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最近のRPAに関する記事などを見ていると、RPAを導入するだけですべて解決するような印象を持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実際に自分で使ってみた感想として、そんな単純なものではないということをお伝えしたいと思います。

最近のRPAに関する記事で削減時間ばかりが取り上げられるのはなぜ?

最近RPAの導入による成果を取り上げる記事が増えてきた気がします。全般的に好意的な記事が多いのですが、額面通りに受け取ってよいのか少し気になります。

記事のほとんどは、「(会社名)で業務が○○時間削減されました」という内容のものなのですが、導入や維持管理にかかる費用や実際に人件費をどれだけ削減したかといった内容についてはあまり触れられていないような気がします。

RPAの導入は人員削減というよりも、人手不足に対応するという側面が大きいため、人件費がこれだけ減ったという主旨のものが少ないだけかもしれませんが、人手不足に対応するためにはどれだけコストをかけてもいいという会社はまずありません。

仮にある会社でRPA導入により年間1,000時間の業務時間が短縮できたとします。

この業務をアルバイトの方が行っていて、時給が1,000円だったとすると、

1,000円×1,000時間=1百万円

となり、年間で百万円相当の費用削減効果があることになります。

このとき、導入費用として3百万円かかっていたとすると、投資の回収に3年かかることになります。

変化の早い時代ですから、投資回収に3年かけてもペイするものなのか、そもそもその時間を削減した業務が3年も続けるものだったのか、といった視点からの分析がなく、「とにかく全部で○○時間削減したんだ!RPAすごい!」という論調です。

RPAは業務の流れ自体を効率化してくれるわけではない

こうした内容の記事が多くなる理由としては、RPAが「自動化」のツールであるため、導入してロボットさえ作ってしまえば、必ず作業時間が短縮できるという特徴があるためでしょう。

導入さえすれば必ず時間短縮ができるので、ひとつのロボットによる作業の短縮時間が大きくなくても、人が多い組織であればその効果は累積で大きくなっていきます。

こうした事情から、大手企業などの導入事例が大々的に伝えられるケースが増えてきているのでしょう。

ただ、きちんと理解しておかないといけないのは、RPAというのは現状では「自動化」するためのツールであって、「効率化」するためのツールではないという点です。

『作業時間が短縮されればそれは「効率化」ではないのか?』という意見もあると思いますが、私個人の意見としては、それはあくまで力業での時間短縮であり、本当の効率化ではないと考えています。

RPAは「自動化」による時間短縮のツールとしては非常に強力ですが、現在の業務をそのまま「自動化」するだけで、元の業務の非効率的な部分まで自動的に見直して改善してくれるわけではありません。

例えば手作業で1回あたり10分かかっていた作業があるとして、RPAの導入により4分でできるようになったとします。

これにより6分の時間短縮ができたことになりますが、もし業務全体を見直して、この手作業自体をなくすことができれば、6分ではなく10分の時間短縮ができることになります。しかもRPAの導入費用をかけずにです。

こうした視点を持たずにRPAを導入してしまうことは、どうしても「力業の時間短縮」にしかなりません。

さらにいえば、力業で現在の業務を自動化した場合、将来的なロボットのメンテナンスに問題が生じないかという不安もあります。

もともとその作業を行っていた方がいる間は大丈夫ですが、いなくなったあとにロボットの修正が必要となると問題が生じるかもしれません。

その作業の意図がわからず修正に手間取るとか、もしくはロボットの中身を解析していったときに「なんでこんな作業をわざわざやっていたんだ?」といった状況に陥るリスクもあります。

最悪のケースでは、こうしたメンテナンスに時間と費用がかかりすぎて、「RPA使うのやめる!」ということになってしまうのではないでしょうか。

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RPAは業務プロセスを見直す機会として活用すべき

私自身はRPA導入の専門家ではありませんが、自分の仕事にどのように活用できるか研究しています。さらに大企業の中で、業務効率化のためのシステム導入といったことに現場部門の人間として関わってきた経験もあります。

そうした立場から考えると、最近の風潮に対して上記のような心配をしてしまいます。

個人的には、RPAの導入には賛成の立場です。ツールとしては非常に強力で可能性のあるものだと感じています。

しかしながら、導入するのであれば、それをきっかけとして業務プロセス自体を見直すべきだと考えています。

実際、日常業務に忙殺されていると、なかなか今やっている業務の流れが効率的かどうか見直す時間を確保することは難しいでしょう。

そうしたときに、外部の導入業者が入ってきて、強制的に打合せの時間を取らざるを得ないという状況は、見方を変えれば、業務を見直す時間を強制的に確保してもらっているともいえます。

せっかくですからこうした機会を活用しなければ、導入コストと時間をかけてまで導入する意味が半減してしまいます。

またこうした業務の見直しを導入時に行っておくことで、将来のメンテナンスコストの削減につながる可能性が高くなります。

RPAは導入すればすべてが解決する魔法のツールではありません。でも上手に使えば魔法のツールに化ける可能性があります。是非十分に活用されて、日本全体の生産性が向上すればと思わずにはいられません。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。

さらに、商工会議所での講師やWeb媒体を中心とした執筆活動など、税理士業務以外でも幅広く活動を行っている。
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