「税抜経理」か「税込経理」により、消費税の計上タイミングが異なります。経理方式と消費税の関係について確認しておきましょう。

あなたの会社は税抜経理?税込経理?

消費税が導入されて以降、経理処理をする際には

  • 税抜経理
  • 税込経理

のどちらかを選ぶ必要があります。

消費税の納税義務がなければ税込経理一択ですが、そうでない場合はどちらにするか決めなければなりません。

税抜経理では、記帳する際に売上や費用を税抜金額で計上します。差額としての消費税は「仮受消費税」「仮払消費税」といった科目で処理します。

決算において消費税の最終的な税額が確定したら、仮受消費税・仮払消費税を精算して、未払消費税を計上します。

仮に

  • 仮受消費税:1,000
  • 仮払消費税:700
  • 未払消費税(申告書の納税額):280

とすると

仮受消費税 1,000/仮払消費税 700
           /未払消費税 280
           /雑収入          20

という処理を決算において行います。

税抜経理を採用した場合には、決算において仮受消費税・仮払消費税を精算して、支払うべき(もしくは還付を受けるべき)消費税を計上しなければなりません。

仮受消費税や仮払消費税という勘定科目が残った状態で決算を締めるのはマチガイということです。

その一方で税込経理の場合は、売上や経費を税込金額で計上し、仮受消費税や仮払消費税といった科目は使いません。

税務署に消費税を払った時点で租税公課などの勘定科目を使って、経費として計上するのが原則的な処理とされています。

※正確には「申告書を提出した日の属する事業年度」ですが、申告書を提出した事業年度=納税した事業年度 という前提で説明しています。

経理方式の違いによって生じる影響はいろいろありますが、そのひとつが固定資産の判定です。

10万円未満の消耗品であれば、固定資産に計上せずに経費として処理できますが、この場合の10万円未満とは税抜金額でしょうか?それとも税込金額でしょうか?

答えは、その会社が採用している経理方式による、です。

税抜経理を採用している会社であれば、税抜金額で10万円未満であれば経費処理可能ですが、税込経理を採用していると税込金額で10万円未満かどうか判定が必要です。

【参考】国税庁:No.5403 少額の減価償却資産になるかどうかの判定の例示

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経理処理で異なる消費税の計上タイミング

どちらの経理方式を採用しても、理屈としては会社の累計での利益は変わらないのですが、実際には影響はゼロではありません。

実は、税込経理を採用している場合には、消費税を計上するタイミングを選ぶことが可能です。

税込経理では消費税を税務署に支払ったタイミングで租税公課などに計上するのが原則と書きましたが、他の方法も認められています。

国税庁の以下のページに次のような解説があります。

No.6901 納付税額又は還付税額の経理処理

法人が申告期限未到来の納税申告書に記載すべき消費税等の額を損金経理により未払金に計上した場合または収益の額として未収入金に計上した場合には、その計上した事業年度の損金の額または益金の額に算入します。

回りくどい書き方ですが、要するに決算の時に「未払消費税」に計上するのなら、その決算に消費税を経費として含めます、ということです。

税抜経理の場合は消費税を計上するタイミングを選ぶことはできませんが、税込経理の場合は

  • 消費税を支払ったタイミングで計上(=翌事業年度)
  • 決算の時に計上(=当期の事業年度)

のどちらにするか選べるということです。

「別にどっちで処理しても同じでは?」と思うかもしれませんが、資本金1億円以下の法人などの場合、所得金額が800万円までは税率が15%、それを超えた部分には23.2%の税率が適用されます。

もし当事業年度の所得が800万円超で、翌事業年度の所得が800万円以下になることが予想される場合、当事業年度で未払消費税を計上するかどうかで、2年間累計の法人税額は変わる可能性があります。

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経理に不慣れな事業者のための措置?

なぜ経理処理の違いによって消費税を計上するタイミングが異なるのでしょうか。

きちんと調べたわけではなく、私の単なる推測ですが、恐らく経理に不慣れな事業者のための配慮から来ているのではないでしょうか。

特に意識せずに経理処理を始めると、税込経理になるケースが多いはず。

つまり経理処理に不慣れな事業者が、税込経理を採用するケースが多いと思われます。

そうした事業者にとっては、消費税を支払ったタイミングで費用(租税公課)処理するのが自然な流れであり、未払消費税の計上を原則としてしまうと対応できない事業者が多発する可能性があります。

そうした状況に対する実務上の配慮から、こうした違いが生じているのではないかと。

事業規模が大きな会社であれば、最初に説明した固定資産の判定基準の違いや、消費税の納税額を予測しやすいといったことから、税抜経理を採用していることが多いため、今回の内容が当てはまるケースと少ないと思われます。

ちなみに、税込経理を採用している個人事業者についても、消費税の計上タイミングを選べるのは同じです。

所得税は累進税率を適用しているため、消費税の計上タイミングによる税金への影響は大きくなる可能性があります。

消費税は経理処理に大きな影響を与えます。経理処理の違いによる消費税の計上タイミングの違い、ご注意いただければと。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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