経理処理において残高が合わないことが多い科目のひとつに「預り金」があります。今回は預り金の経理処理の基礎について確認しておきましょう。
「預り金」の残高は意外とチェックされていない?
会計ソフトにデータを入力した後で、残高をチェックしないと正しい帳簿はできません。
こうした残高のチェックですが、預金や借入金であれば、通帳や返済予定表を見れば、月末時点での正しい(あるべき)金額をすぐに確認できるため
「チェックしないといけない」
という意識さえあれば、それほど難しいものではありません。
また固定資産についても、固定資産台帳がきちんと作成されていれば、あとは科目ごとに残高をチェックするだけです(不慣れな方にとっては、台帳のどの数字とあわせるのかわからないという問題はあるかもしれませんが)。
その一方で、「預り金」については、他の勘定科目と比べると残高のチェックをきちんとしていないというケースが多い気がします。
そもそも残高のチェックが必要と知らずに他の勘定科目も含めてチェックしていないケースもありますが、「預り金」については何と照合すべきかわかりづらいこともあり
「チェックしなくても大丈夫でしょ」
と放置しているケースもあるのではないでしょうか。
「預り金」の増減と残高の関係
「預り金」という勘定科目、意外と出入りが多く発生する科目です。
「預金」であれば、通帳を見れば入出金が逐一記録されているため、通帳と預金の元帳を照合することで、どこで差異が生じているのかすぐわかります。
ところが、「預り金」には「通帳」に対応するような基礎資料がないため、借方・貸方の出入りをどのようにチェックすればよいのかわかりにくいのでしょう。
基本的な処理を理解せずに、その動きを理解することはできませんので、今回は「預り金」について基礎的な部分を確認しておきましょう。
例として源泉所得税を取り上げます。源泉所得税については
- 給与を支払う際に、源泉所得税を天引きして預かる
- 預かった源泉所得税を税務署に支払う
という処理の際に動きが生じます。
具体的に
- 毎月の給料:20万円
- 扶養親族なし
- 社会保険料は無視する
という前提で数字を確認します。
給料支払時の仕訳は次のようになります。
給料手当 | 200,000 | / | 預金 | 195,230 |
預り金 | 4,770 |
この預かった源泉所得税を、翌月10日までに税務署に納付する必要がありますので、納付した際には
預り金 | 4,770 | / | 預金 | 4,770 |
と処理します。
3月25日に給料を支払って、4月10日に納税し、また4月25日に給料を払ったとすると預り金の残高は
3月末時点:4,770円
4月10日時点:0円
4月末時点:4,770円
と推移します。
これだけ見れば簡単ですが、源泉所得税の納税には「納期の特例」という例外があります。
1-6月分をまとめて7月10日までに納付、7-12月分を翌年1月20日までに支払うという制度です。
この制度の適用を受けている場合、年に2回しか納税が発生しません。
そのため1月以降毎月同額の給料を支払っているのであれば
1月末: 4,770円
2月末: 9,540円
3月末:14,310円
4月末:19,080円
5月末:23,850円
6月末:28,620円
7月10日時点:0円
7月末: 4,770円
という動きになります。
合わせるべき残高は給与の集計表などを見ればわかりますが、単月で合わせるのか、それとも累計で合わせるのかは源泉所得税の納税の仕方により変わります。
つまり自社の源泉所得税の納税方法を正しく理解していないと、合わせるべき残高がわからないということです。
さらに混乱するのが「年末調整」です。
もし年末調整のときに、12月分の源泉所得税徴収後の還付額が8千円だとすると
給料手当 | 200,000 | / | 預金 | 203,230 |
預り金 | 3,230 |
という仕訳になります(「預り金」は8,000円-4,770円で計算)。
毎月納付の場合は12月末の「預り金」残高は△3,230円ですが、納期の特例を適用している場合は20,620円(4,770円×6月-8,000円)となります。
源泉所得税だけでも、少なくとも上記の内容を理解していないと、正しい残高がなにか理解することは難しいものです。
実際には、他にも住民税・社会保険料も「預り金」で処理されることが多いため、それぞれの処理内容を理解した上で、さらに補助科目などできちんと内訳をわかるようにしておかないと、「預り金」の残高チェックはできません。
帳簿の残高は自動的に正しくなるものではない
会社に勤務して経理をしていた頃に、上司から
「貸借対照表のすべての項目について明細がないのはおかしい」
といわれたことがあります。
実際、貸借対照表の残高は様々な取引が積み重なったものであり、きちんと整理されているかどうかは別として、その内訳がないというのは管理上問題があります。
「預り金」も内訳はないとおかしいわけで、こうしたチェックにおいて手を抜くと帳簿残高が間違ったまま決算を迎えることになってしまいます。
政府の審議会などで、クラウド会計の普及による記帳レベルの向上といった話がありますが、「預り金」が正しくない帳簿を見る度に、クラウド会計が普及すれば記帳レベルが向上するというのは、あまりにも安易な考え方ではないと感じます。
クラウド会計を使っていても、誤った処理をすれば預金すら合わなくなることはよくあることです。記帳レベルの向上って、口で言うほど簡単ではないと思うのですが・・・。
記帳レベルの向上には、「何が正しい残高か」という点についての理解が欠かせません。
今回の記事がそうした記帳レベルの向上に、多少なりともお役に立てればよいのですが。
投稿者

- 加藤博己税理士事務所 所長
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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