当期の利益が見えてきて、想定以上に利益が出そうな場合に決算賞与の支給を検討する会社があります。従業員に支給するのであれば問題ないのですが、社長に払っても法人税は減りません。この理由を確認しておきましょう。

決算書と法人税を計算する上での利益は異なる

経理処理をした結果として、会社の利益が計算されるわけですが、利益についてはザックリといえば

売上-経費(仕入れ等を含む)=利益

という形で計算されます。

この利益に法人税率をかけて法人税を計算できれば非常にシンプルなのですが、残念ながら実際はそうではありません。

会計処理をする上では経費として処理するものの、法人税を計算する上では経費(専門用語で「損金」といいます)として認められないものがあったりするからです。

ご存じの方が多いであろう項目は「交際費」。

交際費としてお金を払ったのに、法人税を計算する上では経費として認めてもらえません。

仮に

売上 1,000
経費  800(内、交際費50)

とすると、帳簿上は

1,000-800=200

の利益が出ていますが、法人税を計算する際には

200+50=250

を元に税額が計算されます。

※中小企業の場合年間800万円まで経費として認めてもらえるので、ムチャクチャな使い方をしていなければ、交際費も法人税を計算する上での経費として認められます。

税務調査の場面などで最終的に

「これは経費として認められません」(という言い方をするかどうかは別として)

となった場合も、認められなかった部分の金額が、法人税を計算する際の利益に加算されて法人税が再計算されることになります。

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社長など役員に支払う報酬が経費(損金)にならないケース

このように会計上の利益と法人税を計算する上での利益は異なるわけですが、こうした差異が生じやすい項目のひとつが役員に支払う報酬です。

役職が変わったとか、業績が大きく悪化したというケースを除くと、法人税の計算上経費(損金)として認められる役員報酬は

  1. 毎月一定額を支払うもの(「定期同額給与」といいます)
  2. 事前に税務署に届出した内容で、届出した日に届出した金額を支払うもの(「事前確定届出給与」といいます)

の2つになります。

※もう一つ「業績連動給与」というものがありますが、中小企業で使うことはないと思いますので割愛します。

会社の当期の利益が見えてくると

「想定以上に利益が出そうなので、頑張ってくれた従業員に決算賞与を出そう」

という判断をされることがあるかと思います。

従業員に支給してもらうこと自体は何ら問題ありませんし、人手不足のこのご時世、従業員のモチベーションアップにつながる施策は悪い判断ではないでしょう。

なお、決算月の翌月に払う場合は、条件を満たさないと当期の損金になりませんが、この点も今回は割愛します。

で、問題は

「従業員に支払うから役員にも決算賞与を払おう」

というのが認められるのかどうか。

もちろん支払うこと自体は、きちんと手続きをすれば可能です。

ただしこの場合

  • 毎月の給与に手当として上乗せすると、決算月だけ普段の月と支払い金額が違うことになる → 毎月一定額の給与支払いではないため「定期同額給与」に該当しない
  • 給与とは別に支払った場合、事前に税務署に届出していない日に届出していない金額を支払うことになる → 「事前確定届出給与」に該当しない

ということで、法人税を計算する上では経費(損金)にならない点に注意が必要です。

さらに、法人税の計算上経費(損金)にならないことと、所得税の計算は別物です。

役員に決算賞与を支払った場合、受け取った側は所得税がかかりますが、法人税はまったく減らないという結果になってしまいます。

経営判断する上で、税金の計算がすべてではありませんが、利益が出そうなので節税のために決算賞与を出そうとする場合には、注意が必要ということです。

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会計と税金の違いには要注意

このように会計上の処理と税金を計算する上での取り扱いが異なるというケースはそれなりにあります。

税金の世界はわかりにくいものですが、会計上の利益にだけ気をつけていると

「こんなはずじゃなかった」

というケースは起こりうるものです。

特に会社で経理を担当される方などは

「これって税金を計算する上でも問題ないんだろうか?」

という視点は、アタマの片隅に常に持っておいた方がよいでしょう。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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