「形」を整えることは入り口として大切ですが、それだけで満足してしまうと本来の目的を見失いかねません。今回は、ある公的資料への違和感をフックに、ビジネスにおける「本質」の大切さについて考えてみたいと思います。

「マンガでわかる」ってどういう状態を指す?

みなさん、こんにちは。京都の税理士、加藤博己です。

少し古い資料になりますが、国税庁が公開している「マンガでわかる新たに事業を開始した方向け インボイス制度の留意点」というパンフレットをご存知でしょうか。

この資料を初めて目にしたとき、正直な感想を申し上げれば

「……マンガって書いてあるのに、文字だらけやん!」

というものでした。

もちろん、制度を正確に伝えようとする熱意は伝わってくるのですが、とにかく文字が多い。パッと見て内容が頭に入ってくるどころか、どこから読めばいいのか迷ってしまうほどです。

本来「マンガでわかる」という状態は、絵による視覚的な情報が主役であり、補足的な少ない文字情報だけで直感的に内容が理解できるものを指すはずです。

すごいマンガ作品の中には、ほとんどセリフがなくてもキャラクターの表情や構図だけでストーリーや感情が伝わってくるものもあります。

それに対して、この資料は「文字による解説に、少しだけキャラクターの絵が添えられている」という印象を拭えません。

これでは「マンガ」という形式を採用したメリットが十分に活かされているとは言い難いのではないでしょうか。

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形だけマネしても同じ効果は得られない

なぜこのようなことが起きるのでしょうか。

おそらく作った担当者には「文章ばかりの堅苦しい資料では読んでもらえない、だからマンガ形式にしよう」という意図があったのだと思います。

しかし、その結果出来上がったのは「挿絵を入れただけの、いつもの解説文」でした。工夫しようとする姿勢自体は素晴らしいことですが、本質を理解せずに形だけをなぞっても、狙った効果は得られません。

これはビジネスの世界でも、非常によく見られる「落とし穴」です。

大きな話で言えば、かつて多くの企業が「トヨタ生産方式」を形だけ取り入れようとしたことがありました。しかし、その根底にある哲学を理解せず、ただ「カンバン」というツールだけを導入した現場は、かえって混乱を招くだけというケースも多かったのではないでしょうか。

身近な例でいえば、「会計ソフトを導入すれば経理がラクになる」という思い込みも分かりやすいでしょう。

会計ソフトはあくまでツールです。仕事の流れやソフトの仕組みをきちんと理解して導入しないと、「ソフトに入力するために、わざわざ手書きのメモを作る」といった本末転倒な事態を招き、結果として失敗してしまいます。

「マンガ」という形を借りても読みにくければ意味がないように、どんなに優れたツールも、使い手がその本質を理解していなければ、ただの飾りになってしまうのです。

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「表面的にマネするだけ」にならないようにするためには

では、私たちが「形だけ」の罠に陥らないためにはどうすればよいのでしょうか。

それは、まず「そもそも解決したい問題は何なのか」をしっかりと考えることです。

先ほどの国税庁の資料の例でいえば、解決すべき課題は、「新たに事業を始めた人が、文章だけでは制度を正しく理解してくれない」ことだったはずです。

もし「マンガ」という手段を使うのであれば、もっと具体的なストーリーを作って読者の共感を得る工夫が必要だったかもしれません。

あるいは、無理にマンガに固執せず、ポイントを絞った数枚のスライドに図解だけでまとめる方が、よほど「わかりやすさ」という目的を達成できたはずです。

何か新しい仕組みやツールを取り入れようとするとき、私たちはつい「導入すること自体」をゴールにしてしまいがちです。

「これを導入することで、誰の、どんな悩みが解決するのか?」 「その目的を達成するために、この形は本当に最適なのか?」

こうした点について事前にしっかりと検討することが、形だけ真似することを防ぐための第一歩です。

表面的な真似事ではなく、その裏側にある目的や意図、ロジックをしっかりと理解した上で仕組みを導入する。

そんな「本質を突いた仕事」を、私自身も常に心がけていきたいと思っています。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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