小規模な会社や個人事業主の方にとって、日々の経理業務は悩みの種の一つであり、税理士事務所に記帳代行を依頼するケースは多いものです。今回は、そうしたケースでわざわざクラウド会計を契約する必要があるのかという点について考えてみましょう。
目次
記帳代行ならクラウド会計は必要ない?
みなさん、こんにちは。京都の税理士、加藤博己です。
小規模な会社や個人事業主の場合、税理士事務所に記帳代行を依頼していることも多いでしょう。
当事務所でも、お客様の状況に合わせて記帳代行を承っています。その際に、私から「クラウド会計ソフトを導入しませんか?」とご提案することがあります。
このように提案すると
「記帳をお願いするのに、どうして月額料金を払ってまで会計ソフトを契約する必要があるんですか?」
と聞かれることがよくあります。
もっともな疑問だと思います。専門家に経理処理を任せるのに、なぜ自分でもツールを用意する必要があるのか。
これまで記帳代行といえば、お客様から通帳のコピーや領収書の束といった「紙の資料」をお預かりし、税理士事務所の会計ソフトに入力するのが一般的でした。
お客様は資料を渡せば、あとは専門家にお任せ、といった感じです。
この状況で「会計ソフトを契約してください」と言われても
「結局、税理士側が入力するのだから、会計ソフトの契約なんて不要では?」
という疑問が浮かぶのは自然なことだと思います。
それでも、こうした提案をするのは、単に税理士側の作業がやりやすいから、といったこちらの都合ではありません。
会計ソフトの会社から紹介料をもらえる、といった裏事情も(私の場合は)ありません。
クラウド会計というツールが普及することで、記帳代行についても状況は変わっていて、それに合わせて考え方も変えていく必要あります。
こうした点を踏まえて、私なりの理由を整理しておきます。
クラウド会計をオススメする3つの理由
記帳代行であってもクラウド会計の導入をオススメする理由としては、主に3つあります。順番に確認しておきましょう。
わずらわしい「作業」からの解放
毎月、あるいは数ヶ月に一度、大量のレシートを整理し、通帳の全ページをコピーし、封筒に入れて郵送する、もしくはメールに添付して送付する。
こうした作業は、地味ながらも意外と手間のかかる作業です。
クラウド会計を導入すると、銀行口座やクレジットカードを連携させるだけで取引データが自動で取り込まれ、通帳などのコピーは不要になります。
領収書も、スマホのカメラで撮影してアップロードするだけで共有可能です。
受け取ったその場で処理すれば、溜め込むことも、整理するための時間も必要もありません。
この「手間からの解放」は、本業に集中するための貴重な時間を生み出します。
自分の会社の「データ」を自分で見ることができる
「税理士に聞かないと、最新の会社の利益状況がわからない。」
みなさんの会社は、このような状況になっていませんでしょうか?
税理士事務所の会計ソフト内で記帳代行を行っている場合、実際にこのようなことは起こりえます。
クラウド会計であれば、パソコンやスマホから、いつでも自社の経営状況をリアルタイムで確認できます。
売上の推移や経費の内訳がグラフで分かりやすく表示されるため、「今、会社がどういう状況か」を直感的に把握できます。
「自分の会社の数字を、自分でいつでも見ることができる」という当たり前の状況を、記帳代行を依頼する場合であっても実現できるのがクラウド会計です。
不測の事態に備える「保険」
「頼んでいた税理士が病気になった」
「税理士が高齢で廃業することになった」
といった理由で、急遽税理士を探す必要があるという話を聞くケースが、最近特に増えた気がします。
こうしたケースで税理士を探す場合に、次の税理士からは
「過去の総勘定元帳を見せてください」
「今期の経理処理はどこまで終わっていますか」
といった質問が来ることになります。
もし会計データが税理士事務所のパソコン内にしかないのであれば、上記のような質問に対して「よくわからない」ということになる可能性があります。
クラウド会計であれば、データは契約者(お客様)の管理下にありますから、万が一、税理士を変更することになった場合でも、新しい税理士を招待して
「データはここにあるので確認してください」
とひと言伝えるだけで済むわけです。
私も税理士が1名のみの体制のため、上記のような不測の事態が起きる可能性はゼロではありません。
こうしたケースへの「保険」としてクラウド会計にしておきませんか、とご説明するケースもあります。
会計データの円滑な移行のためのリスクヘッジとして、クラウド会計を考えませんか、ということです。
「コスト」ではなく体制を整えるための「投資」と考える
ここまで、記帳代行であっても、クラウド会計を使用した方がよい理由をまとめてみました。
依頼者側からすれば、記帳代行の費用に加えて、クラウド会計の利用料まで発生するとなると、納得しづらい点はあるでしょう。
とはいえ、記帳代行を依頼するということは、そもそも経営リソースに限りがある状況だといえます。
だからこそ、経理処理にかかる時間を少しでも減らして、自社の状況を適時に把握できる状態を作っておくことは大事です。
「記帳代行を頼む際に、会計ソフトも契約する」という選択は、コストの重複ではありません。
日々の手間を省いて本業に集中し、自社の経営状況を主体的に把握し、万が一のリスクから会社を守るための「投資」といえます。
この記事が、あなたの会社の経理の体制を考える上で、参考となれば幸いです。
投稿者

- 加藤博己税理士事務所 所長
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大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。
40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。
中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。
現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。
さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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