福祉法人などと同じ扱いです。
公益法人等については、どんな活動をしても法人税がかからない、というわけではありません。
「収益事業」といわれるものに該当する事業を行った場合には、その収益に対しては法人税が課税されます。
例えば、遊休地を駐車場として外部に貸し出すといった行為は、一般的に「駐車場業」という収益事業に該当しますので、この収益については法人税の納税が必要です。
「収益事業」の線引きはかなり面倒
ただ、実際の実務においては、「どこからが収益事業か?」という線引きはそれほど単純な話ではありません
例えばお寺や神社などで販売されているお守り、お札、おみくじなど。
これらについては、売価と原価の関係から見て
「実質的に寄付しているのと変わらないよね」
と判断されるのであれば、収益事業には該当しません。
その一方で、お寺や神社以外でも販売されるような絵はがき、線香、ろうそく、数珠などを、通常の販売価格で販売する場合には、収益事業(物品販売業)と判断されます。
この判定は非常に難しく、線引きは曖昧になりがちです。
私自身、お寺や神社に参拝した際、お土産物や物品の販売を見かけると
「これって収益事業として申告してるんだろうか?」
とかつい考えてしまいます。職業病ですね・・・。
また庭園などに入る際に、「入場料」ではなく、「参拝料」や「協力金」といった名称になっているものを見て
「これはあえて収益事業に該当しないように、こうした名称にしているのだろうか?」
と勘繰ってしまうこともあります。これも職業病ですね・・・。
制度を悪用しようとする側は、恐らくこうした曖昧な線引きを利用して、本来課税されるべき収益を非課税に見せかける、つまり脱税行為を行っているのだろうと推測しています。
今回はマネーロンダリングも問題とされていますが、宗教法人に一旦寄付した上で、別の所にお金を流すといった方法が採られているのでしょう。
制度の悪用は税制改正につながる?
今回の文化庁の注意喚起は、「これくらい問題ないだろう」と思って宗教法人格を売却することが、違法行為に加担することになるかもしれない、というものです。
そうした相談が来た際には、相談者の将来的なトラブルを避けるという観点も踏まえて、アドバイスする必要があるのでしょう。
今回の話は税金だけの問題ではありませんが、税制が悪用されるとそのような使い方ができないように改正が行われる、というのは今まで何度も繰り返されてきたことです。
こうした悪質な事例が増え、社会的な問題としてクローズアップされると、やがて
「宗教法人ひいては公益法人等に対する税制優遇措置が見直されるべきではないか?」
「税金がかからない部分にも課税すべきではないか?」
といった、税制改正に関する議論へと発展する可能性があります。
過去にも、優遇措置の悪用がきっかけで制度が見直された例は少なくありません。
税制については時代の流れとともに見直しがされますし、いろんな議論があってしかるべきだと考えています。
しかしながら「悪用を防ぐため」という理由で、改正がされるのはあまり気持ちがよいものではありません。
制度が悪用されることで、真面目に活動している多くの宗教法人が不利益を被るような事態は避けたいものです。
公益法人等への課税のあり方については様々な意見があると思いますが、「悪用を防ぐためではなく」、きちんとした形で真摯な議論がなされることを願っています。
投稿者

- 加藤博己税理士事務所 所長
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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