インボイス制度導入後、従業員の旅費精算についてはインボイスの保存が不要とされていますが、そこからタクシーや宿泊事業者のインボイス登録の必要性について検討してみましょう。

帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるケース

インボイス制度が導入された後であっても、インボイスの保存なしに仕入税額控除(税務署に支払う消費税を計算する際に、他の事業者に支払った消費税を差し引くこと)が認められるケースがあります。

そのうちのひとつとして古物商の仕入について以前取り上げました。

今回は、別のケースとして従業員との間の旅費精算について取り上げます。

結論から言いますと

「従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)」

については、インボイスがなくても帳簿に必要事項をきちんと書いておけば仕入税額控除が認められます。

会社と従業員との間で旅費精算する際に、従業員がインボイス登録していないからといって会社が仕入税額控除できないと困るでしょうから、特例としてインボイスは不要とされています。

従業員の「旅費」精算にはインボイス不要

この特例については、国税庁のインボイスQ&Aの問82にて解説されていますが、考え方の元になっているのが消費税の基本通達11-2-1です(太線は筆者)。

11-2-1 役員又は使用人(以下「使用人等」という。)が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族(以下11-2-1において「退職者等」という。)がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に事業者がその使用人等又はその退職者等に支給する出張旅費、宿泊費、日当等のうち、その旅行について通常必要であると認められる部分の金額は、課税仕入れに係る支払対価に該当するものとして取り扱う。

(注)

1 「その旅行について通常必要であると認められる部分の金額」の範囲については、所基通9-3《非課税とされる旅費の範囲》の例により判定する。

2 海外出張のために支給する旅費、宿泊費及び日当等は、原則として課税仕入れに係る支払対価に該当しない。

太字部分からわかるように、特例として認められているのは、あくまで会社と従業員との間で行われる出張旅費などの精算についてのみです。

例えば、旅費以外の文房具や来客用の飲み物などを従業員の方が立替えて購入した場合。

このケースでは、会社との間で精算した場合であっても、従業員の方が受取った領収書等がインボイスでないと、会社としては仕入税額控除ができません。

(立替金の場合には、インボイスの他に別途従業員が作成した立替金精算書などの書類も必要となりますが、通常使用されている精算書フォーマットで対応できると考えます)

つまり

「従業員が立替して購入したからといって、何でもインボイスなしで仕入税額控除できるわけではない」

ので、誤解されないようご注意ください。

タクシー・宿泊事業者のインボイス登録について考えてみる

電車代や航空券については、そもそも

  1. 3万円未満の公共交通機関による旅客の運送
  2. 入場券等が使用の際に回収される取引(1に該当するもの以外)

という別のインボイス不要ルールがあるため、旅費精算の際に添付しない(できない)ケースも多くあります。

その一方でタクシー代やホテル代については、旅費精算の際に領収書等を添付することも多いでしょう。

この添付する領収書等については、インボイス発行事業者以外の事業者が発行したもの(つまりインボイスに該当しない領収書等)でも、会社は仕入税額控除できるという記事が先日雑誌に掲載されていました。

ここまでの話を踏まえて、タクシー・宿泊事業者(以下「タクシー等事業者」)がインボイス登録をすべきかどうかについて考えてみましょう。

会社と直接取引することが多いケース

例えばタクシー会社などが会社と直接契約していて、従業員などを乗せても請求はあとで会社に対して一括で行うようなケース(タクシーチケットという形で運用しているケースなどが該当します)。

またホテルや旅館であれば、会社名で宿泊予約して、請求は会社に直接するようなケース。

こうしたケースの場合は、今回取り上げた旅費精算の特例は適用されませんので、インボイスを発行しない場合、請求先の会社は仕入税額控除ができません。

相手の会社が消費税を納税しているかどうかにより状況は変わりますが、上記のような取引が多い場合は、インボイス登録をした方がよいケースが多いと思われます。

会社との直接取引がないケース

タクシー等事業者が、法人などとの直接取引がない場合。

いわゆる「流しのタクシー」であれば、会社の出張時に利用してもらう場合であっても、旅費精算の手続きで精算されるのであれば、インボイスを発行できなくても客足に影響はないものと思われます。

ホテルや旅館であっても、個人名で宿泊・支払してもらうのであれば状況は同じです。

ただしこうしたケースであっても、もし社用での利用時に法人カードが使用される場合は注意が必要です。

料金の支払が法人カードで行われる場合には、請求は直接会社に行くことになりますので、従業員が立替えたという形にはなりません。

そのため、インボイスを発行しないと相手の会社は仕入税額控除ができません。

法人カードを利用している会社では、もしかすると

「インボイスを発行できない業者との取引は極力避けること」

といった指示が出る可能性はあります。

法人カードでの決済が多いタクシー等事業者については、事業への影響を避けるためにインボイスの登録が必要となる可能性があります。


インボイスが不要となる旅費精算についての考え方を確認した上で、タクシー等事業者がインボイス登録すべきかについて検討しました。

インボイスについては事業者ごとに状況が異なり、明確に「こうすべき」といえないことが多いのですが、今回の記事も参考に自社としての対応をご検討いただければと思います。

投稿者

加藤 博己
加藤 博己加藤博己税理士事務所 所長
大学卒業後、大手上場企業に入社し約19年間経理業務および経営管理業務を幅広く担当。
31歳のとき英国子会社に出向。その後チェコ・日本国内での勤務を経て、38歳のときスロバキア子会社に取締役として出向。30代のうち、7年間を欧州で勤務。

40歳のときに会社を退職。その後3年で税理士資格を取得。

中小企業の経営者と数多く接する中で、業務効率化の支援だけではなく、経営者を総合的にサポートするコンサルティング能力の必要性を痛感し、「コンサル型税理士」(経営支援責任者)のスキルを習得。

現在はこのスキルを活かして、売上アップ支援から個人的な悩みの相談まで、幅広く経営者のお困りごとの解決に尽力中。