会計ソフトをクラウド会計に切り替えるだけでは、業務効率化につながりません。業務フローを見直し、「入力作業をいかに減らすか」という視点を持つことがポイントです。

入力作業を減らすという視点

クラウド会計の強みとは

前回の記事で、記帳代行のケースにおいてクラウド会計を利用すべきか取り上げました。今回は、自社利用で導入する際の注意点について、確認しておきましょう。

昔ながらの会計ソフトでは、紙の請求書や通帳を一つひとつ確認しながら、手入力するのが当たり前でした。

Excelで出納帳を作成していたとしても、そのExcelデータを眺めながら、改めて会計ソフトに入力し直すというケースも少なくありません。

出納帳に限らずExcelデータがあれば、クラウド会計でなくても、データのインポート機能を使って多少の効率化は図れますが、Excelデータをどのように準備するかという問題は残ります。

クラウド会計の導入にあたっては、その強みである

  1. データの自動連携
  2. 自動仕訳ルール

を理解しておく必要があるでしょう。

データの自動連携は、銀行のネットバンキングやクレジットカードの利用明細を自動で取り込む機能です。

これにより、通帳や明細書を見ながら入力したり、Excelに入力してインポートするといった手間がなくなります。

しかしながら、単にデータを連携しただけでは、そのデータを見ながら勘定科目や摘要を入力して・・・となってしまい、従来の会計ソフトとそれほど変わりません。

そのため、データ内の摘要や金額を元に、この場合はこのように仕訳処理するというルールを設定しておくことが重要です。

これが2の自動仕訳ルールです。

銀行などのデータが会計ソフトに自動的に取り込みされて、取り込んだデータを元に自動的に仕訳を作成する。

このようにクラウド会計の特性を理解して設定をすることで、今まで人が行っていた「入力」という作業を大幅に減らすことが可能となります。

摘要揺れを防ぐことも入力作業の削減につながる

ちなみに、自動仕訳ルールを活用することで、会計データ内の摘要の「揺れ」を防ぐこともできます。

例えば、電気料について、手入力をしていると

「電気料 関西電力」
「8月分電気料」
「電気代」
「電気料金」

など、毎月帳簿上の摘要がバラバラになってしまうケースがあります。

あとで会計データを活用しようとしても、これでは必要なデータを取り出せないことになりかねません。

この点について、自動仕訳ルールを使うことで、摘要の表記揺れを防ぐことができます。

そもそも入力する際に「この仕訳の摘要は何だっけ?」と毎回考えるのも時間や労力の無駄です。

こうした考える時間も「入力作業」に含まれますので、自動化することで削減につながります。

このように、「できるだけ人が入力する項目をなくす」という視点を持ち、徹底的に仕組みを整備することが、クラウド会計導入の成否を分ける重要なポイントです。

広告

仕事のやり方を仕組みに合わせるという考え方

導入する際の考え方自体は、それほど難しいものではありません。

ただ実際にやるとなると、特に関わる人が増えるほど、意外とカンタンではなくなります。その理由は「従来のやり方を変えたくない」という意識です。

クラウド会計を最大限に活用するためには

「仕事の進め方をソフトに合わせる」

という考え方が不可欠です。

ソフトを導入する目的は業務を効率化することであり、実際こうしたソフトは効率化できるようなフローに基づいて設計されています。

非効率な手作業をなくすには、現状の仕事の進め方を、ソフトが最も効率的に動くように変えていく必要があります。

しかし、多くのケースでは、この考え方の転換が難しいのが現状です。

「今のやり方を変えたくないから、ソフトの方を今の業務に合わせてカスタマイズしたい」という声がよく聞かれます。

これは昔から日本企業に根強く残る傾向で、以前働いていた会社でEPRを導入する際に、システム会社の担当者が

「日本の会社はやたらとカスタマイズしたがる」

と話していたことを思い出します。

「ソフトを既存の業務に合わせてカスタマイズしたい」という発想のままだと、本来の自動化の強みを活かせず、結果として非効率な手作業が残ってしまいます。

最近では、会計ソフトベンダー自体が、「入力のしやすさ」をアピールするケースも増えてきました。

もちろん、使いやすさは重要ですが、それが行き過ぎると

「従来の入力作業の延長線上でいいんだ」

という誤った認識を与えかねません。

本当に重要なのは、「入力しやすい」ではなく「入力しなくても済む」という状態を目指すことです。

そのためには、ソフトが持っている自動化の仕組みを理解し、それに合わせて業務フローを見直すという考え方が欠かせません。

広告

導入するだけで効率化できるツールではない

わざわざクラウド会計を導入するとなった場合、在宅でも作業できるようにするなど様々な理由があると思いますが、その一番の目的は「業務の効率化」ではないでしょうか。

経理作業にかかる時間を大幅に短縮することで、より価値の高い業務、例えば経営状況の分析や将来の事業計画の策定などに時間を割くことができるようになります。

しかし、この目的を忘れて、導入のやり方を間違えてしまうと、

「会計ソフトを変更したら、なぜか仕事が増えてしまった」
「導入前よりも大変になった」

といった本末転倒な状況になりかねません。

クラウド会計は、導入するだけで効率化できる魔法のツールではありません。

導入する際には、こうした点を意識して導入計画を検討いただければと思います。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
広告