「自社の売上を分析したい」「新しい事業の計画を立てたい」と思ったとき、すぐに使えるデータは手元に揃っていますか?税理士に頼めば全部あると思っていると、いざという時に「そのデータはありません」となるかもしれません。

税理士がすべてのデータを持っているわけではない

規模の小さな会社の経営者の方だと

「税理士は会社の数字を何でも持っている」

と思われているかもしれません。

もちろん、決算書や申告書の内容については責任をもって把握していますが、経営分析に必要な「元データ」のすべてを税理士が持っているわけではありません。

以前、長年お付き合いのある顧問先で、経営者が代替わりされたときのこと。

新社長から「売上の分析をしたいので、過去の会計帳簿データを出してほしい」と言われたことがありました。

その会社については記帳代行を承っていましたので、こちらから会計データをお渡しすることは可能です。

ところが、この会社では、1ヶ月分の売上金額をまとめてもらい、それを月末に

売掛金/売上

として1本で計上する処理を行っていました。

そのためデータをお渡ししたものの、当然売上の分析には使えません。

会計帳簿上の売上は月ごとの合計額でしかなく

「どの顧客に」「どの商品を」「いくつ販売したのか」

といった詳細な内訳は一切わからないわけです。

販売管理ソフトを使って売上を管理していれば、税理士に聞くまでもなく販売内容の詳細を自社で把握できますが、この会社の場合はソフトを導入していなかったため、このようなやりとりが生じることとなりました。

記帳代行といっても、お客様からご提供いただいた請求書や領収書などの資料に基づいて会計帳簿を作成します。

そのため、税理士側が持っているデータが、会社側が持っている元データよりも詳細になることはありません。

もちろん、ぐちゃぐちゃの状態の資料をお預かりして、それを整理してキレイにまとめる、ということはありえます。

しかし、それはあくまでデータの「整理」であって、提供された情報を「分割」することはありません。

広告

何かを検討しようとすると必ずデータは必要

経営において何かを「検討」しようとすると、必ず客観的なデータが必要になります。

例えば

  • どの商品が売れ筋で、どれが不採算かを知るための「販売分析」
  • 会社の強みと弱みを把握し、進むべき道を決める「事業の方向性の検討」
  • 具体的な目標と行動計画を立てる「経営計画の策定」
  • 将来の入出金を予測する「資金繰り計画」

これらすべてにおいて、まずは「実態の分析」が不可欠です。

現状がどうなっているのかを客観的に把握しなければ、次の有効な一手は打てません。

「実態はよくわからないけれど、なんとなくこんな感じで」という意思決定では、ごく稀にうまくいくケースがあるかもしれませんが、成功する確率は低いでしょう。

そして、その「実態の分析」に不可欠なのが、業務における実績データです。

なお、分析したいと思っても、情報がすべて紙の請求書などのままでは、分析作業を行う前のデータ準備の段階でかなり時間をとられることになります。

近年、生成AIの進化により、紙の書類のデータ化については状況が変わりつつありますが、それでもまだ手間やコスト、正確性の課題は残るでしょう。

だからこそ、日々の業務で発生する情報を、あとで活用できる「データ」として手元に整備しておいた方がよいわけです。

まずは「紙ではなくパソコン上のデータとして持つ」という意識が第一歩です。

例えば、請求書は手書きでなく販売管理ソフトを使う、といった対応を進めていく必要があります。

広告

まとめるのはカンタン、わけるのはタイヘン

ここまでデータの重要性を強調してきましたが、注意点もあります。それは、どこまでデータを細かくわけておくかという点です。

「何に使うか具体的に決まっていないけれど、とにかくあらゆる情報を記録しておこう」というのは、多くの場合、時間と労力のムダです。使わないデータを作成・保管するコストは無視できません。

しかし、その一方で

「今すぐ使わないから、この情報は記録しなくていいや」

と判断してしまうのも、将来の可能性を狭めてしまうことになりかねません。

詳細なデータをまとめることについてはそれほど手間はかかりませんが、データをわけたいと考えた場合には、元の帳票などを確認してデータを作り直さなければならないことがほとんどです。

そのため、これらのバランスを意識して、日々のデータを蓄積していく必要があります。

例えば、会計ソフトに入力する際に

  • 補助科目を設定する
  • 部門でわける

といった情報を追加するかどうかを検討する際に、こうした点を意識しておくべきでしょう。

販売管理ソフトでいえば、顧客コードは当然必要ですが、商品コードをどこまでわけるかといった点が該当します。

まずは一度、自社のデータがどのような状態になっているか確認してみてはいかがでしょうか。

日々の業務データも会社の貴重な「資産」という点を意識しておきましょう。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
広告