インボイス制度導入後、従業員への旅費支給についてはインボイスの保存が不要とされていますが、そこからタクシー・宿泊事業者のインボイス登録の必要性について検討してみましょう。

従業員への「旅費支給」だとインボイス不要

【2022.7.14更新】
当初この記事は「従業員の旅費精算時にインボイス不要なら、タクシー・宿泊事業者はインボイス登録不要か?」というタイトルで公開していましたが、私の理解に誤りがあり、不正確な内容の記事となっていました。今回タイトルを含めて全面的に書き直しましたので、ご了承いただきますようお願い申し上げます。記事の内容については、今後とも正確性を確保できるよう注意してまいります。


インボイス制度が導入された後であっても、インボイスの保存なしに仕入税額控除(税務署に支払う消費税を計算する際に、他の事業者に支払った消費税を差し引くこと)が認められるケースがあります。

そのうちのひとつとして古物商の仕入について以前取り上げました。

今回は、別のケースとして従業員への旅費支給について取り上げます。

結論から言いますと

「従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当等)」

については、インボイスがなくても帳簿に必要事項をきちんと書いておけば仕入税額控除が認められます。

※会社の旅費規定等に基づき、適正額を支給するといったケースが該当します。従業員による旅費の立替精算は該当しません。

会社が従業員に旅費を支給する際に、従業員がインボイス登録していないことを理由に仕入税額控除できないと困るでしょうから、特例としてインボイスは不要とされています。

従業員が立替した場合の旅費精算だとインボイスが必要

この特例については、国税庁のインボイスQ&Aの問85にて解説されていますが、考え方の元になっているのが消費税の基本通達11-2-1です(太線は筆者)。

11-2-1 役員又は使用人(以下「使用人等」という。)が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族(以下11-2-1において「退職者等」という。)がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に事業者がその使用人等又はその退職者等に支給する出張旅費、宿泊費、日当等のうち、その旅行について通常必要であると認められる部分の金額は、課税仕入れに係る支払対価に該当するものとして取り扱う。

(注)

1 「その旅行について通常必要であると認められる部分の金額」の範囲については、所基通9-3《非課税とされる旅費の範囲》の例により判定する。

2 海外出張のために支給する旅費、宿泊費及び日当等は、原則として課税仕入れに係る支払対価に該当しない。

太字部分からわかるように、特例として認められているのは、あくまで会社が旅費規程等に基づいて従業員に支給する適正と認められる出張旅費等についてのみです。

従業員が旅費を立替えた上で会社に請求する場合には、インボイスが不要とされる3万円未満の公共交通機関などを除いて

  • 従業員宛のインボイス
  • 従業員から会社宛の立替金等精算書

を保存しておく必要があるため、旅費を支払った相手先(タクシーやホテルなど)からインボイスをもらえなければ、仕入税額控除は認められません。

タクシー・宿泊事業者のインボイス登録登録判断は難しい

先日雑誌の記事に、インボイス発行事業者でないタクシーやホテルなどが発行した領収書等(≠インボイス)であっても、会社が旅費規程等に基づいて従業員に出張旅費等を支給する場合には、インボイスの保存が不要であるため、会社は仕入税額控除できる、という内容のものがありました。

これだけ読むと

「タクシー・宿泊事業者は無理にインボイス登録する必要はないのでは?」

と一瞬考えてしまうのですが、あくまでこの記事の内容は、支払側が仕入税額控除を適用できるか判定するための基準でしかありません。

タクシーや宿泊事業者からすれば、利用してくれる方が会社で精算する際に

  1. 旅費支給を受けているためインボイス不要
  2. 立替精算するためインボイス必要

のどちらに該当するか判定するのは不可能だからです。

では、タクシー・宿泊事業者がインボイス登録を検討する際の判定基準は全くないのかどうか。

ひとつの考え方として

  1. タクシー会社が取引先の会社と直接契約して、会社に対して直接請求している(タクシーチケットで運用しているケースなど)
  2. ホテルや旅館で、宿泊した個人ではなく会社に直接請求している
  3. 個人利用であっても、法人カードでの決済が多い

といった取引が多いのであれば、相手の会社が消費税を納税しているかによりますが、インボイス登録を検討した方がよいでしょう。

また、インボイスがなくても制度開始後3年間は消費税額の80%(その後3年間は50%)を控除できるという経過措置をどう考えるべきか。

非常に判断が難しいのですが、会社によってはこの経過措置により経理処理が煩雑になるのを嫌って

「インボイスを発行しない事業者を利用しない」

という方針を採るかもしれないという点は頭に入れておく必要があります。

このように、タクシー・宿泊事業者がインボイス登録の要否を検討する際には、かなり不確定要素がある中で決断を下す必要があり、難しい判断を迫られます。

インボイスについては事業者ごとに状況が異なり、明確に「こうすべき」といえないことが多いのですが、今回の記事も参考に自社としての対応をご検討いただければと思います。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち、7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。