6月1日の安倍首相の記者会見において消費税率の10%への引上げの2年半延期が発表されました。

特に小売・卸売業のお客様について軽減税率の対応をどうするか頭を抱えていたのですが、結果的に少し時間の猶予ができました。

消費税の話題となると、一般の方にとっての関心事は「税率の引上げ」と「軽減税率」かと思いますが、税理士にとっては「インボイスの導入」も大きな関心事なのです。

1.従来の消費税の計算方法と必要要件

消費税の計算の仕組みはざっくり言いますと、売上時にお客様から預った消費税の合計額から仕入時に仕入先に支払った消費税の合計額を控除して納税額を計算します。

この仕入先に支払った消費税を売上時に預った消費税から控除するためには帳簿と請求書の保存が必要とされます(これを「請求書等保存方式」といいます)。

要するに、支払った消費税を控除したかったら帳簿をきちんと付けて、かつ請求書を保存しておきなさいということです。

(ちなみにインボイスが導入されるまでの消費税法においては売上側に請求書の交付義務を課す条文がないのですが、仕入側は請求書を保存しないといけないんです・・・)

2.インボイスって何?

これが平成33年4月1日からはインボイス方式といわれる「適格請求書等保存方式」に変更されます。

従来と何が違うかと言いますと、事前に税務署に登録した事業者だけがインボイスを発行することができ、仕入側はこのインボイスを保存しなければ支払った消費税の控除を認めませんよ、ということなんです。

なお、インボイスを発行するために登録した事業者にはインボイスの交付義務が課せられることになります。

インボイスを発行するために税務署に登録すると事業者は売上が少なくても消費税を納めなければならずこの点が消費税の免税事業者を取引から排除することになるのではないかと言われています。

(緩和措置としてインボイス導入後6年間は免税事業者からの仕入にも一部控除が認められます。)

なぜこんな制度を導入するのかというと、消費税率が複数(8%・10%)になると売り手と買い手の税額が一致する仕組みを導入しないと消費税が正しく計算されないのではないかという心配があるからなんです。

(8%の税率で仕入れたのに、10%で仕入れたことにして申告する人がでてくるのでは?ということです)

3.ヨーロッパでの思い出話

私は会社員時代にヨーロッパの子会社に出向していたことがありますが、あるとき当時の部下(現地の方)が「何度言ってもVAT番号をインボイスに書いてこないサプライヤーがいて困ってるんだ!!」と言っていたことがありました。

このVAT番号というのは、今後日本で導入されるインボイス発行事業者の登録番号に該当するものなのですが、当時ヨーロッパのVAT(付加価値税≒日本の消費税)の知識がなかった私はその意味するところが全く理解できずその話を完全にスルーしていました・・・

今回の消費税の改正を踏まえてやっと当時言われていた意味が理解できた次第です(実際の所、日本の消費税はヨーロッパのVATを後追いしていると言われています。)

中小企業でこうした登録事業者番号のチェックがどこまでできるのかという心配はあるのですが、大企業ではこうしたインボイスの不備に対するフォローに追われる方が出てくるのだろうと思います。

それでなぜ今回この話を取り上げたのかといいますと、軽減税率の導入については2年半延期すると明確に説明されているのですが、インボイスの導入時期については当初予定通り平成33年4月からスタートするのか、それとも2年半延期されることになるのか全くはっきりしていないんです

軽減税率の対応も頭が痛いのですが、税理士にとってそれと同等またはそれ以上に頭が痛いのがこのインボイスなのでその導入時期は非常に気になるところです。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち、7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。